それならば、こうする!
めげないわ。
「○○工業でやった私の腕を見せてあげる」
どの腕か、自分でもよくわからないけど。
「まだ、へそくりは残っているわ」
ちゃんと勉強してから買うのよ、じっくりと株式市況も見て。
ふむふむ、自動車関連よね。四菱自動車なんていいんじゃない? 新興国でも売れてるっていうし、消費税が上がる前にどっさり売れるんじゃないかしら。最近は株価が上がってるわね。高値で買うのか、無理だわね。四千五百円の千株って、へそくりでは足りないわ。
じゃ、機械関連でいいものはないかしら。
CHIなんてどうかしら。ここはNNN証券の投資セミナーで、エネルギー関連の事業では断トツだって言ってたわ。そうよ、これからは技術がものをいう時代よ。二百六十八円で千株。大丈夫よ。
そうそう、掲示板を見てみましょう。
『中東での契約が決まったそうな。いいねえ』
『まだまだ上がりそうだよ。今のところリーマンショックから百円上がった』
『ぱっと上がりそうな雰囲気はないけど堅実だよね』
これが大事。堅実。二十年くらいで倍になればいいか。そういう考えも必要よ。
えーと、株主優待は何くれるのかしら。
ない? あ、つまんない。そうなんだ。くれるところとくれないところとあるのね。配当も一パーセントか。燃えないなあ。
いいえ、デワホームより堅実なんだから、これで一息つくのもいいかもしれないわ。株主優待をもらっても全然買ってもらえない株だったら、損するだけだわよ。
そうよ、デワホームの株、今日も下がってる。
何でなのかしらね。テレビでも宣伝してるのに。いやだなあ。
「よし、堅実に買う」
決めた。堅実な割には早い気もするが、東進さんに電話だ。
「もしもし、花村です」
「おはようございます」
「CHIを買うつもりです」
「これはどうしてですか」
「うん、中東でも契約が決まったそうだし」
「すごいですね、そうでしたか、どれどれ。本当ですね」
あら、東進さんより私の方が知ってるなんて。
「今が二百六十八円ですから、千株」
「この値段で買うのですか」
「うーん、そうね、もう少し安く買いたいから二百五十円でお願いします」
「わかりました。今日は上がってるようですけど」
「ええ、今日でなくてもかまいません」
「はい、では、入れておきます」
じっくり買うのよ。焦らずに。私だって考えてるわ。勘だけではダメ。
パソコンで調べてみましょう。
あら、いい株なのね。
上がってるわ。二百七十五円か。すごいわ。小刻みじゃないのね。二百五十円にって無理かもしれない。これは早く買った方がいいってことかもしれないわ。堅実とはいえ、時機ってあるし。
それでも、今日一日くらいは待とう。
待てない。
「もしもし、東進さん」
「はい、今はまだ高いですけど」
「もっと上げるわ」
「いくらにしますか」
「二百六十円」
「あ、そうですか。わかりました」
これから上がる株よ、ダメよ、弱気は。
女は勝負するの。
一時間後。
「二百六十円で千株買いました」
「わ、ありがとうございます」
「上がるといいですね」
「ええ、本当に」
その夜、CHIに注文していた中東の国でクーデターだって。
日本人は帰国ですって。
「オーマイガー」




