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あらまあそうなのね

 暇だし、彼は誠実そうだし、とりあえずハンサムだし、若いし、居間に入れた。

「今はアベノミクスとか言って景気よさそうじゃないの。でも、私なんか全然関係ないわ」

「はい、それでも、株式市場は結構面白い展開になると思います」

「ふーん」

「株に興味はおありですか」

「そうね、でもお金はない」

「それでもご主人はお勤めで、奥様は専業主婦ですよね」

「そうよ、昔は働いていたけど。今はどっぷり主婦」

「いいですね」

「ええ、旦那様のおかげです」

「株はいくらからでも始められます」

「ふーん」

 そうか、大金がなくてもできるのね。へそくりが三十万円あったわ。

「自動車関連が面白そうね。景気よさそうじゃない」

「はい、それもいいと思います」

「ふーん、いくら」

「Tが六千円くらいですね」

「あら、じゃひとつ買おうかしら。六千円ね」

「いや、あのう、一株では売られてません」

「じゃ、十株?」

「いえ、百株です」

「えええええ!! 六十万円なの? 無理無理」

「はい、でもお安く買える株もたくさんあります」

 東進さんはタブレットを見せてくれた。そこにはグラフや数字が頭が痛くなるほど並んでる。

「それで、どのように投資してみたいとお考えですか?」

「どのようにって(儲けたいだけよ、楽して)」

「長期的に持って増やしていこうと?」

「うーん、ときどき小遣い程度が入ったらいいわよね」

「では、毎日この株価を見て売り買いされたりするのは?」

「そんなの、無理。タブレットないし。数字ばかり追いかけるのはいやだわ」

「そうですか」

「では、オープン投信なども取り扱っているので、毎月分配金が出るというのはいかがですか」

「ふーん、それいいわね」

 夢は膨らんでいく。私のへそくりがどれほどなのか自分でも忘れている。億ぐらい持ってる気になってる。

「ではまず口座を開設しないと取引できませんので」

 東進さんはたくさんの書類を取り出した。

 うわ、こんなに書くのか。

 手取り足取りいろいろ習いながら書いていく。免許証もいるのね。印鑑も。

 書き終わって、すぐに買えるものではなくて書類審査が通ってからなのね。

「株主優待とかあるんでしょ」

「どの株にもあるというものではありません」

「あら、そうなの。テレビでは株主優待生活を送ってる人もいるって言ってたわよ」

「ではこの本を」

 分厚い四季報。見たことある、この本。必ず書店にあるわよね。誰が読むのかと思ってたら株の本なのね。

「最後の方に株主優待のページがあります」

「あら、一株から株主優待が出るのもあるわ」

「その株価は一株百二十三万円です」

「ええええええ!!」

 そうか、大きな株なのね。昔そんな話があったような。あれは大根の仲間か。

「では早速この書類を持ち帰って口座の開設を急ぎます」

「この本を貸してくださる」

「はい、どうぞ」

 東進さんはこの団地を歩き疲れていたせいか、たった一人の顧客を見つけて喜んで帰って行った。

 分厚い四季報を片手にいろいろな株主優待を探す。

 持ってるのは三十万円。

 どーんと儲けて家を買おうか。

 アベノミクスって人は言ってるじゃないの。

 儲け話がきっとあるんだわ。


 

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