死の感覚
短いです、すみません
人間界から遠く離れた異世界、
神界はいつもより慌ただしく、淀んだ空気が流れている。
聖域と呼ばれるこの場所は荒れ果て、建物は既に廃墟と化している。
あまりにも神が存在する世界とは思えない、
だがここは確かに神界なのだ。
紫色の髪をたなびかせる少女、年齢的には高校生と変わらないように見えるが、彼女こそが北欧神話の神であった。
彼女は今大きな魔法陣の手前に立ち、無言でそれを見つめている。
その目には強い決意の色が現れ出ている。
彼女は一歩踏み出したその瞬間、魔法陣が眩く光りだし、体を飲み込んだ。
そして彼女は飛んだ。
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夜
俺は約束通り唐沢と合流して、ポイント一つ一つに向かうことにした。
幸い犯人が現れると予測したポイントはこの街内で収まっていて、
このくらいならちょっと遠いで済む。
一つ目は全くもって何もなかった。
路地裏ということで可能性が高いと思っていたのだがハズレだったらしい。
まぁ唐沢はいないと予測していたらしいけど。
十分くらい見てから次の場所に向かう、
だが二つ三つと見ていったが何一つ形すらない。
手がかりも見つからない。
それに街内と言ってもあちこち回るのは結構疲れる、五つ目以降は俺も唐沢もかなり甘めに捜索していた。
だが六つ目のポイントで今までになかったモノを俺たちは見つける。
そこは公園だ。
なんの変哲もない、昼夕方には子供達があそび回る公園だった。
だが俺たちはそこに普段ないもの、いや見ることのないものを見た。
「こ・・・これは」
「ひどいな・・・」
一言で表せば水たまりだ。
普通じゃない水たまり、
俺たちの認識が間違ってるかもしれないが状況上こう考えるのが妥当だった。
血だまり・・・。
「まさか・・・犯人がここで・・・」
「ふっ!すげぇだろ?とか言える雰囲気じゃねぇな・・・これ」
しばらく俺たちは血を見ながら、固まっていた。
段々と目が暗さに慣れてくると鮮明に見える。
血だけではなかった。
そこには死体があった。
5分後、俺たちはその場所を調べにかかった。
周りに飛び散った肉片を見たとき、正直吐きそうになったがなんとかこらえつつ、作業をこなす。
時間帯的に夜だったのが幸いだった。
真昼間でこんな惨事を見れば、大騒ぎになりかねない。
というかならないためにこの時間帯に犯行に及んだということか・・・。
でも・・・
「不自然だな・・・」
「あぁ」
肉が四辺に散らばり、血は水たまりを作るほど・・・ だが俺にはこれが人間の手で行われたことだと思えなかった。
これほどズタズタに体を引き裂くのにどれほど時間がかかるだろうか・・・
いやそもそも人間の肉をここまでできるような道具はない。
ブルドーザーとか車とかならまだありえるかもしれないが、残念ながらそれらの痕跡は無かった。
なら誰がこんなことを・・・。
後ろから弘樹と呼ぶ声がした。
もちろん声の主は唐沢だ。
「今日のところは帰ろうぜ、思った以上にやばそうなことになっている・・・俺たちだけじゃ無理だ」
いつもより声のトーンが低い。
本心で言っているのは確かだが、いつもと様子が違うところが俺に疑問を抱かさせた。
「そんなこというが、おかしいとは思わないか?こんなひどい有様なのに次の日には何もなくなっている・・・犯人は一度戻ってきてここで証拠隠滅を・・・」
ドスっと何かが落ちた音、後ろから聞こえたそれは明らかに質量を持ったもの、
俺はそれに言葉を遮られた。
静寂の闇の中、それの吐息だけ聞こえる、明らかに人間ではない。
振り向きたい、そんな欲求が俺を襲うが、目の前の唐沢の表情を見てはそんなことはできない。
驚愕、焦り、何より恐怖がその顔から見て取れる。
いやそんなのは理由にはならない。
それが発するオーラのようなもの、見えてなくとも俺はそれに恐怖し、腰が抜けてるだけだ。
このまま立ち尽くしていれば殺される、あの公園の死体のように・・・誰かわからないほどズタズタにされて・・・。
「・・・唐沢」
「動くな、動くんじゃねぇぞ」
唐沢は気づかれない程度に手で何かやっていた。
何をやっているのかはわからないが、できればお前だけでも逃げて欲しい、俺たち二人で対処できなくても警察ならば何とかできる・・・はず。
今一番危険にさらされているのは俺だ、俺が囮になれば唐沢は逃せる。
そうだ、一人でも逃せばこの事件に終止符を打つことができる。
怯える足に喝を入れ、俺は動こうとするが足は変わらず・・・やはり力が入らない。
くそつ・・・。
結局俺は動くことができず、そのまま立ち尽くした。
一秒一秒がとてつもなく遅く感じる。
____それは一瞬だった。
唐沢の背後からなにか飛び出したかと思ったらそのまま紅い血しぶきが俺の視界を埋め尽くす。
喉から直接あいつの名前を叫ぼうとする。
だが出たのは赤い液体。
なんだ・・・。
「・・・俺の血かよ・・・」
腹部に痛み、太ももを滴る暖かい液体と対称に俺の体からは熱が奪われていく。
反射的に傷を抑えようとしたが無駄だった。
俺の体には大きな穴が空いていた。
「ひろきいいいいい!!」
唐沢が珍しく声を荒らげている。
かすかに視界に映る唐沢の顔は憤怒の表情、
頼む・・・逃げてくれ・・・。
俺は心の中でただそれを願っていた。