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第一話       チュートリアル

第一話  チュートリアル



 ――焚き木の音が、聴こえた。


 木が焼けて、時折ぱちりと爆ぜる暖かな音。最後にこの音を聴いたのは、たしか中学の頃のキャンプだったか――なんて、取り留めのないことを思いながら、俺は身体を起こす。


 あれ、と。

 ようやく俺は気付く。俺はたしか自室にいたはずだ。焚き木の音も、手に付いた土も、本来あるはず無いものだ。


 寝惚けまなこが一気に冴えて、俺は慌てて辺りを見回す。読んだままの漫画やら放置されたプリントやらで埋もれた俺の部屋はそこにはなく、代わりに広く薄暗い洞窟のような空間が広がり、その中央で焚き火が静かに熱と光を放っていた。


 そして、俺に背を向けて焚き火にあたる人影が二つ。


 ……夢、なのか?


 状況が飲み込めない。確か俺は、いや俺たちは、俺の部屋のパソコンでゲームをしていて――


「んっ……、ぅん……」

「んなっ」


 不意に背後から唸り声が響く。驚いて見てみれば、そこには俺と並ぶように、見慣れた顔の少女が寝転んでいた。


 背丈は小柄で体型は痩せ型、手足も細く贅肉も筋肉も無い様子ながら、何故か非常に重そうな胸。顔も大きな目がくりりと光る童顔だから、余計にアンバランスである。腰まで届かんばかりの黒髪を地面に流し、その少女――片桐 雫は寝苦しげに身をよじっている。


 こいつは俺の幼馴染みで、こうして目が覚める前に一緒にゲームをしていた相手だ。こいつならば何か事情が分かるかも知れない、と思い俺は雫を揺り起こす。


「おい、雫、雫! 起きろ馬鹿!」

「んん……あと二時間……」

「待てるか阿呆! いいから目ぇ覚ませ!」


 肩を揺さぶり、頬を幾らかぺちぺちと叩くと、雫はようやくその身を起こす。

 据わった目で伸びと欠伸を一つ。ふぅと一息吐いて、雫はそれからようやく口を開く。


「……ここ、どこ」

「知らねえのかよ︎⁉︎ 反応が遅えよ︎⁉︎」


 五秒くらいあったぞ。

 しかし、雫も知らないとなると、一体どういうことなのだろう。本当にここは夢の中なのか、あるいはそれ以上に不可解なことが俺たちの身に起きたのか――


 と。

 俺たちの間にすっと影が差す。いつの間にこちらに近付いていたのか、焚き火にあたっていた内の一人がそこに立っていた。


 青を基調とした民族衣装のようなものを身に纏った、長身痩躯の男である。ニヒルな笑みがやけに似合う端正な顔立ちで、しかしなにより目をひくのはその青い頭髪だろう。染め毛にもカツラにも見えない自然な青で、よくよく見れば眉も目も綺麗な青色だ。強いて言えば西洋人に近いが、この男は彼らともまるで違うように見えた。


「――目が覚めたかね、幸運なる旅人諸君。調子はどうだい。手足は動くか、肺腑は正常な呼吸を齎すか、心の臓は正しく脈打っているかね? ふふ、どうやら問題無いようでなにより。そうでなくては困る。君達のために我らリーネランの使者はわざわざ急ぐ旅路の歩みを止めたのだから」


 まるで台本でも用意してあるかのように大仰に、男は俺たちに語りかけてきた。

 って、この台詞――


「饒舌が過ぎるわ、ラナイ。彼らは死にかけていたのよ?」


 焚き火の方から澄んだ女の声が宥めに入る。呆れ混じりの声音からして、この男は常にこんな調子なのだろう。


「おや、失礼。あまりに元気そうだったので失念していたよ。しかし確かにそうだ、混乱もしていよう。君達に今すぐここから出て行けというのも酷だ、少し休んで行くといい。

 して、その見慣れない格好からして、君達はこのディアナの地の者ではなさそうだな。君達さえ良ければ、休んでいる間にこのディアナでの歩き方について多少教授することくらいはできるのだが?」

「あ、いや、あの」


 俺も雫も、戸惑いのあまりうまく返答出来ない。それはなにも、男の饒舌ぶりに気圧されていたからでも、次々と出てくる聞きなれない単語が理解できなかったからでもない。


 むしろ、逆。その単語を――否、この初対面のはずの二人の台詞を知っていたからこそ、反応できなかったのだ。


 しかし男は俺たちの態度を肯定として受け取ったらしく、ニヤリと妖しげな笑みを浮かべて言い放った。


「よろしい。では、チュートリアルを始めよう」



   ■



『ISOD』と聞けば、パソコンのフリーゲームに多少でも馴染みのある人ならばぴんと来るのではないだろうか。


 正式名称は『Incomplete Story Of Diana』、もう十年以上前にα版が出たゲームでありながら、未だにプレイヤーの絶えない名作2Dローグライクゲームである。特筆すべきはその自由度、『普通のゲームは金庫の中身を漁るが、ISODでは金庫ごと盗みだす』という言葉が全てを示しているように、およそ思い付くことの斜め上を行くほどやりたい放題なのだ。


 残念ながら、本家ISODの開発は第一部の完結に伴って終了しているが、ヴァリアントと呼ばれるファン作成の改造版作品の開発は未だに盛んであり、ISODにはまだまだ根強いファンが多い。


 ――と、雫が一通り説明を終える頃には、俺のパソコンには解凍されたISODのファイルが表示されていた。


「で? 解説は結構だけどよ、結局面白いのか?」

「人を選ぶんだよね、このゲーム。まず操作性に慣れるのが結構難しいし、チュートリアルからえげつないし。一回嫌になってファイルをゴミ箱に捨てるまでがチュートリアル、なんて言われたりするぐらいだしね。でもそこを越えると廃人になりかねないくらい面白いんだよ」


 雫はいつになく熱っぽく語りながら、俺の肩越しにマウスを奪い勝手にISODを起動させる。


 この体勢、背中にがっつり乳が当たってんだけど……


 気付いてないのか意識してないのか、どちらにせよ健全な男子高校生である俺にとっては嬉し恥ずかし危険な状況である。言わないけど。


「ほら、始まったよ。キャラ作成から」

「あ、ああ。えーと……なんだこりゃ、種族が色々あるな。どうすりゃいい?」

「やりたいことによる。剣振り回す脳筋プレイがしたいとか、魔法ばんばん使う魔法使いプレイがしたいとか、あとは農家やりたいとか鍛冶屋やりたいとか、なにか希望は? あ、ナメクジは縛りプレイ用だから選ばない方が良いよ」

「ナメクジって……しかし、鍛冶屋とかまであるのか。んー、でも俺はやっぱり魔法使いが良いな」


 俺の選択に、雫はくすりと笑みを漏らす。


「だと思った。鋼は大抵のゲームで魔法キャラ使うもんね」

「良いだろ、別に。普通は魔法便利だしさ。このゲームだとどうなんだ?」

「便利だよ、普通に強いしね。ま、最終的には物理が強いらしいから、私は完全脳筋キャラ作ったけど。えーと、魔法使いだと種族はリーネランが良いかな。物理耐久は紙だけど、魔法に関してはトップクラスだよ」


 これ、と雫はキーボードを叩いて所謂エルフ然としたドット絵と説明を表示させる。


『リーネランは魔法に長けた長命の種族です。基本的に人里を離れた山岳に小さな集落を作り、狩りと魔法の研究にその長い生涯を費やします。身体の耐久力は脆弱ですが、それを補って余りある魔法の才を発揮することでしょう』


 成る程、典型的な魔法キャラって感じだな……


「んじゃこれで。次の職業は、普通に魔法使いで良いか?」

「魔法剣士で耐久力補うってこともできるけど、魔法一本で行くならそれで良いよ」

「了解、魔法一本で。それで、あとは名前か。普通に鋼で」

「よし、キャラは決まったね。にしても、やっぱりリーネラン選んだかー」


 なにやら意味深な笑みを浮かべる雫。にやにやとやたらご機嫌である。


「? んだよ、なんか問題あるのか?」

「いや、そうじゃなくてね。このゲームのチュートリアルで、特徴的なリーネランの男が出てくるからさ、それを見たらどう思うかなって」


 ほらほら、と雫は画面を見るように促す。そしてぐいぐい乳が当たる。お前のせいで集中できねーよ。


 しかし適当にやると雫が拗ねるので、気を取り直して画面に向かう。他にも幾つか細々したことを決め終わると、専門用語満載で分かりづらいプロローグが始まる。纏めると「俺こと主人公はディアナ大陸に密入国しようとしていたが、乗り込んだ飛行船が荒天で墜落。気付いたら見知らぬリーネランの二人組に助けられていた」ということらしい。


 目が覚めるとそこは広い洞窟で、中央の焚き火には例の二人組がいる。主人公が目を覚ましたのに気付くと、二人組のうち男の方が話し掛けてくる。


『――目が覚めたかね、幸運なる同胞よ。調子はどうだい。手足は動くか、肺腑は正常な呼吸を齎すか、心の臓は正しく脈打っているかね? ふふ、どうやら問題無いようでなにより。そうでなくては困る。君のために我らリーネランの使者はわざわざ急ぐ旅路の歩みを止めたのだから』



   ■



「――さて、ではまず最も基本的な事項である食について。当然ながら飢えれば死ぬ。簡単に手に入れられる食料が必要だ。そこで私のおすすめはこれだ」


 青髪の男――ラナイはそう言って、焚き火で炙っていた二本の串を俺たちにそれぞれ渡す。串には香ばしい匂いのする焼けた肉が刺さっていて、見た目も香りも食欲をそそる。


 だ、だけどこれ……


 俺と雫は顔を見合わせる。馬鹿馬鹿しい符合だが、少なくとも目覚めてから今までの流れは、ISODのチュートリアルと全く同じだったのだ。この肉もその一環だとしたら――


 戸惑いから立ち直るのは雫の方が早かった。雫は意を決してラナイに問い掛ける。


「え、えと、ラナイさん。これ、なんのお肉ですか……?」

「ん? なんだ、気になるかね。食べた後に見せるつもりだったのだが」


 ラナイは少しつまらなそうにそう言うと、自分の両手の人差し指と親指で長方形を作る。そしてなにやら小声で呟くと、その虚空を切り取った長方形がまるでディスプレイのように映像を映し出す。


「っ、魔法……」

「なんだ、魔法を見るのも初めてか? 今日日珍しいな。まあこれは大した物ではない、映像に集中してくれ給え」


 驚く俺たちをよそに、魔法のディスプレイはとある草原を映し出す。画面は何かを探すように揺れ動き、少しすると遠くに真っ白な生物を捉えた。


「スノースライム……」


 思わず言葉を漏らしたのは雫だ。これはISODにおいてはマスコットキャラクターらしく、こいつにとっては馴染み深いのだろう。


「おや、流石にこれは知っているか。結構。一応説明しておくと、このスノースライムはこの地方によく見られる半個体の生物だ。このように非常に愛らしい容姿で、なおかつ人懐こいため愛玩動物として飼育されることも多い。野生のものは人を襲うこともあるが、まあ長い棒でも一本あれば撃退できる可愛らしい奴さ。そしてなにより覚えておくべきは、肉を焼くと中々美味だと言うことだ」

 言ったが早いか、画面の中の可愛らしい白いスライムに、光の矢が鋭く刺さる。スノースライムはその一撃で身体を半分吹き飛ばされて、白い体表とピンクの中身が生々しいコントラストを描いていた。


 ちょっとしたスプラッタ映像に、俺と雫は絶句してしまう。


「この映像は私が先程スノースライムを仕留めた時のものだ。君達が目を覚ましたときのためにわざわざ狩ってきたのだよ? ほら遠慮することは無い、存分に命の味を楽しみ給え」

「う……」


 ニヤリと促され、俺は改めて手元の肉を見る。匂いも見た目も変わりはしないが、食らいつく気にはなれない。おそらく、豚の屠殺現場を見せられたりしたら、今の俺のような気分になるのではないだろうか。


 固まる俺たちに、女の方のリーネランが助け船を出す。


「はぁ……悪趣味が過ぎるわよ、ラナイ。慣れてない人にそんなものを見せれば食欲も失せるわ」

「おや、そういうものかね。それは失礼した」

「全く、少しは悪びれてちょうだい。――ごめんなさいね、二人とも。彼も悪気は無いの、多分」


 女のリーネランはそう言ってこちらを向く。彼女もまた青を基調とした民族衣装のようなものを身に纏い、しかし髪色は燃えるような赤だ。顔立ちはどこか儚げな美人と言った雰囲気で、ニヒルな笑みが似合うラナイとはかけ離れた印象を受ける。

 これがゲームと同じだとすれば、彼女の名前はルーシアス。


「無理に食べろ、とは言わないわ。でも、生きていく為には必要なことだから、わたしとしても頑張って食べて欲しいわね。この先は自分で狩りをする必要もあるでしょうから。

 あぁ、自己紹介が遅れたわね。わたしはルーシアス。リーネランよ」

「っ、やっぱり……」

「? やっぱり?」

「あ、い、いえ! なんでもないです!」


 慌てて誤魔化す雫。


 しかし、本当に「やっぱり」ってとこだよな……これは夢か、幻か。俺たちはまたも顔を見合わせるが、答えなど出ようはずもない。現状どうすることもできないので、ルーシアスに倣いこちらも自己紹介をする。


「ええと、俺は鋼。黒金 鋼だ」

「私は雫。片桐 雫です」


 こちらの名乗りが済むと、ルーシアスは穏やかに微笑み、ラナイの方は興味深そうに小さく頷く。


「成る程、その名前、やはり異国の地の者か。鋼、といったか。君はどうやらリーネランのようだが、このディアナの外の同胞に会えるとは、全く奇妙な巡り合わせだな」

「え? あ、まあ、はい」


 どうやら俺は実はリーネランだったらしい。初耳である。

 これ、つまりゲームで作ったキャラクターってことだよな……? ってことは。


「雫、貴女は獣人ね。ええと……牛の獣人かしら?」

「む、胸見て言わないでください!」


 ただの獣人で良いですぅ! と叫びながら胸を隠す雫。まあそう言われもするだろうに。


「っくく、まあまあ、そう怒らないでやってくれ、彼女も悪気は無いのだ、多分な。コンプレックスはあるかも知れないが」

「ラナイ! よ、余計なこと言わないで!」

「おお怖い怖い。で、だ。どうするかね? その肉、食べられないというなら我々が頂くが?」

「……いや、食べるよ。必要なことだしな」

「結構。そうでなければ、このディアナでは生き残れんよ」


 俺は意を決して肉を頬張る。どうやら味付けはされていないようだが、肉そのものの味だけで充分に美味しかった。

 いざ口にしてしまえばどうということもない。大丈夫、と俺が言って見せると、雫も同じように食べ始めた。


 ……ちなみにこれ、ゲームでは肉を食べた後に「君が今食べたのはこんなに可愛らしい生き物だ」とラナイに馬鹿丁寧に説明されるのだ。ゲームはドット絵なのでグロさは無いが、悪趣味具合ではどっこいだろう。


 俺たちが食べ終わると、ラナイはすっと立ち上がる。


「さてと、空腹は消えたかね。食事の問題はひとまずこれでいいだろう、後は君達自身が飢えに苦しみながら学ぶべきことだ。

 では次に、己が身を守る術――つまりは戦闘について教えようか」


 ニヤリ、と。そのやたらと人の神経を逆撫でする笑みに、しかし俺達は苛立ちよりも恐怖を覚える。


 何故なら、ゲームだとこのチュートリアルは――


 固まる俺達の足元に、ラナイは一本のダガーを投げて寄越す。正式名称はたしか『鉄のダガー』、フレーバーテキストには村人が護身用及び肉などを捌く際に使う程度の安物だとか書かれてたっけか。


「どちらでも構わないよ、拾いたまえ。私と模擬戦といこうじゃないか」


 ラナイはそう言って、腰から細身の剣を抜く。古木で作られた柄には精巧にルーンが刻まれ、レイピアと見間違うばかりに細く薄い刀身は不可思議な力で周囲の空気を揺らめかせている。


「『風纏いの剣』……」


 思わずといった様子で雫は剣の名を呟く。これはラナイの所有するアーティファクトで、序盤に登場するものとしては破格の性能を誇る業物らしい。周回を重ねたISODプレイヤーは、どうにかしてこれを手に入れるのが定石だとか。


「おや、御存知か? そうとも、これこそリーネランに伝わる名剣だ。風のルーンは速さという力を与え、斬られたものは痛みを覚える前に事切れるのだよ」

「ラナイ、首長からの借り物を自分の物みたいに自慢しないでちょうだい、みっともない……」


 ルーシアスは呆れ混じりに図に乗る男を宥める。まるで保護者の口振りである。


「ふふん、いずれ返すが今は私のものだ。それに折角我らがリーネランの技術の粋を披露しているのだ、水を差さないでくれよルーシアス。

 で、だ。早く来たまえ。勿論手加減はするから安心するといい」


 切先をこちらに向け、ラナイが急かす。ルーシアスも呆れ顔ながら止める様子が無い以上、これは避けては通れないのだろう。


 それも当然か、これは必須事項(チュートリアル)なのだから。


「は、鋼、ここは私が――」

「俺がやる。頼むぜ、ラナイ」


 伸ばしかけた雫の手を払い、俺はダガーを手に取る。そしてそれを右手に強く握り、ラナイと対峙する。


 片や種族に伝わる名剣、片や刃渡り十センチ程の安物ダガー。ゲーム風に言うのなら、さながら勇者に挑む山賊Aという気分である。


「結構。勇敢だな少年、やはり婦女子は男が守らねばな。刃の短いダガーやナイフはどの種族、職業でも扱える優秀な武器だ。片手で扱えるため、一緒に盾を装備したり、器用な者ならば魔法とも併用できるだろう。とはいえ今はそれ一本だ、相手の懐に飛び込み胸を一突きする事だけを考えるといい。

 ではいくとしよう。ルーシアス、合図を頼む」

「ちゃんと手加減してよね? ラナイ。ただですら相手は死にかけたばかりなんだから。貴方の方も準備は良い?」

「あ、ああ。いけるさ」


 この後の事を思い、若干声が震える。しかし雫が心配そうに見つめている手前、みっともなく逃げ出すわけにもいくまい。


 ラナイも意外と良い事を言う。古臭い考え方だが、女の子は男が守らなくちゃな。


 無理矢理引き攣った笑みを浮かべる俺に、ルーシアスは苦笑を漏らす。


「そう。全く、男っていうのは……じゃ、行くわよ? 用意――始めッ!」


 声が響く。

 ラナイの胸に届くまで大股で二歩。しかし相手の間合いまでは一歩。まず相手の一撃をなんとか受け止め打ち払い、そこで生まれた隙をついて胸に飛び込む。これしか方法は――


 と。

 一歩踏み込もうとした瞬間、眼前から青髪の男が消え去る。


「この模擬戦で君が得るべき教訓は」


 何故だろう、腹立たしい気取り屋の声が背後から聞こえる。


「――勝てない相手には挑まない、ということだよ。無謀なる少年よ」


 そして、自分の右腕が落ちる音を、聞いた。


序盤に限り、某フリーゲームのメタレベルのパロがあります。分かる人にはニヤリとしていただければ幸い。

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