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幕間         雫の攻略ノート その一

1.はじめに


 ――これは私がこの世界に来て学んだことを、可能な限り分かりやすくノートである。


 以下の情報の出典は『プレイヤーズギルド』運営の図書館を主として、所々先輩プレイヤーからの伝聞を交えている。故に多少の間違いはあるかもしれないが、それらは判明次第修正していく予定だ。


 そして、このノートをまとめる目的だが、一つは当然自分自身の情報整理のため。もう一つは、共にこの世界に訪れたとある初心者プレイヤーのためだ。彼のように、ISODというゲーム自体に詳しくない「本当の」初心者はどうやら珍しいらしく、図書館の資料などはそういった人種に対するフォローが少ない。そのため、「ゲーム知識が無い人間にも分かりやすい情報」の必要性を感じたのである。



2.基本知識


 まずはこの世界に於ける最も基本的な部分について述べていこう。


 最初に、ステータスについて。そもそも、この世界の元になっている(これについても諸説あるが、このノートに於いてはこの考え方で統一する)ISODには、まずはHP・MP・疲労度・空腹度という身体状況、次に大きく六つの基本能力、それからそれぞれのスキルについての習熟度という計三つのステータスが存在している。


 ISODではスキルの習熟度が上昇することによって、対応した基本能力も上昇し、基本能力の総和によってレベルが決定するというシステムであった。簡単に言うと、長剣を使い続けて習熟度を上げると、対応した基本能力である『腕力』が上がる、といった具合である。


 これらのステータスシステムだが、この世界でそれを数値化して確認することはできない。しかし、確認できないだけであって、存在はしているらしい。その根拠となるのが、経験を積んだプレイヤーたちの超人的能力である。この世界で一年間長剣を扱い続けたプレイヤーが、およそ三百キロの大岩を魔法やポーションによる強化無しで持ち上げた例もある。


 これは現実世界(これも異論のある言葉だが、このノートでは統一する)ではまずありえないことであり、このような事例から察するに、この世界に於いては「自身の素の能力」に「各種ステータス」の補正が掛けられているらしい、と結論付けられる。



 次に、レベルについて。上記のような仕様のため、プレイヤー側のレベルはゲームのISODに於いてもあまり意味は成さなかった。よって、ここで述べるのはモンスターのレベルについてである。


 この世界には、ISODからのモンスターのみではなく、新たに確認されたモンスターも多い。スノースライムの亜種である、ピンクスライムなどがその例だ。


 プレイヤーズギルドの図書館にある『モンスター大全』では、それらのモンスターにもレベルを表記している。これはモンスターの危険度を数値化したものであり、上記のステータスの総和という定義とは関係無いことに留意していただきたい。つまり、ゲームにおいては「レベルにしては強い/弱い」というモンスターが存在したが、新モンスターについてはそれが無いということである。よって、新モンスターのレベルは可能な限り確認し記憶しておくことが求められる。



 基本知識の最後としては、NPCの扱いについて述べておこうと思う。ゲームに於いては、NPCはごく一部の者を除いて全て日数経過で復活する仕様だった。しかし、この世界では現実世界同様、死亡したNPCは決して復活しない。このことは深く心に刻んでおくべきであろう。


 また、もう一つ特筆すべき点として、NPCはこの世界がISODというゲームを元にしたものだ、という自覚が無い。そのため、NPCの前でこの世界がゲームであるかのような発言は避けるべきである。

 これはプレイヤーズギルドの規約でも定められていることであり、なによりこちらが狂人扱いされかねないからだ。あくまで自らは特殊な異邦人である、という自覚を忘れずにいることが大切だ。



 ――と。

 雫がそこまで書き終えたところで、ノックの音と聞き慣れた声が廊下から響いてくる。


「雫ー、晩飯に行くぞー。早く出てこーい」

「はいはい、ちょっと待ってねー」


 ペンを置き、最低限の荷物を持って廊下に――出る前に、鏡を一度確認。顔、髪、着こなし。乙女の嗜みである。


 僅かなハネを櫛でなおし、それから雫は廊下に出る。そこには頭一つ分背の高い幼馴染みが、穏やかな表情で出迎えてくれた。


「よし、行こうか」

「うん」


 二人はそろそろ通い慣れてきた階下の酒場へと向かう。さりげなく歩幅を合わせてくれる優しさが、こんなときだからこそありがたい。


「あのね、鋼。私ね、今鋼のためにノートまとめてたんだよ。この世界について分かったことを、鋼でも分かるように書き記してるの」

「へえ? そりゃありがたい。じゃあ食事終わったら見せてくれよ」

「まだ駄目だよー、全然書いてないし推敲もしてないもん。もうちょっとまとまったら見せてあげる。それでね、ゆくゆくはそれを一冊の本にして、初心者ガイドとして出版するの!」

「来て一週間の初心者が大きく出たな……ま、でもそういうのも、あると便利かもな。気の長い作業になりそうだけど、必要なら手伝うよ」

「えへへ、最初の読者兼助手として、頼りにしてるからね」


 雫はそう言って、鋼に笑顔を向ける。鋼もまた「精々頑張るよ」と、温かな笑みを返すのだった


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