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第十一話      ダンジョンと『直感』

ダンジョン――ISODというゲームに於いても、その言葉が意味するところは、他のゲームにおけるそれと大体同じだ。形は塔であったり洞窟であったり巨大樹であったりと様々だが、中身はどれも迷宮のようになっていて、モンスターが蔓延り、宝箱やアイテムが転がっている。その最奥には主と呼ばれるボスがいて、そいつを倒すと一際豪華な宝箱を落とす――らしい。ゲームでは。


「こっちでも大体変わらねえよ。ただ、ボスが落とすのは宝箱の鍵で、宝箱自体はボス部屋の更に奥にあるってぐらいか。現実的に考えると、宝箱持ちながらじゃ戦えねえしな」


 アルフは歩きながらそう説明する。彼ら三人組は、今まで既に三つのダンジョンを単独でクリアしているらしい。


 若干軽そうに見えるけど、初心者にしては結構な実力者なんだよな、こいつら……


 改めてみると、パーティーとしてのバランスも決して悪くない。壁役の戦士ウォール、アタッカーの剣士アルフ、そして後衛の弓兵裕也。回復役が居ない点は短期決戦の戦法とポーションで補っているらしい。


 いつだったか、何故か戦士である雫を回復役としてスカウトしようとしてたくらいだから、その点は結構苦労しているのかもしれない。


「ちなみに、レベル三~四っつうとどんなモンスターが出るんだ?」

「よく見るのは野犬とか大蝙蝠とかの動物系、たまにこのレベルの強敵としてレッサーゴブリンが混じる感じだな。ま、みんな近接物理攻撃だから、気を付けてりゃそこまで怖くねえよ」

「まだ嫌らしい感じの敵は出ないわけだ」


 物理対策だけで進めるのならば少し安心。状態異常回復用のアイテムとか、雫の試作品くらいしか持ち合わせてないし。


 そんな会話をしながら歩いているうちに、周りの風景が少しずつ変化してくる。見渡す限り続いていた草原もいつのまにか途切れ、平坦だった地面は所々断層が顔を出すほど険しいものに。

 この地形の変化は、この世界に於けるダンジョンの生成に起因している。ISODに於いては、ダンジョンは文字通り「生えて」くるのだ。

 正確に言うのなら、このディアナの地では定期的に巨大な地殻変動があり、それによってダンジョンが地底から現れて地底に沈む。このようにして、ダンジョンは常に新しいものが生まれ続け、それに伴いダンジョン生成地の付近はこのように非常に険しい地形となるのだ。


 尖った岩場の急斜面を、重装備の雫を気遣いつつ登っていく。登り切って開けた視界には、延々と続く荒涼の地と、ぽつんぽつんと見える場違いな建造物があった。


 あれが、ダンジョンか……


 最低三階層、最大二十階層まで確認されている聞いていたが、こうして遠目に見ても想像より遥かに大きい。その威容に、胸の高まりと恐ろしさを同時に感じる。


「すげえな……あんなもんの中に入るのか」

「はっ、なんだよ鋼、びびってんのか?」

「ああ、びびってる。気は抜けねえな」


 浮ついた気持ちは危険を招く、引き締めねば。

 そんな俺の反応が意外だったようで、アルフは「そ、そうか」と苦笑する。


「ま、戦闘はオレらに任せて良いから、そんな怖がらずについてこいよ」


 言ったが早いか、アルフは一番近くのダンジョンを目指して崖を身軽に滑り降りる。ひゃっほー! とか言いながらウォールと裕也もそれに続き、俺達も慌てて追い掛ける。


 戦闘云々だけじゃなくて、地の運動能力が高いんだよな、こいつら……


 なんでも現実世界では三人ともスポーツマンだったらしく、その時点で俺達とは大差がある。俺は中学の頃こそ陸上部だったが、高校では帰宅部だったし、雫に至っては昔っから根っからのインドア派でゲーマーだ。

 二人して危なっかしくなんとか着地し、小走りでアルフ達を追い掛ける。


「おいおい、大丈夫か? ダンジョン入る前にへばんなよ?」

「う、うるせえ脳筋どもが。で、ここなのか」

「そ。今回は塔型のダンジョンだ」


 アルフはそう言って目の前の巨大建造物を示す。およそ四階層からなる石造建築で、外壁には古代彫刻を思わせる文様がシンメトリーに刻み込まれている。巨大な両開きの入り口の上には、文様に混じって「3」という数字が見える。この数字で、入る前に内部の敵の危険度が分かるわけだ。


「ええと、置き札は無いね。まだ誰も入ってないダンジョンなんだ」


 入り口の脇を確認して雫は言う。

 置き札、というのはプレイヤーズギルドが定めたダンジョン探索に於けるルールの一つだ。具体的には、ダンジョンに入る際に日付とメンバーを書いた札を入り口横に立て掛けておいて、探索状況を示しておくというもの。これによって、他の誰かがクリア済みのダンジョンに入ってしまう、ということも無くなるし、仮に行方不明になってしまった際も捜索の手掛かりになる、というわけだ。


「んじゃいつもの札に、ほら、お前らも名前書いて」

「ああ」


 ギルドが配布している木製の札に、俺と雫も名前を書き入れ、入り口脇に立て掛ける。

 よし、これにて準備は完了。


「行くぜ、お前ら。これが冒険者の醍醐味って奴よ」


 強気に笑うアルフに続き、俺達も初めてのダンジョンへと足を踏み入れるのであった。



   ■



 天井に等間隔で貼り付けられた魔法照明がダンジョン内部を弱々しく照らし、ほの暗いものの最低限の視界はある。窓は無いのだろうか、空気はよどんでいて僅かに湿り気を帯びていた。


 このレベルのダンジョンには大した罠は仕掛けられていない、とのことで、先頭を行くアルフは曲がり角などの死角にだけ注意してずんずん進んでいく。


「ペース早いな……アルフの奴、いつもこんな調子なのか?」


 俺と雫は最後尾でついて行きつつ、アルフパーティーで一番冷静な裕也に問う。


「んー、いや、いつもは流石にもうちょいマシなんだけどねー……良いとこ見せたくて張り切ってるっぽいな」

「そうなのか。だったら、お前からそれとなくペース落とすように言ってくれないか? 俺が言うと面子潰しちまいそうだし」

「りょーかい。その方が良いっぽい」


 早速早足でアルフに向かう裕也。慣れた調子からして、こいつがこのパーティーのブレーキ役なのだろう。

 しかし、裕也が話し掛けようとしたその時、不意にアルフは足を止める。そして手で全員に静止を促し、静かに剣を抜く。


 っ、接敵か……!


 アルフに倣い、全員が戦闘態勢に入る。すると案の定、通路の曲がり角から三匹の野犬が現れた。


「――野犬。レベル三、文字通り凶暴化した野生の犬。攻撃力は高めだけど耐久力は低く、攻撃も噛み付きと体当たりのほぼ二パターンのみ。物理以外の属性は全部弱点だよ」


 盾を構えて警戒しつつ、雫は冷静にデータを読み上げる。流石ゲームの方は相当やり込んだだけあって、序盤の敵の情報までばっちり暗記している。

 敵もすぐにこちらに気付いた。低い唸りを上げる野犬達に、アルフらは怯むことなく立ち向かう。


「一人一匹! やれるな!?」

「おうよ!」

「任せろ!」

「よし、行くぞ!」


 言ったが早いか、先ずはアルフが戦闘の一匹目掛けて斬りかかる。その鋭い斬撃は野犬の肩口から胸まで容赦なく抉り、一撃で一匹を絶命させる。


 一歩前に出たアルフに、残りの二匹が一斉に襲いかかろうとするが、それはこちらの二人が阻止する。右側の一匹は裕也が射抜き、左側の一匹はウォールがシールドバッシュで吹き飛ばす。ウォールが相手した一匹だけはまだ息があったらしく、震えながらも起き上がるが、そいつも構えなおしたアルフが走り寄り、胴体を一刀両断して見せた。


 時間にしてほんの数秒。手を出さなくてもいいと言われるまでもなく、俺達には手を出す暇すら無かった。


「はー……すげえな、お前ら。瞬殺だ」

「ははっ、まあな。こんぐらいの敵ならどうってことねえよ」


 誇らしげに胸を張るアルフ。大言壮語も虚言では無かったということか。


「ってかまた俺だけ倒せなかったしー。へこむわー」

「気にすんなよ、防御技なんだからしゃーないだろ。オレがちゃんと倒したしさ」

「アルフ、倒せたのは良いけど前に出過ぎだぞ。折角吹き飛ばしたんだから、安全にオレが射抜くところだったろ」

「悪い悪い、気合い入りすぎた」


 そう言いつつも悪びれた様子も無いアルフに、裕也はやれやれと首を振る。


 チームワークも出来てるんだな……三人いると戦略の幅も広がるようだし、こういうのを見ると俺達も新メンバーが欲しくなる。

 欲を言えば鉄心が入ってくれると滅茶苦茶心強いんだけど、あいつはいろんなところで引っ張りだこだからなあ。


 と、そんなことを考えているうちに、アルフ達は先へと進んでしまう。


「あれ? ちょ、お前ら、素材とか取らなくていいのか?」

「え? ああ、いいんだそいつは。肉は不味いし牙も爪も小さいから毛皮くらい取れないし、毛皮もごわごわで安値しかつかねえんだ」

「そうなのか……」


 なんとなく勿体無い気もする。せめて死体を有効活用しないと、完全に身を守るためだけの無駄な殺生になってしまうし。

 しかしその辺りは価値観の違いか。ここで言い合っても仕方無いので、若干後ろ髪を引かれつつ野犬の死体を後にする。


 ――その後はろくに戦闘も無く、道中アイテムを幾つか拾って(流石は元がローグライクなだけあって、ダンジョン内には剥き出しのアイテムが落ちてたりするのだ)、上階への階段を発見する。

 階段前で立ち止まると、裕也はこちらに問いかけてくる。


「っと、もう二階か……二人はどうする? 知ってると思うけど、ダンジョンは階層を進むごとに少しずつ難易度が上がる。つってもまだまだ余裕な範囲だけど」

「ここまで順調に来たんだから、行くっしょ? 折角だからボスまで拝もうぜ?」


 そして相変わらずやたらと強引に誘いたがるアルフ。


 さて、この先はどうするか……


 正直興味はあるが、予想外に戦闘が少なかったのでいまいち危険度が把握できていない。ついていきたい気持ちはあるのだが、安全を考えればこの辺で帰るべきだし――

 雫に視線で問うと、俺の優しい幼馴染みは困ったような苦笑を返してくる。


「んもう、そんなに行きたいならいいよ、行こっか」

「そ、そんなに行きたそうな顔してたか? 俺」

「目の前でお預けされたわんこみたいな顔だった」


 もー負けたよ、と大袈裟に肩を竦める雫。


 むぅ、なんか雫に手綱握られてる感じがして、こっちこそ負けた気がする。


 ともあれ、こうして俺達は先に進むことに。警戒は勿論緩めないが、更なる探索に胸躍らせて俺達も階段に足を掛け――

 と、その瞬間、だった。



「――みんな待ってッ!」



 片足を一段目に乗せた瞬間、雫は針のように尖った静止の声を挙げた。


 な、なんだ……?


 唐突な大声に全員が振り向けば、そこには今まで見たこと無いくらい真剣な――というより、切迫した表情の雫が、もう一度「待って」と繰り返す。


「ど、どうした? なんかあったのか?」

「この先、行っちゃ駄目。鋼だけじゃないよ、みんな引き返さなくちゃ危ない」


 微塵の迷いも無く、有無を言わせぬ口調で雫は言う。


「へ? お、おいおい、急にどうしたんだよ? なんか危なそうなもんとかあった?」

「ううん、そうじゃないけど――ただ、()()()()がした。凄く凄く、嫌な予感がしたの」

「予感って……」


 あまりに曖昧な言葉に、ノリノリだったアルフも露骨に脱力する。それもそうだろう、そんな根拠もなにも無いようなことを言われても挨拶に困る。


 ――普通なら、だが。


 俺は今一度雫の眼を見る。その眼光は変わらずいつになく真剣そのもので、嘘偽りは一切無い。


「ん、分かった。じゃあ悪いが俺もここで降りる。お前らもそうした方がいいぞ」


 俺も踏み出しかけた足を戻し、この先の探索を諦める。


「なっ、鋼までなに言ってんだ!? 折角ここまで来たのに、たかが『嫌な予感』で逃げ帰るってのか!?」

「たかが、じゃねえんだよ、アルフ。お前もISODをやってたんなら、パークってのは知ってるだろ?」

「はあ? そりゃ、知ってるけど……あれだろ? レベルが五上がるごとに貰える特殊能力のことだろ?」


 ゲームにおいては重要なものだったらしいし、アルフは当然その内容も理解している。


「じゃあ、キャラ作成時にも三つパークが得られるのも知ってるよな?」

「知ってるよ。それがどうしたんだって」

「それなら、この世界でもパークがあるってのは知ってるか?」

「え……」


 案の定これについては知らなかったらしく、アルフ達は絶句する。

 そりゃそうだろう、これはプレイヤーの中でもあまり知られていない情報だ。俺達が知ってるのも、たまたま鉄心が知っていて教えてくれたからだし。


「実はあるんだよ、この世界にも。ゲームと違って任意に振り分けることはできないけどな。元々personality perk――直訳すりゃ人格特典だから、プレイヤーの人間性依存で勝手に選ばれるらしい」

「で、でも、そんなの確認する方法も無いだろ。ステータス画面もねえんだから」

「確認する方法は一応あるんだ。裏技じみたやり方だが、自分自身を一つのアイテムとして鑑定士に鑑定してもらうと、簡単な健康状態と現在掛かってる各種補正が見られる。そこで確認できるんだよ」


 これはまるっきり受け売りだけど、と付け加えておく。ちなみにこのテクニックについては一部では『裏健康診断』と呼ばれているとか。

 俺と雫はどこぞのお節介な忍者に勧められて、既にその方法を試している。敵を知り己を知らば、という奴だ。


「で、結局何が言いたいんだよ。それがここで引き返す理由になんのか?」

「ああ。鑑定して貰った結果、雫は『直感』のパークを持ってた。たしかゲームでの効果は被クリティカル率の低下と、罠発見率の上昇って効果だったはずだが、この場合でも信用できると思うぜ」


 俺がそう言うと、アルフは少し考え込んだ後、「ちょっと話し合わせてくれ」とパーティーで相談を始める。


 ま、たしかにこれだけじゃ、引き返す理由としては弱いかもな……


 俺としては、仮にそんなパークが無かったとしても、雫の直感には従うけれど。というのも、昔からこいつは感がやけに鋭い方で、雫の言う通りにして危険を避けられた経験が何度かあるからだ。多分、そう言う感の鋭さから『直感』というパークが与えられたのだろう。


「ぶっちゃけ、結構やばそうなのか?」

「うん……気のせいだといいんだけど」


 そう言いつつ、雫は自分の直感を確信している様子だった。叶うなら全員で一秒も早くこの場所を抜け出したい、というのが横目でも見てとれる。

 が、しかし。アルフ達が出した結論は、その望みとは反していた。


「話し合ったんだけどさ、オレたちは行くよ」

「っ、そう……」

「雫の直感を信じないわけじゃないんだぜ? 『直感』パーク持ちなら信用できるしさ。でも、入るときにも言ったけど、この辺の罠は全部大したもんじゃないんだ。最悪でも一階分の落とし穴ぐらいだから、仮に引っ掛かっても大したダメージじゃない」

「だと、いいんだけど……」

「大丈夫だって! ちゃちゃっと攻略して、夜には酒場で戦利品見せてやるよ!」

「本当に気を付けてね? 危ないと思ったらすぐに抜け出してね?」

「分かった分かった、じゃあまた夜にな!」


 アルフは結局いつも通りの強気な笑顔でそう言って、二人を引き連れ階段の先へ。俺達はそれを見送り、足早に来た道を引き返すのだった。


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