桃のお話
昔々あるところに、旅をしているお侍さんがいました。
川沿いの道を歩いていると、一本の木が生えているのを見つけました。木にはいくつかの桃がなっており、よい香りがします。
ちょうどのどが渇いていたお侍さんは桃の木に近づきます。
「こ、これは……」
木のそばまで来たお侍さんは口をぽかりとあけて、一抱えほどもある桃の実を見上げました。他の実はすべて手のひらに収まる大きさなのに、川の上にせり出した枝に実ったそれだけが異彩を放っています。
暫く大きな桃を見ていたお侍さんですが、気を取り直して手近にある桃の実を摘み取ると、その拍子に大きな桃が枝から外れ、川へとぽん。
川に落ちた桃はどんぶらこっこ、どんぶらこっこと珍妙な音を奏でながら見る間に流れ去っていきました。
それを見送ったお侍さんはもいだ桃を食べ終わると、再び旅を続けることにしました。