変態という名の紳士だ!!
うわぁ...なんだこれ。気分悪っ!
激しい頭痛とともに俺は目覚めた。
先ほどとは違い、記憶ははっきりしている。
精神世界とやらでロキと戦い、俺は負け、真っ二つにされたのだ。
あの世界では痛みは存在しなかったが感触は残るらしく、体を斬られる感覚はなんとも形容し難かった。
「むぐっ...!」
それと息も苦しい。あとなにか重い。
精神世界の戦いで疲労がたまったのか、いやこれは違う。
俺の視界は一面灰色の布で覆われていた。
それも薄っぺらな布だけではない。
その奥にはクッションと思わせるような柔らかさが感じられ...。
「ぐむっ!!むむむむ!!」
さらに押し付けられて呼吸困難に陥る。
俺は焦って、顔に押し付けられてるものを退けようと手を伸ばした。
ムニュ...。
「ヒャ!?」
......明らかになにかまずいことをした気がした。
いや気のせいだと信じたい。
ハッハッハ。
笑って誤魔化すぜ。
しっかしこの手の感触、高級クッションの柔らかさに引けを取らず、さらには掴みやすいお手頃サイズ。
いやクッションというか、マシュマロだこれは!!
「こんなクッションあったっけか...。ムニュムニュ」
とりあえず揉みまくってみた。
「ンン!...弘樹さんいきなり大胆ですね...」
色気交じる声が聞こえた。
やはりというか何と言うか...。
目の前にあったクッション?が遠のき、顔をのぞかせたのはロキ、
彼女の顔は赤く、その表情は小悪魔を想像させる笑顔だった。
「なんで俺の上に乗ってんだよ...」
俺がソファに横たわり、その上にロキが覆いかぶさっていたと言えば簡単だろうか。
どうやら俺達は精神世界へと飛んでいる間、ずっとこの密着状態で寝ていたらしい。
「なんでって...弘樹さんの精神世界に侵入するにはおでことおでこをごっつんこしないとダメなんですよ」
まじか、ご褒美じゃねぇかと俺は内心喜んでだ。
「それより私の胸を揉みまくって...、弘樹さんって大胆というか変態というか...」
「ふっふっふ、誤解だ。目の前にあったものをどけようとしただけなんだ。変態という名の紳士なんだ」
自分でも何を言っているのか分からなくなった。
結局変態ということになってる。
「まぁそれより、これで私の実力もわかりましたよね?圧倒的でしたよね!もう言い逃れできませんよ!」
「んんん...」
胸を揉まれたことをそれよりって......。
それでいいのか!!美少女属性よ!!
と思いつつ、俺の中では真っ二つにされるシーンが何度もフラッシュバックする。
「屈辱だ...。負けたことなんてほとんどないのに女に負けるなんて...」
「ハッハッハ、でも私も少し考えを改めましたよ。弘樹さん、あなたは確かに強いですね。エクスカリバーを手にしてすぐにあれほどの戦闘能力を身につけるなんて」
「ん?そうか!!」
「まぁ私の方が強かったですけどね☆」
上げて落とすスタイルか。やめろ、その攻撃は俺に効く。
「はぁ...てかもうこんな時間か」
ソファの上でわちゃわちゃしているうちに、気づけば正午を回っていた。
今日は土曜日だから別に困ることはないのだが。
「...見るからにひどい有様だ」
問題は今の家の状態にあった。
破壊活動 (主に俺)が行われた跡があまりにも痛々しい。
というか片付けがめんどいというのが本音。
姉貴が帰ってくる前に片付けられるだろうか。
「おい、ロキ。お前も直すの手伝えよ?主に俺がやったけどよ、お前もソファを豆腐みたいに真っ二つにしただろ」
「そりゃあ手伝いますけど、というか弘樹さんがやる必要も無いですよ」
「えっ、それはどういう...」
ロキは右手を上にかざし、何か呟いた。
すると壊れている壁に魔法陣のようなものが展開され、どんどん修復されていく。
「ま、魔法か?本当にあるんだな...」
「はい、でも人間には使えませんからね。私達神を含め、精霊、魔族、天使が魔力を扱うことの出来る種族ですから」
ついでに聖獣も!とロキは付け加える。
なぜ人間が魔法を使えないのかというと、人間界には魔力が存在しないからだそうだ。
そして魔力を感知する能力を持ち合わせてないので、魔力を操り、魔法陣を構築することは不可能らしい。
「なんか残念だな、テレポートとかできれば登校が楽になると思ったんだけど」
「残念でしたね、でも仕方ないですよ」
「そうだな、分かったからとりあえず俺の上から下りろ」
以上ソファの上での出来事だった。
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「ふぅ...一通り終わりましたかね...」
「そうだな」
目の前には綺麗に修繕されたリビング、ソファも元通りになり、先程まで乱闘があったとは誰も思わないだろう。
時計の針は既に2時を回っていたが、短時間でいろいろなことがありすぎて頭がぼーとする。
「はぁ...なんか疲れたな」
とため息をついた途端、お腹が叫ぶように鳴った。
そういえば朝飯も何も食っていなかった。
「弘樹さん、おなかすいたんですか?」
「あぁ、あんだけ動いたし当たり前っちゃ当たり前だよな、お前も分も作ってくっからそこで待っとけよ」
リビングへ向かおうとした俺の手をロキが不意に掴んだ。
「おっと。何だよ?」
「いえいえ、深い意味はないのですが、よかったら私が作りましょうか?」
「え?お前作れんの?神の生活でも料理とかすんのか」
「まぁ多少は...。弘樹さんはお疲れですし、私に任せてください!」
やっぱいいと断ろうとしたが、俺は思いとどまった。
そうだ、俺は今とても幸運なのではないか?
美少女による手料理!!そしてあ〜んの流れではないのか!!
俺の姉貴は周りから可愛い、美人だのと言われてるが、やはり姉弟なので萌えない、萌えてはいけない。
しかし今のこの状況、もしかしたら行けるのではないか?
俺はそんな淡い期待を抱き...、
「お、おう頼んだぞ」
彼女が台所へ向かう姿を見守った。
そして時は過ぎ、30分後...。
「でっきましたー!!」
「うおおおおー」
リビングの机には収まりきれないほどのたくさんの料理が並んでいた。
大きな骨付き肉やパリパリに焼けた餃子、オムライス、ピザなどまるでバイキングである。
いやぁ、こんなに食べきれませんなー。
「って作りすぎだろ!!お前、材料はどうした!!」
「え?冷蔵庫にあったのを使わせてもらいましたよ?沢山あったのでいっぱい作れましたー」
「いっぱい作れましたーじゃねぇよ!!あれは一ヶ月分の食料...」
「あっ...」
ロキの顔が青ざめていく、もちろん俺のお怒りを感じ取ったらからである。
「弁償...しろコノヤロー!!」
俺は本能のままに飛びかかった、右手にはエクスカリバーを握り、斬りかかる。
「ヒャッ!!危ないじゃないですか!!当たったら死んでましたよ!!」
「知らん!!大人しく死ねぇ!!」
部屋の損傷など気にしない猛攻にロキは逃げまとう。
「ちっ!!ちょこまかと!!」
「いやいや!!マジで危ないですから!!落ち着いてください!!」
ロキの悲痛な叫びが部屋に響き渡る。
「知らん!!弁償しろ!!」
だが俺の怒りはおさまらない。
イスがまっぷたつになり、クッションが空を舞う。
俺は何度も攻撃を試みたが、すべてかわされる。
そうだ、精神世界でわかっていたことだ。
だが怒りで頭が回っていないせいで突っ込んでかわされを繰り返す。
もはや家の中はひどい有様に戻っていた、いや先程よりひどいだろう。
「...ぬぬぬ...、いい加減にぃ...」
ロキは料理が置かれている椅子に着地し、何かを手につかんだ。
そんなことも知らず、俺はまっすぐ突っ込んだ。
「おらぁぁぁぁ!!」
「しろおおおおお!!」
渾身の突き攻撃はまたしてもかわされ、ロキの手が眼前に迫ってくる。
よけられる体勢ではない。
「ごもぉ!!!」
強力な掌低うちが顔面にクリーンヒットし、さらに口に何か入れられる。
そしてそのまま一回転し、頭から地面に突き刺さる。
「...もう!!キレやすいのはカルシウムが足りない証拠ですよ!!魚食べましょう!!」
「さ...か...な」
口の中で広がる美味、どうやらロキの手料理は口に入れられたようだ。
「うまうま...」
「でしょ!!魚だって美味しいですから」
「うゆ...」
掌低うちが顎に入ったのか、頭の機能が回復していないようだった。
「ほら、弘樹さん、これも」
「うまーうまー」
「これもこれも!!」
「うまうまうまー」
今の俺の姿は完全に変態だった。
「ところで弘樹さん、食費のことなんですが...」
「うえぇ?」
「私がこの家に住み着いて、その食費を賄うというのはどうでしょ?神界から食材はいっぱい持ってこれますし、人間界のお金もありますよ?どうでしょ?」
「へーええおー」
おい、何を言ってるんだ。
俺はどうやらまんまとロキに利用されたようだ。
最初からこれが目的だったんだな...。
「とゆうことでよろしくお願いしますね!弘樹さん」
「う、うぃ」
それより早く元に戻してくれ...。
第1章完
これにて第1章完となります。
次回からフェンリル編へと入ります。
よろしくお願いします