始まる
投稿遅くなってすみません!
後ろから名前を呼ばれて俺は振り向いた。
そこには同級生である唐沢或斗が人をイライラさせる笑顔で立っていた。
「しけたツラしてんなぁ、ひろきー」
「お前はいつも元気そうだな・・・」
「そりゃあ、元気があればぁ♪って言葉があるくらいだぜ?ないよりましだってぇの」
そう言って肩に手を置いてくる唐沢、
何か企んでるような顔をしてる・・・
「元気のないお前にいい情報、聞くか聞かないかはあなた次第ってな」
「なんだよ、勿体ぶらず言ってみろ」
「フッフッフッ、実はな・・・最近学校周辺でミステリーな事件が・・・」
「あ、知ってるそれ」
俺がそう答えると、最後まで言わせろとまで言うような形相で睨んできた。
唐沢が持ち出したその事件とは、
夜な夜な犬が吠えたその日の朝に死体が転がっていたというものだ。
それも実に連続五日間である。
そして犯人はまだ見つかっていない。
警察は通り魔の仕業かと疑い、その線で調べていたのだが、三日目の被害者がその通り魔だったのだから正直迷宮入りしそうな、まさに小説でよくある展開に近づいている。
こんな物騒な事件が起きて、恐怖するものは多々いるが俺はその部類ではなかったようだ。
「何笑ってんだよ・・・正直いきなり笑い出すとか気持ち悪いぞ」
唐沢の言葉に慌てて何事もなかったかのように振舞うが、唐沢の目はごまかせない。
「どうせ、また事件のこと考えてたんだろ?本当好きだよな、そういうの」
「・・・考えるだけならいいだろ!こんだけ平和なんだからたまには刺激が欲しいんだよ」
と言ったものの実際は刺激のある毎日を過ごしてたりする。
主に喧嘩だが・・・。
「まぁ警察でダメなんだからさすがのお前も無理くね」
「分かってねーな、他人ができないことをやり遂げるのが面白いんじゃないか」
「んーそういうもんなのか」
不意に時計が視界の隅に入り、俺は焦る。
ホームルームの時間まであと五分だったのだ。
俺はちょっと焦りながら教室に向かって廊下を走り出した。
□■□■□■□■□■□■□■□■
「で次はなんのようだ?唐沢」
時は過ぎ、放課後
俺が武道場で筋トレをしていたところ、あの忌々しい笑顔で唐沢が訪ねてきた。
「特に用はないこともないんだけど~」
「用があるんならはっきりそう言え」
ひたたり落ちる汗を拭きながら、竹刀を投げつける。
残念ながらギリギリかわされてしまったがまぁいい、本当に忌々しいやつめ。
「あぶねぇ!マジであぶねぇ!!」
ピーピーと泣き叫ぶ唐沢だったが、もちろん嘘泣きであるため、すぐに泣きやんだ。
そしてニヤつきながらやっと本題に入った。
「んでその用だけど、お前今夜空いてるか?」
「ん?空いてるけどなんだよ」
と言った瞬間に俺の頭の中で何かが弾けそうになった。
こいつの笑顔にさらに忌々しさが増したからだ。
なんでこんなにも人をイラつかせることができるんだろうか?
俺の感じていることなど知りえもしない唐沢は人差し指を上に立てて上機嫌に語り出す。
「フッフッフッ聞いて驚け!この唐沢の頭脳でな、あの事件の犯人の行動パターンを解析して次に現れる場所を特定したのだ!!すごいだろ?おれすごいだろ?」
「ふーん・・・え?」
一瞬耳を疑ったが事実のようだ、
それが本当なら、
自画自賛するところがマイナス点だが、
認めたくないが、
確かにこれはすごい。
何がすごいかというと、
警察でもおそらく解析できてないことをこいつは難なく一日で終わらせたってことになること。
警察が解析していればすでに犯人は捕まっているだろうから。
そう言えば新入生テストのとき、一教科以外満点だったとかどうとか言っていたな・・・。
にしてもなぜこのことを警察ではなく俺に・・・。
「・・・まさかお前」
悪い予感、というかほぼ的中してると思う。
「まぁ犯人を捕まえようなんてことは考えてないけどさ、見てみたいじゃん?もしかしたら人間じゃない(・・・・・・)かもだけど」
「お前なぁ・・・軽率すぎて頭が痛くなる」
唐沢は珍しい種類のバカだ。
頭はいいし、やる事なす事ほとんどが正しいと思う。
だが時々なんの前触れもなくバカスイッチが入ることがある。
こうなった唐沢は止められない。
たった一ヶ月の付き合いだというのに俺にここまで悟らせるコイツが怖い。
目の前で目を光らせながらニヤニヤする唐沢には若干・・・いや相当ムカつくが、俺は反論しても無駄だと思い、渋々了承した。
「やった!じゃあ今日の六時な」
「へいへいー」
手を振って去っていく姿を見届けて、俺は部室に入る。
中は静まり返っていて誰一人いない。
さらにモノがほとんどおかれていないこの部屋は、それにしては広すぎるように思えてくる。
その中で俺は一人着替えながら考えていた。
この部室は元々柔道部のものだったのだが、
今はいない。
部長であった生徒が唐沢が言っていた事件の被害者だったのだ。
元々そんなに強くはない部ではあったが俺はいつも良くしてもらっていた。
体を鍛えるために筋力トレーニングに参加させてもらったこともあった。
今思えば感謝の気持ちしか湧いてこない。
だが彼らはあっさり死んだ。
何事もなく過ごしていたのに死んだ。
またこいよと言っていたくせに死んだ。
いや殺された。
心の奥底から沸き上がる激情、
それは今まで何度か経験した感情ではあるが、その比ではない。
今の俺は例えるならピンと張った一本の糸だ。
一度きれてしまえば俺はどうなるか分からない。
だがこの感情は間違えではないはずだ。
今回の事件、警察も苦戦するほどの難解なものらしいがそんなものは知らない。
頭を使うのは苦手だ。
だからといって諦めるわけには行かない。
必ず見つけ出し、罪を償わせる。
俺は心の中でそう誓った。
□■□■□■□■□■□■
今ひとつの街に異変が起きている。
連続殺害事件もその一つであり、それが全てとも言える。
禍々しく不気味なオーラは街一つを包み込み、さながら結界と化していた。
だが街の人々は気づくことはないであろう。
誰も気づくことはない。
それがヤツにとってどれほど都合のいいことか、
ヤツは確実に力をあげていた。
日々の捕食でエネルギーを取り込み、その力で自らの存在を増強する。
大きくなった存在はいつしか目に見える異変を引き起こした。
本来自然に繋がるはずもない世界と世界が繋がり、そこから大量の力が人間界に流れ出した。
その力を魔力と呼び、魔力は魔物を顕現する。
ヤツは喜び、さらに食らった。
人間だけではなく、魔物も魔力も。
さらに増大する力はさらに世界を歪めた。
小さな穴程度であった空間の繋がりが大きく広がり、いつしか街は元々魔力が存在する世界へと近づいていた。
だが止められるものはいない。
ヤツの力は既に神をも喰らうまでに達していた。
慢心、この街であれば好きなだけ食える、
思う存分暴れられるとヤツはそう思った。
だがそれは大きな間違いであった。
こちらの世界の住人には気がつかなくとも、あちらの世界の住人が気づかないはずもない。
なぜならその世界は・・・
神界なのだから・・・。