グレイプニル
凄まじい音と衝撃、そして目も開けられないほどの光が突如とフェンリルを貫いた。
これは雷だ。それも特大の…自然現象でありえないサイズだった。
「…ガァァァァ…」
さすがのフェンリルも雷のダメージにより怯み、能力の発動が止まった。
「火力がお望みか?なら力になれそうだな」
上空から男性の声、再び雷が地下空間の中心部に落ち、電撃はそのまま空間全てを覆うかのように地面を走った。
すると地下空間の崩落が止まった、地下空間を構成する鉱物に電撃を通し、磁力によりその崩落を止めたのだ。
「いやぁすごいなぁ…。これが本来の神の力ってやつか」
弘樹はロキと同調した際に、遠方から近づく魔力を感知していた。
弘樹にとっては全く身に覚えのないのだが、ロキにとっては交流が深い神の魔力だと分かった。
「俺の名はトール、そこのロキとは腐れ縁でな。とりあえず敵じゃねぇよ」
北欧神話における雷神そして闘神とも呼ばれる神、最強格の力を有する逸話を持つ。
その姿は金髪に癖っ毛、ヘアピンで髪を止めており、服装にあっては革ジャンとジーンズを着ている。
見た目にあっても10代から20代くらいの若い男、顔はそこそこ整っている。
「弘樹くん、こいつ信用していいのかしら?」
雫は懐の拳銃をいつでも取り出せるように忍ばせている。
その姿を見たトールは、苦笑いした。
「助けに来たのにその対応はひどいなぁ。まぁ俺が助けに来たのは君ら人間じゃないんだけどね」
「知ってるわよ、神様は気分次第で簡単に裏切るからね」
雫は別に怒ってる訳では無いようだが、トールに対して嫌悪感に近い何かを感じているようだった。
「ちょっと待って」
今にも二人の間で戦闘が始まりそうだったので、弘樹が二人の間に割って入り、制止した。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ…。トール来てくれたことには感謝するよ。手伝ってくれるんだろ?フェンリルを止めるの」
「そうだな。だが俺はロキみたいに拘束魔法なんて使えないぜ?俺がやれるのは殺すか足止めするかだな」
「拘束は俺がやる。残り少ない魔力を全てそっちに回したいからトールはフェンリルをギリギリまで追い込んでくれないか?決して殺さずにな」
弘樹はロキと同調してるおかげでトールがどんな性格なのか何となく察していたため、再度念を押した。
トールはその圧倒的魔力量の電撃魔法による攻撃で辺りを更地にもできるそうだ。
ただ細かい作業は苦手らしい。
「加減はするよ。この借り物の体が俺の全力に耐えきれない可能性もあるからな」
どうやらトールは同調済みらしい、コントロールは完全にトールのようだ。
「さて、やりますか。お前らそこから1歩も動くなよ?動いたら自己責任だ」
トールはその場からフェンリルの頭上よりも高く一瞬で飛び上がった。
そのまま落下してくる様子はない、まるで空中に足場があるかのように立っている。
フェンリルは雷のダメージがあらかた抜けたのか、その巨体でのっそりと動き出した。
「お前もだぜ?フェンリル。気抜いたら死ぬぞ。俺の攻撃はな?」
肌がピリッと痺れる感覚、その瞬間轟く雷鳴、フェンリルは再び苦悶の叫び声を上げた。
「今回はやめてやんねぇからな?このままお前が死にかけるまで攻撃し続ける。残念だが俺はロキみたいに甘くないからな」
大規模な破壊攻撃、それをなんの予備動作も魔法陣を形成する暇もなく発動した。
凄まじい雷撃はフェンリルとその周りの地面をさらに抉っていく。
その場の空間にいるものの命を奪わんとほとばしる電撃。
それは当然この空間にいる雫たちにも被弾しそうな勢いだった。
「さすがにここにいたらまずいんじゃない?私たち人間が触れたら一瞬で丸焦げよ!離れましょう!」
「待て!」
雫が言っていることは一理あったが、弘樹は雫達を止めた。
「トールはこの場から動くなって言ってただろ。きっと大丈夫だ」
根拠はなかったが、弘樹は確信していた。
「何を言って!」
「いい判断だ!人間助かったな!お前らの周りをよく見てみろよ!」
雫の反論を遮り、トールが言った通り周りを見渡してみる。
よく見ると電撃が弾かれている、まるで弘樹を守るかのように覆っているドーム状の結界のようなもの。
「俺は細かいコントロールは出来ないが、大雑把に攻撃が通らないフィールドを限定してなら展開できる。言っただろ?動けば自己責任だって」
さらに雷撃の威力が上がる、地下空間の崩壊を止めていた磁力にも干渉し出したようで、再び周りが大きく震え出した。
まるで天災、あらゆるものを無差別に破壊せんとする破壊の力、人が及ばぬ領域である。
「グァァガァァァァァ!!!!」
フェンリルはその溜め込んだ魔力を使って雷撃を防ごうとしているが、それに比例してトールの火力が上がって全く意味を為していなかった。
神殺しによる魔力増加よりも早い速度で魔力が消費されていき、フェンリルの巨大化が完全に止まった。
魔力で形成された防護布扱いの霧も完全に晴れ、完全にフェンリルは無力化された。
(このタイミングだ!)
弘樹は聖剣を地面に突き刺し、それを中心に魔法陣を発現させる。
拘束魔法グレイプニル、それをエクスカリバーの魔力で強化する。
現状弘樹兼ロキが保有する少ない魔力では物理的な力により拘束を破られる可能性がある。
魔法としての強度をエクスカリバーで補うという訳だ。
人間である弘樹は当然魔法を使ったことは無い、なのでそこは無意識的にロキに任せ、ロキによって組み込まれた拘束具に弘樹がエクスカリバーで補強していく。
魔法が鮮明に鎖としての形を成した。
「…フェンリル、戻ってこい!!」
魔法陣から放たれた8つの鎖、かつてフェンリルを捕縛するために使われたというグレイプニール、今は存在せず、その代わり拘束魔法として名を冠している。
鎖はフェンリルの顎、首、胴体、四肢、尾に巻き付き、強く締め付ける。
フェンリルが再び悲鳴をあげた。
「う…うぉぉぉぉ!!」
弘樹も必死にフェンリルを抑え込まんとする。
鎖の締めつけにより、段々とフェンリルの体長が縮んでいく、神殺しの能力が弱まってきている。
「もう少しだ!!我慢しろよぉぉぉ!!」
既に拘束魔法に魔力を使い切った弘樹、あとは気合いだ、精神の戦いだ。
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
「グガァァァォォァァァ!!」
弘樹とフェンリルの叫び声がシンクロし、その時が訪れた。
フェンリルの体はまばゆく発光、そして爆発した。
踏ん張っていた弘樹はその爆発により後ろに吹き飛ばされた。
爆発による煙が辺りを包み、地上にいる雫たちからは何も見えない状態だった。
弘樹は勢いよく後ろに吹き飛んで、壁に頭をぶつけて倒れていた。
「え…へへへ…後頭部くそ痛い…」
弘樹はよろめきながから立ち上がった。
視界に映るのは白煙のみ、フェンリルは一体どうなったのか。
「グルルルルルッ…」
人のものでは無い…何者かの鳴き声、いや最初に出会った時とは幾分獰猛さがないというか、どこかしら可愛げがあるこの声は、もしかして
「おいおい…」
顔を出したのはフェンリル、間違いない。
しかし弘樹からすれば、それは犬にしか見えないのだ。
サイズは中型犬、毛並みは銀色なので狼のように見えるが、顔は完全に柴犬だった。
首にもグレイプニルが巻きついており、まるで首輪のようだった。
「クゥーン」
弘樹の足元に擦り付くフェンリル、1度殺されかけた敵とは思えない。
なんとも言えない気持ちになる。
「…何がともあれ成功だなっ」
弘樹は考えることをやめた。




