父親
セミの鳴き声が響き、太陽の光がギラギラと降り注ぐこの季節、
あれから、二ヶ月が過ぎようとしていた。
6月の夏の日、今日も変わらない日常をこの俺、弘樹とその親友、唐澤はダラダラと学校で過ごすのだ。
いや変わったことならある。
4月、俺達が高校に入学し、少し経ったくらいに起きたあの事件、それを機に出会った1人の人物、
彼女はロキと名乗り、神だと言った。
そして俺の右手にはエクスカリバーという武器が宿り、さらには事件の犯人が聖獣 フェンリルだという事実を知った。
未だにフェンリルの消息を分からないが、あの日以来事件は起きていない。
だから俺達はこんなにもだらけているのだが、
一番変わったことは家に一人、同居人が増えたことだ。
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「おはーよございましゅ…」
いかにも眠たそうな声で挨拶をしたのはロキ、現時刻は7時半、今日は学校の日だ。
「別に起きなくても良かったんだけど…俺達は学校があるだけだしな」
「そうよ。眠いなら寝てていいのよ、それより弘樹ーまだかねー?」
「へいへい、もうちょいでできますって」
フライパン上の目玉焼きが焼き上がり、トーストもちょうどあがった。
俺は皿に盛り付け、三人分の朝食を机に置いた。
「ありがとーございましゅ…頂きますぅ」
「おい、ロキ…箸の持ち方が逆だぞ」
しかしロキは俺の忠告も聞くことなく、その場でうたた寝をしてしまった。
「…ったく、だから寝とけって言ったのに…」
「そ・れ・よ・り!この子どうしたのぉ?めっちゃ可愛いじゃん!まさか弘樹ちゃんのか・の・じょ?」
「姉ちゃんは朝にしては元気すぎるぞ…」
にしてさすが我が姉貴だと思った。
ロキがこの家に住まわせて欲しいと言った時、彼女は息つく間もなく首を縦に振った。
とうの俺は軽く洗脳状態にあったので、拒否権はなく、結局神様と同居することになってしまった。
にしてもここまで音沙汰なく、日常が進んでいくと違和感も感じなくなった。
このように今では朝食だって、自然と三人分作ってしまうほどだ。
でもこのままはダメだ。
フェンリルの生存している限り、被害が再び出るかもしれない。
ロキだって、フェンリルを止めるために人間界に降りてきたのだ。
「……少し行動範囲を広げてみるか」
「モグモグッ……何のこと?」
「姉ちゃんには関係ねぇよ、皿洗っといてくれ、先に出るから鍵も締めとけよ」
姉貴のへーいという間抜けな返事を聞いて、俺は玄関のドアを開けた。
開けた先には人影がひとつ、
「……ん?なんでお前がいるんだ」
「よぉ!弘樹」
唐沢だった。
「...お前と登校する習慣は終わりを告げたはずだが、今日にどうした?」
あの事件以来、一緒に登校する事はなくなった。
というが別に仲が悪くなったわけではない。
学校では普通に話すのだ。
しかし、二人きりになるとあの事件が脳裏をよぎり、気まずくなる。
ということで二人とも少し距離を置いている。
というわけで久しぶりの接触というわけだ。
「ん?まぁ...話しておきたいことがあるからさ、とりあえず歩きながら、な!」
「そりゃあ都合がいい、こっちも話しておきたいことがある」
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時を同じくして、ある高層ビルの中で...。
「失礼します...」
「...おっ、やっと来たか」
会議室と思わせるその部屋の中に入ってきたのは制服の少女、
髪はボサボサで目にはクマができるいるが、不思議とその姿に違和感を感じさせない。
似合っていると言えばまぁそんな感じだ。
そしてそれに対応した男、髪の毛はツンツンと跳ね、無精髭が見えるところ、40代ほどの年齢に見える。
男は椅子に腰掛け、めんどくさそうに言った。
「そろそろ頃合だと思ってな、あいつに...弘樹に接触してくれ」
「はい、その件だとは思ってはいましたが、何故1ヶ月も日を置いたのですか?私は早いほうがいいと思うのですが...」
「んー、いらぬ心配だとは思うんだがなぁ。弘樹は俺と似て、案外臆病なヤツなんだよ。いきなりこっちの世界に連れ込めば、すぐに死にそうだしな」
「...まぁあなたが彼のことを一番知っているだろうし、私は文句は言いませんよ」
「...大賀魁さん」
「まぁ言うほど、同じ時間を共有できてないけどなー」
魁は頭をかきながら、苦笑いをした。
「とりあえず、だ。弘樹にはこれから自分と自分が守りたいものを守れるようになってもらわないとな」
「そのために私達、BINDERを動かす、と。大胆というか、無茶苦茶というか...。まぁあなたの頼みなら断れませんが...」
ドアから人が慌てて、出てきた。
「魁さん!!天使が4体ほどこっちに向かってきます」
「ちっ、もう勘づかれたか...。ゆっくり話もできないな、まぁ大事なことは伝えといた!あとは頼んだぜ」
「...了解です」
彼女がそう返答した頃には、魁の姿はもう無かった。
「...さて、学校に行きますか...」
BINDER 日本支部長 漆原雫、動く。