平穏に小さな変化
大賀弘樹 16歳 高校1年生
神崎舞 17歳 高校2年生
夕日で紅く染まりつつある空
砂塵が吹き荒れる荒野
現代には存在し得ない美しい風景の中、
俺の目の前には自分と同じ姿をした男が立っていた。
前髪の隙間から除く黄色い目は人間性を感じられない、命がそこにあるのかさえ疑問になるほど冷たいその目は間違いなくこの俺に向けられている。
口がかすかに動いたが、周りの風の音で声を聞き取ることはできない。
大きく砂塵が巻き上げられて、唯一クリアだった視界もぼやけ出す。
頭がズキズキと小さく鋭く痛みだし、それは徐々に耳鳴りとともに大きくなっていく。
(なんだ・・・あれ)
痛みのせいか、平衡感覚も狂い始め、フラフラと自分の体を支えきれなくなってきた。
いや、それより・・・
微かに見えるそれは二人の男の姿、
今度は見知らぬ二人、金髪の男と黒髪の男、
お互い剣を握り締め、ボロボロの姿だった。
再び視界がぼやけ、先程の男が現れる。
俺と瓜二つの男はそのまま右手を伸ばし、俺の首を掴んだ。
俺はただ無抵抗に首を締められる、この行動が何を意味するのかは分かっている、しかしそれでも抵抗はしなかった。
それはなぜなのかはわからない。
ただ最後に、意識が遠のいていく中で最後に俺が見たのは涙を流す二人の男の姿だった。
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「最悪の目覚めだ・・・」
この俺、大賀弘樹はベッドから転がり落ちた状態で目が覚めた。
頭をさすると大きめのたんこぶができていて、鼻血も出ていた。
さらに夢にうなされていたせいか、大量の汗がにじみ、着ていた服がびしょびしょになっていたことが俺の気分をさらに害した。
「朝か・・・」
当たり前のことを呟き、ゆっくりと身を起こし、隣の鏡で自分の姿を確認する。
相変わらず髪質は変わらないようで、あっちこちはね回ってた。
それでも俺はあまり髪を整えたりはせずに、ある程度おさめるだけだ。
時刻は七時
リビングからは目玉焼きかソーセージか、または魚か、何かをフライパンで焼いている音が響いている。
うん、匂い的に今日のおかずは魚のようだ。
「おはよう姉ちゃん」
「おはよう弘樹、ご飯もう少しで炊けるから、その間に新聞とってきてくれない?」
「いつもやってることだから言われなくても分かってるよ」
そう言って俺はキッチンで料理をする女性、
姉 神崎舞から目線をそらして、玄関のポストに新聞を取りに行く。
季節は春 まだ肌寒さを残しつつ、暖かさも感じられるようになったこの頃、日課となっている新聞紙取りには最近少しだけ変化が訪れた。
それは・・・
「またか」
玄関の前に置かれたダンボールを目の前に俺は大きくため息をついた。
最近になって置かれるようになったこのダンボールは、別に中身が空っぽというわけではないらしい。
といっても送り主が書かれているわけではない。
そしてこれがなかなか重い。
俺は「まじふざけんなよぉ・・・」とボソボソ文句を言いつつも、両手でそれを抱えて中に入る。
おそらく、これが日課になってしまえば腕だけがマッチョになってしまうかもしれない、冗談抜きで。
そういえば中身をあまり詳しく確認したことがなかった。
なんせ中からはなんというか・・・
鉄臭い匂いが漂っていて開けるのを躊躇わせるのだ。
最初は宅急便が間違えて置いていったのかと思って、あちこち電話で問い合わせたのだが、
どこも違うとのこと。
姉ちゃんとの話し合いでとりあえず家においておこうという決定にはなったが、
もうこの際開けてもいいではないか・・・。
そう考えながら、俺はそっと箱に手を伸ばす。
もしかしたら高価なものが敷き詰められているかもしれない、
なんて俺の淡い理想はすぐにぶち壊された。
中にはそれはたいそう古ずんだものばかり、最初に目がいったのは時代劇でよく見る刀、
興味本位で持ってみるととても軽い。
当たり前だった、なんせその刀の刀身は錆び付いてボロボロになっていたのだから、
質量を持たぬ形だけ残ったその刃は触れるだけで斬れると思わせるほどの迫力を感じた。
もちろんそんなことはない。
俺はあっ・・・と間抜けな声を出して刀を地面に落としてしまった。
すると今まで刀としての原型を保つのに必要不可欠な柄と刃の部分が見事に破損してあたりに散らばった。
しばらく固まって、はぁ・・・とため息をつき破片をかき集めるが、なんせ錆び付いていたものだからとにかく細かくたくさん散らばっていた。
手で拾いきるのは無理だと判断して俺は掃除機を取りに行くべく、リビングに戻る。
にしても一体あれは何なんだろうか?
俺の目からすれば、どれも古ずんでいて錆び付いていて、ガラクタのようにしか見えない。
あいにく芸術のセンスはないので芸術的価値はまったく分からない。
では一体誰がこれをうちにおいていってるのか?
実は予想はついている。
この家には俺と姉ちゃんしかいない。
母親は既に他界していて、父親は仕事でどこか遠いところにいる。
親父のことは母親から何も教えてもらってなく、顔も昔の写真で認識してる状態であり、その実は一度も会ったことない。
しかし俺はこの送り主を父親だとほぼ確信しているのだ。
理由は・・・いつも箱に入っている母親宛ての手紙だ。
この贈り物の奥底にはいつも母親宛てに手紙があるのだ。
おそらく母親はその手紙で連絡を取り合っていたのだろう。
中身は見たことないので、よく内容などは分からない。
それより
「母さんが死んだってことは知らないんだよな、親父は」
親父に母さんが死んだという知らせを送る手段はない。
たぶんこの手紙は返信がない母親を心配する内容だと想像している、
俺はいつものように手紙だけリビングのどこかにおいて、そのほかのガラクタは庭に放置した。
まだ余裕はあるが、このままこんなものが送られ続けたら庭がダンボールで埋まってしまいそうな予感がした。
そうなってしまえば辺りを鉄の異臭で覆ってしまうだろう、そんな事態になる前に処分を検討しないと・・・。
「弘樹ーご飯食べないの?」
姉の声で俺は現実に戻され、いつものように慌ただしく学校に向かうのだった。