完全覚醒
「.........神様?」
「はい、そうです、北欧神話の神様やってます」
目の前の美少女は頷き、そう言った。
俺は自分の耳を疑った。
だってこのような空想の設定を自分につけて話すようなやつは世にいう中二病、彼女はそんな風には見えなかったからだ。
「...マジで言ってんの?」
「大真面目ですよ、ほら!神様っぽい服きてるでしょ!」
彼女はそう言って、くるりと回って見せた。
めっちゃ可愛い。
「確かに現代の若者スタイルとはかけ離れてるなぁ、帯締めてるし」
彼女の服装はロングスカートに腰回りに帯を巻いているようなものだ。
金属類は見当たらず、さながら時代を飛び越えてきたかのような服装、
でもやっぱ可愛い。
「信じてもらえればいいんですよ!」
「いやまだ信じてないし」
「ぇえ〜」
満面の笑みからのムスッとした顔、天使かお前!
「んん、早い話、人間にできないことやって見せればいいんじゃない?」
「!!」
それだ!って顔をするロキ、神様じゃなくて天使だわ。
「フッフッフッ、見ててくださいね!」
ハッと勢いのある声を上げて、腕を掲げる。
するとそこには今まで無かった剣が!!
「って背中にかけてた剣を抜いただけじゃねぇか!ていうかそんなオモチャよく持っていられるよな!」
そう言うと再びムスッとした顔をして、睨みつけられた。
全然怖くない、むしろ可愛い。
「ていうかーオモチャじゃないですよ!真剣です!真剣!」
「なわけないだろ?今のご時世、真剣なんて持ってれば捕まるし、発注だって容易じゃないはず。それにそんな変な形の剣見たことないぞ」
それは紫色の結晶で作られたかのような剣、その形は日本の刀とも西洋の両刃剣とも違う。
しいて言うならRPGでボスが持ってそうな武器だ。
「むむむっ、さっきから否定ばっかしてぇ〜」
「ん?えっ、ちょっ...」
目の前の美少女が涙ぐんでいた。
それでも可愛い!
と言いたいが、
ここで俺は初めて女の子を泣かせてしまったかもしれないという事実にきづく。
どんなことがあっても女は泣かせるなと親父に言われてた気がする。
天国の親父すまない。
親父はまだ死んでないけど、そういうことにしとく。
とりあえず俺は弁明することにした。
「ま、まぁ...でもやっぱり信じろっていう方が無理あるし...」
「......」
さらに涙をこぼすロキ、やばい、心が締め付けられる。
「あ、あ〜すんげー剣だなー、これは人間界には存在しない物質で作られてるのかー、じゃあやっぱりロキは神様なんだねー」
罪悪感に耐えきれず、彼女を全力で擁護する。
嘘は得意じゃない、カタコトは勘弁してくれぇ。
「そ、そうなんですよ!この剣はですね!神器と呼ばれるこの世に存在しない物質で作られた神様限定武器なんですよ!」
た、立ち直りが早い、まぁおかげで俺の精神は保たれた。
そしてやっぱり可愛い。
「フッフッフッ、この剣がどれだけすごいのか特別に見せてあげましょう!特別ですからね!」
「お、おう。ドンと来い」
_____ _
「っ...!?」
斬られた...今俺は斬られかけた。
とっさに頭を下げてかわしたが、精神的なダメージは多大、
なぜ斬られたのか、こいつは俺を殺す気なのか。
彼女の目を見る。
笑っている...表情だけを見ると先程までの天使だった。
だが彼女は獲物を前にして笑っている、俺にはそう見えた。
ここはやばいと思った俺は瞬時にソファから跳ね上がり、リビングを出ようと試みた。
しかし、さっき吹き飛ばされたダメージが足に残っていて、
「っ...ぐっ!?」
自分の足につまづき、その場に倒れる。
その瞬間、頭上で何かが通った。
剣だ、今つまづかなかったら、 俺は確実に頭を輪切りにされていた。
こいつは本当にやばい、死ぬ...。
「ぐっ...ぁああああ!!」
振り向きざまに腕を横に振り払った。
走って逃げても追いつかれ、斬られる、
それなら反撃し、できるだけ足止めするのが一番効果的だと思ったからだ。
いつもの俺なら腕を振ったところで、風切り音が響くだけだ。
だが今日の俺は...、
「...!?これは...!?」
ロキは慌てて、剣を盾にして防いだ。
悪魔を叩き斬った斬撃だ。
「今だ!!」
俺は一目散にその場から逃げ出す。
別に俺が弱いから逃げるのではない。
女に手をあげる男は最低だと思っているから、一時退散というわけだ。
俺はリビングを出て、玄関を目指した。
外に出れば、彼女も簡単に剣を振り回せないと考えた結果だ。
玄関までの距離はそれほど遠くない。
行ける!!
「...まさか中途半端だとはいえ覚醒していたとは」
「...なっ!?」
角を曲がり、玄関を目に捉えたと思った矢先に、ロキが玄関の前に現れた。
「...瞬間移動か何か?」
「いえいえ、そんな便利なものではありません、魔法陣から魔法陣にテレポートしただけですよ」
「一応聞くが、何で俺を殺そうとする?」
「なんで私が殺そうとしていると思われるのですか?もしかしたら散髪してあげようとしてるかも知れませんよ?ほらそのつんつん頭切って差し上げます」
「つんつんは寝癖だよ!てか任せたら髪以外に大事なものまで奪われそうだから断る!!」
俺がリビングに戻ろうと体を回したその瞬間、
ロキは驚異的なスピードで俺との距離を詰めてきた。
再び斬撃を放ったが、今度は簡単に受け流され、壁に叩きつけられた。
「ぐっ...!」
女とは思えないほどの力で体を浮かされ、剣を首に突き立てられる。
「あなたに恨みはありませんが、ここで死んでもらいます。恨むならお父さんを恨んでください」
父さん...だと...。
あのくそ親父...何をしでかしたってんだ。
てかそのせいで俺が死ぬのかよ、絶対嫌だわ、拒否する。
こんな死に方は絶対嫌だ。
俺は...俺は...。
「...生きるんだ...!!」
その瞬間、光がはじけ飛び、ロキは俺から飛び離れた。
あまりの光に目が潰れそうだった。
その光の正体は俺の右腕にあった。
光り輝く剣、それから漏れる光は俺の全身を包み込んでいく。
「...これはすごい...これほど早く完全に覚醒するとは...」
「聖拳 エクスカリバー」