真っ二つ
はい!はじめまして!私の名前はロキと言います。
北欧神話の神様やってます!
北欧神話ては?しいていえば、ラグナロクとか起きちゃう神話です。
かの戦神トールや主神オーディンも北欧神話の神様です。
そんな私は道化神と呼ばれています。
人を騙すことに長けているのです。
姿を容易に変えたり、相手の感覚を操作したりなど。
しかし私自身の戦闘能力はそれほど高くはないので、神話の中では後輩です。
そんな私は今、下界に降りていて、ある少年と精神世界で戦っています。
理由は弘樹さん、エクスカリバーを持つ少年にこれから起こることの危険性と自分の実力を知ってもらうためです。
こんな私でも神様ですからね。
人間を守るためにも体を張りますよ。
そうやってかれこれ10分は経ちました。
私はもちろんのことですが、お互いまだ二の足で立っています。
予想外です。
弘樹さんがここまで戦闘能力が高いとは...。
これも彼の右手に宿った聖拳エクスカリバーの力でしょうか。
確かにこのくらいの実力であれば、大体の敵を倒すことは可能でしょう。
しかし、まだまだです。
この程度では殺されるのがオチ、
ならば......。
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「ハァ!」
俺が振り下ろした剣をロキは同じく剣で受け止めた。
かれこれ、10分ほど剣撃の打ち合いが続いている。
息が上がり、肩が大きく上下している。
最初は澄ました顔をしていたロキも見て分かるほどきつそうだ。
しかし、神っていう肩書きは伊達ではないらしい。
見た目は守ってあげたい美少女ではあるが、その実力は喧嘩慣れしている俺と互角、いやそれ以上だ。
悔しいが今俺が持っているこの剣がなければ、俺は既に死んでいる。
エクスカリバー…この剣は俺の身体能力を上げてくれてるようだ。
普段より体が軽く、自分が動きたいように動ける。
それでやっと互角…。
「…っ!流石に応えるぜ…」
体にはかすり傷が多く刻まれているが、痛みは感じない。
ここが精神世界だからなのだろう。
精神的ダメージは大きいが…。
「ハァ…ハァ…そろそろギブアップどうですか!!」
「バカか!ギブアップするくらいだったら死んだ方がマシだ!!」
俺とロキの剣が再びぶつかり、火花を散らす。
だが…。
「ぐっ…ぁあ!!」
甲高い金属音が鳴り響き、俺は体ごと後ろに突き飛ばされた。
押し負けた…ダメージはなくとも足には多大な負荷がかかっていたのか…。
俺は慌てて、体勢を整えた。
「ハァ…ハァ…くそ!」
「弘樹さんの体力もそろそろ底が尽きそうですね。このまま私が押し切ればあなたの負けですよ」
「ハァ…ハァ…ハハッ、その前に倒せばいいんだろ!」
俺はロキの反撃を構わず、突っ込んだ。
「そうですね。でも無理ですよ!」
「少し本気出しますから...」
その言葉と同時に悪寒が俺の体を走った。
言葉では言い表せない何かを彼女から感じ取った。
やばい、と思った時にはもう遅い。
「魔剣の力...感覚操作...」
ロキが持つ剣が紫に光ったと思うとその瞬間、俺の視界は暗闇に包まれた。
何も見えない、しかしまわりが暗くなったのではない。
それだけは分かった、俺の目には光が通らなくなっていた。
「くっ!」
腹の部分に衝撃、おそらく斬られた。
俺は剣を振り回す。目が見えないからといって、棒立ちではただの的だ。
ただ振り回すのもかなり難しかった。
目が見えないせいでバランスを取るのが難しい。
そのため、剣を振るうたびによろけてしまう。
腰の入った攻撃ができない。
これでは剣幕にすらならない。
「っ!!」
次は胸に衝撃、勢いよく突き刺されたのが目に見えなくとも分かった。
俺はそのまま後ろへ吹き飛んだ。
「っ...!ぐ...うぁ」
岩の壁に叩きつけられ、俺は倒れる。
気づけば、目は見えるようになっていた。
「...なに...が...?」.
「これがこの剣の力ですよ。"感覚操作" 視覚、痛覚、触覚、聴覚、その他もろもろ感覚そのものを操る能力です」
なるほど...その魔剣の能力で俺の視覚を封じたわけか、バカげた能力だなほんと。
「あなたの聖剣"エクスカリバー"と対をなす魔剣"レーヴァテイン"。これが私の武器です」
「へぇ...すげぇな...。正直ネタバレしてくれなかったら、動揺して戦いに支障をきたすところだった」
俺は剣を杖におもむろに立ち上がる。
無数の傷跡がとても痛々しく、胸には穴が空いていた。
それでも動けるのは精神世界だからか...。
だが動けるのも時間の問題だろう。
若干だが体の先、足と手の指先が痺れてきた。
早期決着、俺は覚悟を決めた。
「...考えるのはやめだ。本気で倒しに行く!!」
俺はロキの懐に素早く潜り込む。
能力は確かに脅威だが、発動させる前に倒せば済む話だ。
「ハッ!」
低い姿勢から薙ぎ払うように剣を振り回した。
ロキは予想通りといったところか、超絶反射能力で後ろに下がるのではなく、俺の頭上を飛んで避けていた。
だが俺の目はまだロキを捉えている。
見えてる限り攻撃の手を休めるつもりは無い。
「う...おぉおおお!!」
甲高い金属音が何度も響く。
とうとう俺の剣がロキを捉えだしたのだ。
「...っ!くっ!」
一方で守りに専念しだしたロキは表情を歪め、耐えている。
「...あ」
何だろうか。
何も考えずに剣を振り回していた俺はなにかに気づいた。
加速していく世界、それとは逆に俺の中ではゆっくりと時間が流れている感覚。
ロキが防御の合間に攻撃を挟んでくる。
しかし、俺にはそれが簡単に避けられた。
まだだ。まだ上がる。まだ速く。
「...くっ!!」
俺は大きく剣を上に振り上げた。
それを剣でまともに受けたロキは手に持っていたそれを離してしまった。
「しまっ...!」
「...取った!!」
右足で大きく踏み込み、トドメの一撃...
「...!?ぬぉ!?」
のつもりだったのだが、急に右足が地面に埋まり、俺は大きく体勢を崩した。
一体何が起きたというのだ。
「...惜しかったですね。まぁ私にこの策を取らせただけでも弘樹さんは充分やりましたよ」
「...こ、これは!?」
ただの落とし穴だった。
それも足1本分の大きさだ。
「......何このなんとも言えない展開」
「私は道化神ですからね!!このくらいおちゃのこさいさいですよ!」
「いやドヤ顔されても!?」
だが可愛い。
いじり倒したい。
「でどうです?片足だけ落とし穴に入った気分は?」
「ん?あぁ、田んぼにはまった時みたいだな」
「何ですか!?それ!!何か興奮しますね!!」
いや何でだよ。
「...興奮するところなんてどこにあるよ、神ってのはみんなそんな感じなのか?」
「んー。別に全員同じような価値観なんて持ってませんよ。神話一つが国みたいのものです」
「へぇ、それより早くこの足、どうにかしてくんない?」
読者様には分からないだろうが、今の状況はかなりシュールだ。
そもそも片足だけ地面に埋まっていて、それを目の間に美少女が高笑いしてればそれだけでやばいプレイだと思われかねない。
あと先ほどの痺れもほぼ全身回ってきたせいでほぼ動けないのもあった。
「じゃあとりあえず戻りますか」
「へ...?」
やっと戻れるという安堵感と裏腹に目の前には殺気溢れる構えを取るロキ。
「ではあちらでお会いしましょう」
俺は人生で初めて体を真っ二つにされた。