第二十一話 パーティー結成
「――絶対、ついていくべ」
断固として譲らない、という覚悟でウィンは宣言した。
うぅん、どうしたものか……
場所はマロウ家のリビング。昨日はあの一戦でフラフラになってしまったので、結局もう一泊させてもらった。そして今日は朝から昨日の戦闘の掃除に奔走し(当然ながら死体は消えたりしないので、取るものだけ取って荼毘に付した)、今は今度こそ最後の昼食を終えたところ。さてそろそろおいとましようかというタイミングで、ウィンが言い放ったのだ。
俺達についていく、と。
「あのねウィン、まだ初心者の私達が偉そうに言うことじゃないけど、冒険者っていうのは危ない職業なのよ?」
「そうだぜウィン。昨日のはたまたま上手くいっただけで、普通は死んでた。いつも棺桶に片足突っ込んで暮らすのは嫌だろ?」
俺達は言葉を尽くして宥めるが、ウィンは強い意思で首を振る。
「それでもいいべ。二人と一緒に冒険者やりたいんだべさ!」
「ウィン……」
ずっとこんな調子なのである。
参ったなあ……こいつ、一度決めたら頑固だし……
ウィンに危ないことをしてもらいなくない、という思いもあるが、それと同じくらいロイ爺さんとヘトレ婆さんのことが気掛かりだ。二人にとっては最愛の一人娘、こんな形で連れて行くわけには――
と。
「良いんじゃないかのう、それも」
豊かな髭を撫でつつ、ロイ爺さんは快活に笑いながらそう言い放った。
「そうだねえ。ま、ウィンがそうしたいなら、やってみると良いさ」
そして大らかな笑みを浮かべ、ヘトレ婆さんも頷く。
「爺ちゃん、婆ちゃん!」
「え、ちょ、いいの二人共!? 冒険者って、そんなに安全なもんじゃないんだぞ!?」
予想外の二人の言葉に、俺は思わず大声をあげる。
二人にとっては、ウィンはなにより大切な宝だろうに。
しかし、ロイ爺さんは鷹揚に答える。
「分かっとるさ。でも――子供はいずれ、親のもとを出て行かなくちゃならない。この子を引き取ったときから、それは覚悟してたことさ」
「あたしとしちゃ、てっきり嫁に行くもんだと思ってたけどねえ。まさか冒険者とは、ははっ。でもそれも良いさ、この良い子が初めて言った我儘だ、あたしらは黙って見送るよ」
「ヘトレお婆さん……」
全て受け入れて微笑む二人に、雫も言葉が出ない。
そんな二人に挟まれて、ウィンは今一度深々とテーブルに額をつけて懇願する。
「このとおりだべ! 精一杯足手まといにならんよう頑張る! だから、おらを連れてってくんろ!」
その気迫に、俺達は顔を見合わせる。
こうなったら、もう選択肢なんか無いよな……
「――分かった。一緒に行こう、ウィン」
「ほ、本当か!? やったぁ!」
「ただし! 私達の言うことはちゃんと聞いて、絶対に無茶しないこと! これは約束してね? 貴方になにかあったら、二人に顔向けできないもの」
「分かったべ!」
無邪気に喜ぶウィンの横で、二人がそっと頭を下げる。俺達も、誠意を込めて礼を返すのだった。
■
荷支度を済ませ、ウィンを加えた俺達はアケストの町へと戻る。
ウィンとマロウ家の別れは、意外とあっさりしたものだった。二人は一度ずつウィンを強く抱き締め、「いつでも戻ってきな」とだけ言って送り出したのだ。
そこに涙は無く、大仰な約束も無い。きっとそれこそが、この家族の信頼の証なのだろう。
ともあれ、三人でアケストに到着。遠いと言っても徒歩で一時間ほど、ウィンもたまには来ていたらしく意外と大人しくしてくれてたので、早速ギルドへと向かう。
「ええと、まずは襲撃の報告を済ませて、それからウィンを冒険者登録しねえとな」
「だね。となると、どっちも『プレイヤーズギルド』じゃなくて、『冒険者ギルド』の領域か。『プレイヤーズギルド』に併設されてるクエストカウンターじゃ無理そうだね」
本部に行かなきゃ、と雫。というわけで、同じギルドでも『冒険者ギルド』へ向かう。ややこしい。
と言っても、この『冒険者ギルド』の本部は『プレイヤーズギルド』と大通りを挟んだ向かいにある。クエスト部分を委託しているため、役割は冒険者の諸手続きに限られており、そういう理由で建物の規模は普通の二階建て店舗ほど。ドアを開け中に入ってみても、冒険者らしい喧騒は無く、完全にお役所の雰囲気である。
「んじゃ、手分けするか。俺は襲撃の報告済ませるから、お前はウィンの冒険者登録済ませてやってくれ」
「了解。ウィン、こっちだよ」
「わ、分かったべ」
ちょっと緊張気味のウィンを引き連れて雫はゆく。俺も空いてるカウンターへと並んだ。
――襲撃に関する手続きは割と複雑で、状況やら出てきたモンスターやらについて事細かに報告書を書かされることになった。その上後日現場検証が必要で(これには付き添わなくていいらしい。その点は安心した)、マロウ家にも事情聴取をした後、報酬が支払われるとのこと。
「なんていうか、大変ですね……」
「はは、すみませんな。だけど、このぐらいしないと、適当なモンスター狩ってきて、『襲撃を撃退したから報酬寄越せ!』なんて言う不届き者もいるもんでねえ」
真っ当な人にはご迷惑掛けます、と受付担当のおじさんは苦笑する。まあ、そういうことならば仕方無いだろう。
そんなこんなで結構時間を取られてしまったが、それはあちらも同じだったらしく、丁度同時くらいのタイミングでロビーに戻ってくる。
「おう、終わったか。そっちも苦戦したのか?」
「あーうん、ウィンが字がちょっと苦手でね。書類の記入が多かったから、手こずっちゃった」
「そっか。こっちも結構手間取らされたよ」
そう言えば、俺達が冒険者登録したときも記入事項の多さに驚いたっけ。
ちなみに、この世界でも使われている文字は日本語だ。おそらくは日本で作られたゲームが元なのだから、当然と言えば当然だが。
疲れたべ、とぐったりするウィンを励ましつつ、今度こそ『プレイヤーズギルド』の方へ向かう。ウィンの部屋も用意しなくてはなるまい。
二階の受付カウンターに直行するつもりだったのだが、一階の酒場に見慣れた顔を見付けたので声をかけていくことに。
「よ、鉄心。ただいま」
「あ? おお、誰かと思やあ農民どもじゃねえか。お早いお帰りだこった」
口の悪い忍者はかははと愉快そうに笑う。
「久々だってのに全開だなお前は……にしても珍しいな、昼間から酒場にいるなんて。一人か?」
「待ち合わせだよ。アイザックと麗華とカノン、久々に固定メンバー集まって探索に行こうってことになってる」
「ず、随分な豪華メンバーだね……」
雫がそう言うのも無理は無い。今名前が出た四人はギルドでも有数の実力者揃い、更に言うなら全員がギルドで講座を持っている講師陣だった。
「実質ただの面見せだがな。下手すりゃただ食って飲んで駄弁って解散するかも知んねえし。
で? そっちも見ねえ顔がいるようだが、なんだそいつ。パーティーメンバーか?」
「ああ、紹介するよ。こいつはウィンター・マロウ、今日から仲間になった、現地の子だよ」
「よ、よろしくだべさ!」
元気良く一礼するウィン。鉄心のことは一応話してあるけど、それでも初めて会う他の冒険者に緊張しているらしい。
が、鉄心はそんな挨拶ほとんど聞こえていない様子で、俺の言葉にぽかんと間抜け面を晒す。
「現地人……? もしかして、例の農家の子か?」
「そう。さっき冒険者登録してきたんだよ」
「はぁあ……オレも結構冒険者は見てきたが、現地人の、しかも農家の娘をパーティーに引き入れる奴は初めて見たぞ……」
「の、農家の娘じゃ駄目だべか……?」
露骨に悲しげな顔をするウィンに、鉄心は大慌てでフォローを入れる。
「あ、いや、そんなことねえんだ! 悪かった、なんも問題なんてねえさ。ただ珍しくって驚いただけだ。
よろしくな、ウィンター。オレは鉄心、枕木 鉄心だ。お前よかちったあ先輩だ、気が向いたら色々教えてやらあよ」
「うん! よろしくだべ!」
「かはは……」
さしもの皮肉屋も無邪気には勝てないらしい。




