あなたはだあれ?
世の中、NISAって喧しいほど宣伝してるじゃないの。
そうよね、これから先、どんな生活が待っているのか、マネー雑誌にはやたらと読者を煽る投資や株の文字。
「花村ニーサ様」
今日も我が家に銀行から届くNISA の申込書。
モットーは清く貧しく生きるって、大声で言いたい。
でも、本音はしっかり楽して稼ぎたい。
できることなら主婦のままで。NISAと同じ名前の私。来年は私の年ね。
父は里沙とか美佐とか付けたかったけど、母が産院にも来なかった父に腹を立て、
「イーだ!」
と子どものようにすねたら、父が面白がってそれにしたとか。イーだではあんまりだからニーサとなる。嘘のような本当の話。
ピンポーン。
「はーい」
眉目秀麗な若い男性がインターホンのカメラに写ってる。
「ど、どなた?」
思わずどもる私。
「あの、ハラホ証券の新堀東進です。投資信託や株に興味はありませんか。これからはNISA も始まりますし」
興味は、株よりあなたにあると、心でつぶやく。
「お時間は取らせません」
嘘ばっかり。もう取ってるけど、顔で許す。
ガチャリ。
ドアを開ける。
「あ、どうも」
今まではインターホンで断られていたのだろう。彼の顔に驚きと喜びが現れる。
そう、おばさんは若いハンサムに弱い。
「私、ハラホ銀行なら口座があるけど、証券は縁がないのよ」
「ええ、それで来ました」
「あら、個人情報が洩れてるの?」
「い、いいえ。この地区を隈なく今日は訪問させていただいてるんです」
「そう、おいくつ?」
なぜ、ここで年齢が必要か、単なるおばさんの興味だ。
「29です」
「あら、若いのね」
とりあえず、玄関に招き入れる。
新堀さんは汗をかいてるけど加齢臭がしない。若いっていいわ。
靴は磨いてるし、ワイシャツは真っ白。スーツは高くはないけど汚れてない。ポイント高いかも。
花村ニーサの日常が変わるってか。