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第十五話      太陽の恵み

 ――ギラつく真夏の炎天下、ひたすら胡瓜をむしること約四時間、俺達が受けた収穫依頼はようやく完了した。


 畑のそばに立つ依頼人宅で、今は労いの休憩タイム。俺達は並んでぐったりとテーブルに突っ伏す。窓を全開にしてもまだ蒸し暑い室内だが、近くの川で冷やしてきたという特製の野菜ジュースがそれを忘れさせてくれた。

 コップに注がれた赤い液体をぐいと飲み干す。自然な甘さと僅かな酸味が、渇いた身体を駆け巡る。


 くー、染み渡る……! これがあるから、農作業の依頼は結構好きなんだ。


 俺達以外受けているのを見たことがない、というレベルの不人気依頼だが、こうした依頼書に載らない報酬こそ素晴らしいのだ。確実に採れたて野菜を使ったまかないが出るし。


「二人とも、今日もよく働いてくれたねえ。助かるよお、この歳になると収穫が大変でねえ」


 そう言いつつ、依頼人であるロイ・マロウ氏はコップにお代わりを注いでくれる。白髪に豊かな白髭と、赤い服でも着ればすぐにサンタになれそうなご老人だ。

 ここマロウ家の依頼を受けるのももう何度目か、ここの温和な老夫婦からはもう「鋼ちゃん、雫ちゃん」と呼ばれる仲だ。


「あー、ありがとロイ爺さん。胡瓜良く育ってたねえ」

「今年は良い天気続きだったから豊作さあ。嬉しいやら大変やら。うちはトマト農家もやっとるから、まだまだ収穫は終わらないしのう」

「大変ですねえ。やっぱり他の冒険者さんは来てくれないの?」

「そうなんじゃよ雫ちゃん。やっぱり冒険者さんは実入りの良い狩りとかが好きらしくてのう、うちもこれ以上報酬は出せんしな」


 ふぅ、と残念そうに溜息を吐くロイ爺さん。可哀想だが、こればっかりはたまに手伝いに来るぐらいしか出来ないのが悲しいところだ。

 と、そこへ降ってくる快活な声。


「こらこら爺さん、折角来てくれた鋼ちゃんたちにそんな話聞かすんじゃないよ! ごめんねえ、この人文句ばっかりで」


 台所で振り向くのはヘトレ・マロウさん。御歳七十二歳とは思えない元気婆さんである。


「もーすぐご飯できっから、待っててなあ二人とも」


 そしてその横で料理の手伝いに勤しむのは、二人の養子であるウィンター・マロウだ。歳は俺達より少し下くらい、健康的な褐色の肌にそばかすが可愛い愛嬌のある子で、ショートカットのよく似合う働き者の良いお嬢さんである。


 こんな辺鄙な田舎暮らしだからか、無防備過ぎるのがちょっと難点だけどな……


 言ってるうちに料理が出来たらしく、ウィンターとヘトレ婆さんは早速皿を運んでくる。

 どうぞー、とウィンターが皿を置く際、そのタンクトップの隙間から剥き出しの肌が大胆にのぞく。その発展途上の膨らみかけまで見えてしまいそうでどきりとする。


 悲しいかな男の本能……! 目が逸らせない……!


 しかし厳しいのは幼馴染み。俺の邪心に即座に気付くと、耳を引っ張り強制的に視線を移動させる。


「あだだだだ! ごめんなさいごめんなさい! 俺が悪かった! 許してください!」

「? なにしてんだべ、鋼さん」

「全く……いいんだよウィンターちゃん。こっちの話」


 ふん、と鼻を鳴らす雫。俺に対しちゃ自分も割と無防備な癖して、厳しい奴である。

 で、今更だが皿に盛られたのは冷やし中華のようなパスタだ。正確にいうなら、細いパスタの麺で冷やし中華を再現したもの、と言うべきか。トマトに胡瓜に卵焼きにハム、野菜の具がやたら多いのは農家故だろう。


「この前雫ちゃんに教えて貰ったヒヤシチューカ、一家全員気に入ってねえ、この夏はこればっかりなのよお。さっぱりしてるし簡単だしね」

「わー、それは良かったです! またなにかあったらお教えしますね」

「お願いするわあ。ディアナの外からの料理って新鮮で面白いのよ」


 とまあ、そんな主婦トークもそこそこに、皆で一緒にいただきます。

 麺がパスタなので大分印象が異なるが、これはこれで非常に美味しい。やはり採れたて野菜がふんだんに使ってあるというのが良いのだろう。

 デザートには角切りトマトの蜂蜜漬け。極めてシンプルながらも良く合うのだ、これが。

 皆でそれを突きながら談笑していると、ふと思い出したようにウィンターが言う。


「そだ、鋼さん達、この先予定はどうなってんだべ?」

「予定? いんや、別に無いけど」


 強いて言うなら、あとしばらくはこんな風に気を紛らわせるような依頼をこなすだけだろう。

 鉄心の忠告もある。再び冒険をするかは、まだ俺達自身分かってない。


「だったら、また収穫手伝ってけろ! この時期はいっそがしいから、今度は泊まり込みとかどうだべ!?」

「あ、こらウィン! 無茶言うんじゃないよお馬鹿! 鋼ちゃんたちは冒険者なんだから、そんな毎日畑仕事ばっかできるわけないべ!」

「そうだぞウィン、無茶言っちゃいかん。気にしないでくれ二人とも、こうしてたまに手伝いに来てくれてるだけで、十分助かっとるんじゃよ」


 名案だと目を輝かせるウィンターを、二人が慌てて宥める。するとウィンターは「駄目だべか……」と見るからに萎んでしまう。


 うーん、罪悪感……


 っていうか、別にそれもありか。キツイ仕事ではあるものの、仲良くしてもらってるマロウさんとこの依頼だし、別に予定が無いのは本当だし。

 どうする、と目で問うと、雫は良いんじゃないと笑い返してくる。雫にとっても、この優しい一家と共に過ごすことは、きっと悪いことじゃないはずだ。


「その、俺達で良ければ手伝うよ。とりあえず一週間くらい、良ければ住み込みで」

「え!? い、いいのかい鋼ちゃん! で、でも報酬はそんなにいっぱいは……」

「いいよいいよ、いつもぐらいで。っていうか、いつもより少な目でも、なんだったら半分くらい現物支給でも良いし。なあ?」

「そだね。ギルドの宿代ももう払ってあるから、特に頑張ってお金稼ぐ必要も無いしね」


 自分達で言っておいて呑気だなあとは思うものの、現状衣食住が確保できれば満足なのは事実。少なくとも片田舎の農家から、ましてや日頃付き合いのある家から大金を巻き上げようだなんて思いは微塵も無かった。


 無邪気に喜ぶウィンターと、ありがとうありがとうと感激するマロウ夫婦に囲まれて、俺達の真夏の農業合宿が開催決定したのだった。


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