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予算改善を提案するもの

あまり出番が無いあの人の父親が主役です

「今回の仕事ですが、遠糸エンシの長、トオル様の尊父、道夫ミチオ様の護衛だ」

 白水探偵事務所の所長であり、志耶の上司である風一の言葉に、志耶が驚く。

「それでしたら、零刃よりも直接、遠糸で警護するのが普通じゃないんですか?」

 それに対して風一が溜め息を吐く。

「こっちに回ってきたって所で察しろ。道夫様は、確かに通様の父上であらせられるが、その戦闘能力が低い。それ故に、遠糸の名前には、相応しくないと言う声が多いことくらい知っているだろう」

 それを聞いて猫姫が驚く。

「そんな話があるんですか?」

 犬王が頷く。

「八刃は、徹底的な実力主義だからな。特に本家と呼ばれる家名を名乗る資格を持つ者は、限られている。はっきり言えば、志耶だってかなり危険なラインに居るんだぞ」

 猫姫が驚く。

「うそですよね?」

 志耶が首を横に振る。

「あちき位の谷走の能力だったら、分家の中でも使える人がいるから」

 風一が辛辣に告げる。

「お前が、谷走を名乗っていられるのは、単に、栄蔵様の娘だからだ。そこの所を忘れるな。それより、仕事は、理解したのか?」

「了解しました」

 志耶がそう返事をして、仕事に取り掛かる。



「今回、君が護衛をしてくれるのだね?」

 人の良さそうな中年男性、遠糸道夫が志耶にお茶を出しながら言う。

「はい。よろしくお願いします」

 頭を下げる志耶に道夫が優しく言う。

「そんなに気張らなくて良いよ。今回、私を狙っているのは、遠糸の分家だ。私が大怪我をするような事は、しないよ」

 それを聞いて猫姫が驚く。

「どういうことですか! 何で遠糸の分家の人間が遠糸の長の父親を狙っているのですか!」

「声が大きいよ」

 志耶に注意されて猫姫が口を押さえるが、その表情からは、疑問が解けていないのが解る。

 道夫が自傷気味な笑みを浮かべて言う。

「分家の人間にとっては、私は、力が無いのに、長の父親だって事だけで偉そうな事を言っている人間と思われているのだ。今度の予算配分で、私がいくつかの改善案をあげた事に対しての反発なのだ。ついさっきこんな矢文が届いたよ」

 差し出されて手紙を志耶達が読む。

 犬王が呆れた顔をして言う。

「『身の程知らずの無能力者が余計な事をすれば命を落すぞ』ストレートな脅迫文だな」

 志耶が真面目な顔をして言う。

「これは、遠糸の長には、報告されておられるのですか?」

 それを聞いて道夫が首を横に振る。

「これを娘に見せたら、あれは、感情的になって、これの送り主を探し出し、処罰するに決まっている」

「されて当然だと思います」

 猫姫の言葉に志耶も頷くが道夫が真摯な顔で言う。

「それは、駄目だ。娘が長になってからまだそう多くの年が経っていない。分家の中には、まだ娘を長と認めていない者たちも多く居る。そんな状況でそんな事をさせたら、娘が不利になるだけだ」

「しかし、それでは、貴方の身に危険が及びます」

 志耶の言葉に道夫が苦笑する。

「だから、八刃の長に頼って、君を派遣してもらった」

「解りました。精一杯やらせていただきます」

 志耶がそう宣言するのであった。



 その後、道夫を護衛として、ホテルの向かう志耶達。

「これから、白風の分家頭筆頭の補佐役の人と会う約束をしているのだよ」

 道夫の説明に頷き進んでいくと、案内された場所には、二人の男性が居て、一人は、なんと矢道だった。

「お兄ちゃんがどうして?」

 志耶が驚いていると矢道が小さく溜め息をついて言う。

「護衛任務中は、余計な私語は、慎め」

 慌てて口を塞ぐ志耶。

「態々ご足労頂きありがとうございます」

 もう一人の男性が立ち上がり、頭を下げる。

 道夫も頭を下げて言う。

「こちらこそ、白風の分家頭筆頭の補佐である、クレナイ正一ショウイチ殿と直接話せる機会を頂き、感謝しております」

 それを聞いて苦笑する正一。

「私は、単なる一般人、遠糸の本家筋の血を引く道夫様にそこまで言っていただける身分では、ありません」

「いえいえ、無力な私と違って、白風の分家頭筆頭を本質的にサポートしている正一ショウイチ殿の方が八刃では、立場は、上です」

 道夫がそう告げて、お互いに苦笑しあった後、正一が言う。

「いまだ、白風に属している遠糸の分家の中には、遠糸に戻る上でのネックが貴方だという声もあるのは、確かです」

 それを聞いて道夫が辛そうに言う。

「やはり、そうですか。遠糸の長である娘も私に遠慮して、その辺りの事情は、あまり口にしないのです」

 正一が真剣な顔をして言う。

「しかし、私は、道夫様が遠糸に必要な人間だと思っています。これは、八刃の長も同意権だと伺っています。いま進められている予算改善案も素晴らしいものだと確信しています」

 道夫が難しい顔をして言う。

「それでも、私が居ることでのデメリットを考えましたら、予算を決めた後には、いまの立場を退くべきかと考えています」

 そんな難しい話があり、次の会合の予定を決めて分かれようとした時、矢道と犬王が動く。

『影刃』

 矢道の影の刃が向かってきた矢を切り落とし、犬王が道夫に当たっていただろう矢を受け止めていた。

「志耶、護衛をしている時は、自分に向けられた殺気だけでなく、護衛対象への殺気も察知できなければ失敗するぞ」

 矢道の言葉に悔しそうに頷く志耶。

「道夫様、志耶ではやはり力不足なのかもしれません。八刃の長に頼み、腕が立つ護衛を配置してもらいましょう」

「次は、ちゃんと守ってみせる!」

 志耶の言葉に矢道は、辛辣な言葉で返す。

「犬王が居なければ護衛対象を負傷させていた人間が言える言葉では、ない」

 それで黙るしかなくなる志耶。

「志耶さんの事は、直接八刃の長から指定された事で、私も了解していますので、気になさらないで下さい」

 道夫の答えに矢道が複雑な顔をして頷く。

 そんな中、猫姫が言う。

「ところで、襲撃した人を追いかけなくて良いのですか?」

 犬王が頭を掻きながら言う。

「やった奴なんて矢道がとっくに確認済みだ」

 猫姫が安堵する。

「もう、襲撃は、無いですね」

 それに対して正一が言う。

「残念だけど、それは、ない。八刃の場合、身内の襲撃は、自己反撃で対応という事になっている」

 道夫が苦笑しながら言う。

「残念ながら、私も紅正一殿もそれは、無理だろう」

 猫姫が疲れた顔をして言う。

「とことん実力主義なんですね」

 頷く一同。



 帰り道、道夫に志耶が言う。

「襲撃があっても、考えをお変えにならないのですか?」

 道夫が頷く。

「八刃は、現在、大きな二つの流れがある。八刃の長を中心とする改革派と旧体制の維持を求める保守派。遠糸でも、この争いが激しいのだが、現在の長である、通が改革派の為、遠糸では、改革派が力を持っている」

 それを聞いて犬王が言う。

「確か、保守派は、どちらかと言うと現在の遠糸の長への反発が大きく、遠糸に戻ったのが遅い連中が多いって聞いた事があるぞ」

 道夫が肯定する。

「その通りです。そうなると自然と、予算配分に関しても影響がでます。本来は、均等に行われる筈の予算が、改革派の方が優遇される事が多くなっているのが現状です」

 犬王が頷く。

「だろうな。でも、その状況なら、保守派が、自然と弱体化して、改革派が有利になるんじゃないか?」

 道夫が苦笑する。

「同じ遠糸の中で弱体化を喜ぶのは、間違っています。その為、予算に関しては、中立派のメンバーを中心になる様にしようとしていたのですが、それに予想以上に反発がありました」

 志耶が真剣な顔で言う。

「しかし、それでは、遠糸の長に逆らう人間の締め付けが出来ません。ここは、組織の一本化の為に、多少の差別化は、容認すべきかと思いますが?」

 道夫が首を横に振って答える。

「禍根を残せば、そこに生まれるのは、今の遠糸の長への不満。それは、娘だけでなく、子々孫々までの問題になってしまいます。私は、それを回避したいのです」

 強い意志を籠めた言葉に志耶は、何もいえなくなる。

 そして、道夫を家に送り届けた後、自分の家に帰る途中、猫姫が言う。

「道夫様は、立派な人ですね」

 志耶が頷く。

「そうだね。でも、八刃では、力ない人は、認められない」

 犬王が志耶の頭に手を置き言う。

「今の八刃だ。八刃の長達がやろうとしている改革が上手く行けば変わっていける筈だぜ」

 志耶が頷く。

「そうだね。あちき達とやり方は、違うけど、道夫様も戦っているんだから」



 遠糸道夫様の護衛結果報告書



 道夫様への襲撃は、数度にわたり行われましたが、全てにおいて道夫様が負傷される事は、ありませんでした。

 襲撃の詳細については、以下に記述します。



 中略 



 辞任を予定されていた道夫様ですが、遠糸の有力者からの留任要請もあり、現在の職務を継続される事になりました。



 零刃所属 谷走志耶



 八刃の長、オオトリクラベ、ヤヤの経営する、ぬいぐるみショップ、シロキバ。

「今回は、ありがとうございました」

 ヤヤは、店でバイトする孫を迎えに来た道夫にお礼を言う。

「お礼を言うのは、こちらの方の筈ですが?」

 道夫の言葉にヤヤが言う。

「志耶の才能は、後方支援に特化しています。本人がトラウマから、それを望んでいませんが、彼女のその才能が必要な時が来ます。その為に、貴方のように間接的に戦う人の姿を見せておきたかったのです」

 道夫が首を横に振って言う。

「尚更です。この後に起こるだろう大戦では、私は、大した力にもなりません。その時の為に、一人でも多くの才能を開花させる必要があります。それこそが、娘や孫達を助ける必要な事なのですから」

 小さく溜め息を吐くヤヤ。

「正直、若い才能を戦いの為に伸ばすのは、大人として悲しいことだと思います」

 道夫も辛そうに頷く。

「そうかもしれません。それでも、明日を生きるために必要な力です。お互いにがんばりましょう」

 頷くヤヤ。

「お祖父ちゃん、おまたせ」

 道夫は、孫達を連れて家族での食事会に向かうのであった。

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