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明日は明日の風が吹く

 ふーっ、ため息。

 あの日のことは言いたくない。

 CHI?

 何よ、それって感じ。

 私の株は凍りついたまま。売ろうにも売れないわよ!

 買い手がいるかって?

 いないわよ!

 いつか、落ち着いたらまた上がるかも。ふーん、何年先の話になるやら。

 デワホームの株主優待があるじゃないかって?

 決算報告で新興国にホテル建設していたけど、思わぬ赤字決算になったとか。

 株主優待をやめるって!!!!

 なんだったのよ、この二週間余り。

 今日は休日。

「おーい、コーヒー入れたよ」

「はーい」

 重い足取りで食卓へ。

「いい香り。あら、それ、ケーキ?」

「ああ、買ってきた。うまいぞ、あの雑誌に出ていたミルフィーユだから」

「わあ、嬉しい。この頃はコンビニもおいしいケーキがあるわよね」

「本当だね。それにしても株主さんは暗い顔だなあ」

「だって……」

 やめとこう。へそくりの額がばれちゃう。

「まあ、いいじゃないか。世の中の経済にも触れて」

「ええ、いい勉強になったわ。それにしても、あなたの方はなんだかご機嫌じゃないの」

「いや、まあ」

「何々? 何かいいことあったの?」

「ああ、年金保険が満期になってね」

「いつ入ったの?」

「うん、教え子が保険会社に勤めてて、十年前に入ってくれって頼まれちゃって」

「ふーん、いくら?」

「二百万のに入ったら、一割入った」

「ええっ!!! 二十万?」

「ああ、だからケーキ」

「いいなあ!!!」

 まるでウサギとカメの話みたいね。のんびり十年待ったら二十万円。私なんか怒涛の二週間で……。世の中ってそうなのね。

 羨ましい視線をずーっと送っていたら、金利が仕方ないなとつぶやいて財布からお札を取り出した。

「はい、五万円。僕は新しいカメラがほしいから」

「え? くれるの?」

「まあ、服でも買いなさい」

「きゃーっ、嬉しい!」

 ボーナスでも給料日でもない日にお金をもらえるなんて。すごいパトロンに出会った感じ。美味しいケーキを頬張りながら素敵な旦那様にウインクする。

「君って本当にゲンキンだな」

 呆れ顔で笑う金利。

「じゃ、カメラを見てくる」

「はーい」

 金利の後姿が頼もしく見えちゃう。

 では、私はネットで服を見ようかな。五万円もあるし。


 パソコンを立ち上げるとネットの証券会社の広告が目に入る。

「もうしないって決めたわ」

 でも、トピックスに道路関係の株がいい調子と書いてある。

「そうよね、これからの日本はそうよ。外国からお客様も来るし。五十年経った高速道路はそろそろ傷んでいるころだわね」

 でも、へそくりは消えた……、消えてない。ここに五万円。

「少しずつやればいいかも」

 ハラホ証券には悪いけどネットなら手数料が安いわ。

 確実に増やすにはそういうところも大事よ。

 フムフム。

 すべてを記入し口座開設申し込み完了。

 ケータイが鳴った。

「もしもし」

「僕だけど」

「あら、あなた。どうしたの? カメラはあった?」

「うん、でもちょっと予算超過して」

 ドキ、返せって言うのかしら。

「君の誕生日プレゼントを買う分がなくなった」

「だって、さっき五万円くれたじゃないの」

「あれでいいかな」

「もちろんよ」

「じゃ」

 どこまでいい人なんだろう。私って幸せね。

 それなのに、私ったらまたこんなことして。


 でも、今度は儲けたらあの人のものを買ってあげることにすればいいんじゃない?


 うーんと高いカメラバッグを買うわ。三脚も付けて。


 ニーサは行く。


 どこまでも。


 



最後まで付き合ってくださってありがとうございました。

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