光の剣
俺の将来は暗闇の中にしかない...はず
極限まで圧縮された時の中で唐沢は見えた。
高速で斬り抜ける男の姿を。
「ァアァアアアアアア!!」
血しぶきをあげながら、フェンリルは唐沢の肩上を吹き飛んでいく。
そして空中で体勢を整えて、茂みの中へと姿を消した。
「・・・逃げ足だけは早いな」
銀髪の男は言った。
右手には長剣、コートで身を包み、長い髪を後ろに束ねている。
切れ長の目は灰色に光り、強者独特のオーラを感じさせる、
男は唐沢に手を差し伸べ、こう言った。
「BINDER序列500 思出 守だ。第二等級緊急事態につき、参上した。事情を聞かせてくれるか?」
BINDER、その言葉を耳にした唐沢は一瞬だが顔が硬直した。
思出はそれを見逃さない。
「なんだ?知ってるのか」
返事がない。何か迷ってる表情を見せたが、やがて戻った。
「・・・なにか事情があるみたいだな。深追いはしない、とりあえず倒れている彼を助けるとしよう」
指さした方向にはおびただしい量の血、その中心には人が倒れている。
「弘樹ぃ!!」
唐沢は立ち上がろうとしたが、ダメージのせいか、ふらついて尻もちをつく。
「慌てるな、死んではない。・・・まぁ半分死んではいるけどな」
思出は血の上を歩いて近づき、弘樹が横たわるその場に立った。
多量の出血で真っ赤に染まっている服の奥には大穴が空いていた。
かすかに残る魔力の匂い、傷は思っていたほどひどくはなかった。
(・・・これは)
「...くっ!弘樹を早く...病院へ連れていかないと...!」
必死に体を動かす唐沢、だが思出はそれを制止した。
「...どうやらその必要は無いようだ。」
「...何!?...お前......弘樹が死んだって言いたいのか!?」
「いいや、その全くの反対だ...。これを見ろ。」
唐沢は鉛のように重い体を引きずり、思出の指さすものを見た。
「...これは...どういうことだ?」
弘樹の腹には大きく穴が開けられ、多量の血が公園の中心に溜まっていた。
それは確実に致死量の失血、だがそこにいるのは寝息を立てて気持ちよさそうに眠る弘樹の姿だった。
「腹の傷はどうなってる!?...弘樹は...ただの人間のはずだ...俺達と違って...」
「いや、俺達化け物から見ても異常だな、この再生力は...。」
腹の傷は既に完全に治癒していた。
傷跡は全く残っておらず、失った血液も何らかのの方法で補充したらしい。
「命の危機に能力が覚醒し、自身を守ったのか......どちらにせよ、こいつはもはや普通の人間ではない。」
「...どうする気だ!」
「さぁな?俺は何もしないが、BINDERが捕らえろと言うならば捕らえるのみさ」
思出は唐沢に背を向け、その場を去っていく...。
月の光が差し込むその公園で唐沢はただ、自分の無力感を感じていた。
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そこは荒野だった。
あちこちに戦いの傷跡が刻まれ、植物は一切生えてないその荒地は風が吹く度に、砂塵を巻き上げている。
ここはどこだろう、いやこれはいつの風景だろうか、
弘樹は確かにその場にいるのに、まるで幽霊のようにそこには存在していない。
弘樹は歩いた。
果てしない地平線、人一人も見当たらない。
しばらく歩き続けると、山があった。
積み重なっているのは人、死体の山。
吐気を催すその光景に弘樹は一歩後ずさりをした。
だが頭を突き抜けるような音に引き寄せられ、足は勝手にその山を抜けていく。
砂嵐のせいで視界のほとんどが塞がれ、その先に見えたのは二つの人影、剣を持ち、互いにひどい傷を負っている。
片方が持つ光の剣を一振りすれば、周辺を吹き飛ばすほどの威力を放つ。
しかしもう片方が着込んでいる闇の鎧にはびくともしない。
彼らの戦いはいつまで続くのだろうか、
眼前の景色の時間が加速していく。
意識が遠のいていく中、剣撃の音だけが頭の中で鮮明に響いていた。