一難去ってまた一難
学校についた俺は早速唐沢にある提案をする。
それは…
「行動範囲を広げる?ほんとなんで急に」
唐沢は怪訝そうな顔して俺に問いかけてきた。
まぁいきなりそんなこと言われれば困るのも仕方ない。
おれは理由を説明した。
「あれから一ヶ月近く経ってるのに進展なしだぞ?流石にあせるだろ、違わない?」
少しの間、唐沢は何か少し考えて、
「…仮に広げたとして俺達がフェンリルを見つけることができた、でその後は?」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇよ…。お前あいつに何されたか覚えてないのか?」
あの時の光景が俺の頭の中でフラッシュバックする。
俺達はあの時、それなりの覚悟を決めて、フェンリルに挑んだ。
だがその結果、俺は死にかけた。
「確かに…俺達に足りないのは...」
「...戦力だろうな、それも生半可じゃない。あいつに勝つには人間やめる程度のパワーアップじゃないと勝てない」
唐沢の言う通りだ。
相手は人外の化物、ロキが言うには【神殺し】の異名を持つらしい、それほどの敵なのだ。
「…はぁまったく…」
ちなみにこのまま放っておくという考えは無しだ。
最近は被害はないとはいえ、悪影響はあるらしい。
圧倒的魔力を蓄えたフェンリルの影響を受けて、人間界の一部が魔境となる可能性があるとロキが言っていた
そんな事になれば、いろいろとやばい気がする。
何も知らない人がその場所に迷い込む可能性も否定できないのだ。
どうやら、本格的にこの力をコントロールするしかなくなったようだ。
右手に宿った神器【エクスカリバー】
この神器の力は魔を滅し、聖を強める。
神器としては最高峰の力を持っているらしい。
そしてその能力は…。
「なぁ…弘樹ぃ、さっきから右手ばっかみてどうした?」
ビクッとなった。急に声をかけるんじゃない!
今いいところだったでしょ!!
「な、なんでもない」
「…なんでもないことはないだろ!もしかしてその手で女の子のおっ…」
「なわけあるかぁ!!」
と勢いで否定したものの…
再び頭の中でフラッシュバック、
あの時、偶然とはいえ俺は…、
ロキの胸をもっ…もっん…。
「んだよ、次は顔を赤くしやがって…」
「い、いや…」
よし…落ち着けおれ。
呼吸を整えるんだ。
こんなところで興奮してどうする。
落ち着け落ち着け。
「…ふぅ、だからなんでもねぇよ。んでこれからどうするんだ?」
俺は唐沢に問いかけた。
問題はいろいろと山積みだ。
戦力、情報、この二つはどうにかして確保しなければならない。
そのために俺達は何をすべきか。
俺は唐沢の考えを知りたかった。
だが唐沢は答えない。
いつもならその無駄にスマートな頭で最善策を考え、それを自慢げに提案する。
だが唐沢は口を開かない。
唐沢でも…絶望的なほどに厳しいということなのか…。
「…なぁ、唐沢。別に無理なら無理って…」
バン!!と教室のドアが勢いよく開く。
俺はその音に驚き、そのドアの先を目視した。
いや俺だけではないであろう、この教室全員がその扉の目の前に立つ人物に注目した。
「…えーと、おおがーひろきくんいますかねぇ〜?ちょっと用事があるんすけどぉ〜」
「…あっ!は、はい!」
急なイベント発生で呆然としてしまった。
俺を呼んだその人物はどうやら上級生、
リボンが緑色であることから察するに三年生、
というかまずリボンつけているので女性ということになる。
だがその容姿は、
髪はボサボサ、目の下にクマ、着こなし方もダルダル、
なんというか、小説で出てくるヒロインとは思えない姿をしていた。
「あぁ、君がひろきくんかぁ〜、私三年生の漆原雫と言います〜。以後お見知り置きをぉ」
雫と名乗る彼女はおおきなあくびをしながら、そう言った。
俺はなんとも言えず、とりあえず笑った。
多分ひきつっていたと思う。
ちなみに言っとくが、俺には上級生に人脈はない。
なので今回の呼び出し、まったく身に覚えがない。
だから余計混乱する。
一体、何の用があって俺を訪ねてきたのか。
「急に来てごめんねぇ〜驚いたでしょ。まぁ驚かせに来たんだけどねぇ〜…っと眠いからァ、さっさと要件を伝えて退散といきますか〜」
「は、はぁ」
「今日の昼休み、屋上に来てね〜。そこで君が今最も知りたいこと教えてあげる。例えば…」
「…フェンリルとかね」
「…」
彼女は不敵な笑顔をしていた。
対して俺は目を見開き、固まってしまった。
もちろん驚いたからだ。
そんな俺の反応を見て、彼女は満足したような表情をした。
ドSのにおいがする。
「じゃあまたあとでね」
彼女は去っていった。
まるで嵐のように場を荒らし、スッといなくなった。
「な、なんだったんだ」
あぁ、頭が回らない。
とりあえず彼女はフェンリルのことを知っている風だった。
それだけは理解した。
それ以外はわからん。
俺は再び落ち着けるように深呼吸をする。
スーハースーハー。
そして考えるのだ。
「おいおいー、弘樹くん。戻ってきてー」
そこの唐沢うるさい。
少しは頭を整理させてくれ。
「もうチャイムなって先生きてるんですけどー」
「えっ!?」
気づけば、俺以外の生徒は席につき、教壇には担任の先生が立っていた。
いつの間にチャイムが鳴ったというのか。
考え事に気を取られすぎて、聞こえなかったというのか。
というか約10分間、俺は扉の目の前で棒立ちになっていたという事実がとても恥ずかしい。
俺は席に着くよう先生に促され、しぶしぶ座った。
「弘樹くん〜!ずっと棒立ちで何考えてたのかなー?まさかエロい妄想を膨らませてたとか?」
唐沢は美味しいネタを掴んだかのように俺をいじってきた。
いつもどおりだ。
「ちげーよ、ただ…」
と唐沢に雫のことを伝えようとしたそのとき、
次は生徒達の声に俺達の会話は塞がれた。
「次はなんだよ…」
ガヤガヤと教室が騒がしい。
一体何があったというのだ。
「では転校生をお呼びしますね、神谷郎希さん!」
転校生?そうか転校生か。
えっ……今ロキって言ったか?
いやそんなわけないな。
と思いつつ、俺は嫌な予感がしていた。
「はじめまして!神谷郎希です!よろしくお願いします!」
そこにいたのは俺の知っているロキの姿だった。
一難去ってまた一難、嵐が来た後に竜巻が来たような感覚だった。




