これ面白いかも
さてと、書店で株の本をいろいろと覗く。
難しそうなのは初めから読みたくない。
雑誌がいいわ。でも、こういうのって付録もついていないのに結構高いのね。おまけにバッグとかついているのはないかしら。それでも、この売場、人がいつもいる。しかも高齢の方が。
これが分かりやすいかなと思う本を二冊選んでレジに行く。
「あの、今月号がないんだけど」
私の前で並んでいる女性がメモを見せながら話している。
「ああ、この財テクの月刊誌はすぐ売り切れてしまうんです。ご予約されますか」
「お願いするわ」
「かしこまりました」
そんなにいいのかしら。思わず耳がダンボになりそうだわ。
しかも、彼女は他にも一冊手にしている。私と同じ本。少し安心する。きっとわかりやすい本なのね。
二冊で一九八〇円。主婦にとっては結構な値段だわ。普段は雑誌なんて買わないのに、こういうのは立ち読みだけでは読み切れないもの。芸能人のあれこれや女性誌の服なんかすぐに飽きちゃうのだけど、このマネーに関する本は売り切れてしまうとは。アベノミクス恐るべしだわね。
株の本には私の嫌いなグラフやら数字があふれているのだけど、自分の株が上がるか下がるかということに関しては興味がわくのね。初めてパソコンに向かってファイナンスのページを開く。
目に飛び込んできたのはノーベル賞関連の株だって。
あと二週間でノーベル賞は発表だわ。
ふむふむ、あの作家が取るかどうかで出版社の株。
化学や物理学関連の企業だって。ふーん、そうか、そういう見方もあるわね。世相というかそのときの流れね。
「買いです!」
こういう言葉があちらこちらに書かれている。そういえば、セミナーとやらのダイレクトメールも来てたな。読んだらポイ、読まなくてもポイとしていたのを思い出してチリ箱を探す。
あった!
証券会社の投資セミナー。ハラホ証券じゃないけど行ってみるか。大手だから何かされちゃうなんてこともないだろうし。とりあえず予約の電話。
「もしもし、今日のセミナーですけど、突然ですが構いませんか」
「はい、ではお名前と電話番号、住所をお願いします」
これで、少しは株のことも分かるかしら。
あまり着飾っていくのもお金があると思われるから危ないわね。誰も見向きもしないだろうに妙に意識する私。自分で笑えてくる。
行って驚いた。会場は三十人くらい。お年寄りが多いかと思えば四十代くらいの男性や若い女性もいる。東京ならともかく地方でもこういう人がいるんだわ。
資料も分厚いものが用意されている。
講師の先生は証券会社のやり手の人のようだ。話が歯切れ良くて実に軽快。
「この株は皆さん買いましたか? これはいいですよ、これから先の日本にはエネルギーがなくては話になりません。そしてそれを支える技術。この分野の日本の成長は他国を圧倒する力があります」
そうなのか。講師は今の株の成長とアベノミクスによる証券会社の好調な成績が自分の言葉にさらに自信を植え付けているようだ。
みんな熱心にメモをしている。私は彼が話す銘柄を次々に書きながら、投資家の気分になっていった。帰りに大根でも買う気分で、株をいくつか買いたいと思ってしまうほどだ。
あっという間の二時間。口座を開設するハラホ証券の新堀東進さん、早くしてよと言いたい気分になった。
帰ってからまたパソコンを開く。
講師が話していた銘柄は確かに上がっている。だが、これを今から買っても高い値段で取引するので儲けはあるのだろうかとも考える。アベノミクス前に講師の話した株を買った人は百円上がっているから、千株で十万円儲かったことになる。すごい世界だな。私だったらその儲けでブランドのバッグを買おうかしらと、まだ、何の株も買っていないのに夢は膨らむ。
ノーベル賞関連の株のことを思い出した。
日本の化学者が取りそうだと、その化学物質の名前が記されてる会社の株が値上がりしている。
「速いなあ。朝からもう十円も上がってる」
東進さん、開設はまだなのかしら。そう思っていたら電話が鳴った。
以心伝心。
「もしもし、開設しました。明日は資料をお持ちします」
「はい、よろしくね。ねえ○○工業っていいと思うんだけど」
「はい? ああ確かに昨日から出てきましたね。ノーベル賞狙いでしょうね」
「そうなの、今日は投資セミナーに行ったの」
「え? どこの?」
「NNN証券よ」
「そうでしたか。では早速今から資料をお持ちします。いらっしゃいますか」
のんびりしていてはダメと思ったのね。
東進さん。そうよ、私は買う気分になってるんだから。