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縁の下の力持ちを望むもの

八刃から抜ける疑いを持たれた神谷の分家の女性の調査

「今回の仕事は、随分と曖昧ですね?」

 猫姫の言葉に志耶が頷く。

「時代錯誤な仕事だしね」

 犬王が呆れた顔をして言う。

「それにしても、八刃の仕事が嫌になって逃げだそうとしてるかもしれない神谷カミヤの分家の人間の調査なんてつまらない仕事だな」

 志耶は、肩をすくめる。

「未だにこんな事件もあるのかと、あちきは、驚いているよ」

 猫姫が尋ねる。

「珍しいですか?」

 志耶が苦笑する。

「一昔前は、多かったみたいだけど、ヤヤさんが八刃の長に納まってからは、事情を説明すればある程度は、認められる事になってるよ」

「それでも、公式なスポーツやあまり表立った仕事に関しては、許可が下りないこと多いだろう」

 犬王の突っ込みに志耶が頬をかく。

「スポーツに関しては、やっぱり常人と作りが違うからね。伊達や酔狂で人外って呼ばれていない。遺伝子レベルから常人と異なり、運動能力等が桁違いなんだから無理だよ」

 犬王が頷く。

「分家の奴らでも、世界記録を平気でクリアする奴らが居るくらいだ。そんな連中がスポーツに参加したら大変な事になるな」

 猫姫が手を上げる。

「それでは、公になるのが拙いと言うのは、どうしてですか?」

 志耶が視線をそらして言う。

「八刃ってかなり公に出来ない仕事とかもしてるからね」

「以前の仕事を忘れたか。法律上は、ともかく、人道的に問題ある仕事をしてる連中が多いだろうが」

 犬王の言葉に猫姫も顔を引きつらせる。

「とにかく、今は、この仕事を無事に終わらせることが大切」

 志耶がそういって、劇場から出てくる女性を見る。

「あれが、問題の人ですか?」

 猫姫の言葉に志耶は、資料を確認しながら言う。

「間違いないよ、神田朝三アサミ。母親は、分家の中でも屈指の使い手らしく、本人も次期分家頭筆頭候補にあがる実力者よ」

 それを聞いて犬王が言う。

「皮肉な話だな。才能無いって言われているお前が、才能があるのに抜けようとする奴の調査をするんだからな」

 志耶が真剣な顔で答える。

「昔、八刃の長に言われた事がある。才能は、方法を選択する基準でしかない。やるやらないは、本人の気持ちしだいだって」

 猫姫が感心する。

「流石は、八刃の長ですね、いい事を言います」

 それに対して何度もボコボコにされたことがある犬王が言う。

「本人が目的の為だったら手段なんて選ばない性格だけどな」

 遠い目をする犬王を見て猫姫が言う。

「何かやったんですか?」

 犬王が答えようとするが志耶が止める。

「八刃の長の武勇伝は、外で話せるほど穏やかな物じゃないから」

 あっさり犬王も頷く。

「そうだな」

 そんな二人の対応に猫姫が冷や汗を垂らす。

「どんだけ凄いことをしたのですか?」

 志耶と犬王は、答えなかった。



 安アパートに朝三が帰り着いたのを確認して、志耶が言う。

「劇場での練習の後、自立の為のバイトをして、今時信じられない三万の家賃の部屋に帰る。かなり危険な状態だね」

 猫姫が資料を見て言う。

「三万って、ありえますか?」

 犬王が安アパートを指差して言う。

「あそこまで明確な幽霊が漂うアパートに住む一般人がいると思うか?」

 常人にも見えそうなくらいはっきりとした幽霊を見て猫姫が首を横に振る。

「そんな事より、家を出る算段をしているのは、間違いないみたい」

 志耶の言葉に犬王が言う。

「ここまで調べれば十分じゃないか? 八刃でも芸能関係の仕事は、許可されてない筈だ。それで、独立を狙っている風にしか見えないだろう」

 志耶も頷くのをみて猫姫が言う。

「これを報告したら朝三さんは、どうなるのですか?」

 少し考えてから志耶が言う。

「強制的に家に戻され、劇団関係との繋がりを徹底的に絶たれる。下手すると所属している劇団自体を潰されるかも」

 犬王が補足する。

「八刃は、マスコミ関係には、強い監視網があるからな。当然、強い影響力もある。小さな劇団を一つ潰すくらい、簡単だろうな」

 猫姫が涙目になる。

「それって本当に良いんですか?」

 志耶も困った顔をする。

「まあ、かなり後味が悪いかも」

 一人、犬王だけは、クールに告げる。

「お前が報告しなくても別の人間が調査すれば判明する事だぞ」

 それを聞いて、志耶は決断する。



「貴女なに? 今日、ずっと尾行してたみたいだけど」

 訪れた志耶を部屋に入れた朝三の言葉に犬王が言う。

「隠密行動が得意とする谷走の人間が尾行にきづかれるなんてな」

 志耶が睨む。

「うるさい! それだけ朝三さんが優秀だってことだよ!」

 そんな会話で志耶の正体をしった朝三が言う。

「零刃の調査ね。あたしが家を出るかもって疑いが掛けられているんでしょう?」

 志耶があっさり頷く。

「はい。たぶん、今日の行動を報告したら、何かしらの処分を受けると思われます」

 それに対して朝三が苦笑する。

「誤解しているわ。あたしは、有名になりたい訳じゃない。ただね、好きな人が演劇でがんばりたいというのを応援したいの。その為のお金だから自分で稼ぎたいだけなのよ」

 犬王が周りを見回して言う。

「詰まり、そこに写っている男がヒモな訳だな」

 眉を潜める朝三。

「酷い事を言うわね。彼は、本気なの。だからあたしは、家を出て劇場の手伝いもやってるわ」

 猫姫が安堵の息を吐く。

「良かったです。これで処分は、されないですみますね」

 志耶も頭を下げる。

「ありがとうございました」

 そして部屋を後にする志耶達であった。



 その夜、犬王は、矢道と共に朝三のアパートの近くまで来ていた。

「あんたは、このまま志耶に報告させて良いと思うか?」

 矢道が真剣な目で言う。

「お前が態々そんな事を聞いてきてるんだ、何か感づいたんだな?」

 犬王が嫌そうな顔をして言う。

「あの部屋でな朝三とは、異なる女の強い体臭を感じた。志耶は、想像もしない時にする奴だ」

 それを聞いて矢道が舌打ちする。

「この手の話は、無い訳じゃない。八刃の人間は、よく言えば恋愛にズレしていない。悪く言えば恋愛に単純だから、騙される事が多いんだ」

 犬王が真剣な目付きで言う。

「あの女に伝えるか?」

 それに対して矢道が苦笑する。

「男が殺されるだろうな。しかし、そうなったら志耶が辛い目に会うな」

 犬王が嫌そうな顔をするのを見て矢道が続ける。

「男には、八刃の怖さを知ってもらおう」

 犬王が苦笑する。

「お前らは、やっぱ怖い組織だな」

 矢道は、答えない。



 翌日の朝。

「それじゃあ、あたしは、バイトに行って来るから」

 朝三が手を振って出て行く。

 その際に、周りの幽霊に睨みを利かせるのを忘れない。

 朝三が出て行った後、その彼氏、倉田クラタ誠也セイヤが手を振って送り出した後、朝三が見えなくなった所で、携帯をとりだす。

「直美? 俺、だけどこれから遊ばない? 金だったら、俺の財布から貰ったから大丈夫だぜ」

『貴方も女を食い物にする男なのね!』

 誠也の目の前に女性の幽霊が現れた。

「嘘だろ!」

 驚く誠也に携帯の相手が慌てる。

『誠也、どうしたの?』

 だが、その間にも女性の幽霊は、誠也に詰め寄るのであった。

『許さない! 絶対に許さない!』

 誠也は、携帯を投げつけ逃げ出そうとするが、その目の前に別の幽霊が現れる。

『演劇を馬鹿にするなよ! 俺は、演劇の為なら死ねるんだ!』

 その男を見た時、誠也が叫ぶ。

「嘘だろ! なんで、舞台稽古の事故で死んだ筈の先輩がここに居るんだよ!」

 顔見知りの幽霊だったらしい。

『女を食い物にする最低男は、死ぬべきなのよ!』

 後ろから女性の幽霊が近づき、前からは、男の幽霊が詰め寄る。

『もっとだ! もっと練習するんだ!』

 誠也は、悲鳴を上げる。

 そんな所に朝三が帰ってくると素早く箒を手に取り呪文を唱える。

『我は神をも殺す意思を持つ者なり、わが剣に我が意を宿せ』

 朝三の気が篭った武器と変化した箒は、一振りで幽霊を滅ぼした。

「大丈夫?」

 誠也は、頭を抱えて言う。

「ごめん。俺が演劇を好きなんて言うのは、嘘だったんだ! 劇団に入っているって言った方がもてる思って居ただけなんだ!」

 朝三が顔を引きつらせ、一気に目付きが危なくなる。

「つまりあたしを騙していたのね?」

 震える誠也は、この幽霊アパートに幽閉された後、故郷に帰っていった。



 神田朝三についての調査報告書



 該当者は、あくまで付き合っていた男性に奉仕する為に劇場に足を運んでいて、表立った舞台に出るつもりは、無いと明言して居る為、問題は、ないと思われます。

 詳細を以下に記述します。



 中略



 しかしながら、付き合っていた男性が急に故郷に戻る事になり、神田朝三も実家に戻ることになりました。



 零刃所属 谷走志耶



「でも、いきなりでしたね?」

 志耶の家での朝食の中、猫姫が言うと詩卯が言う。

「本当だね。何かあったのかな?」

 志耶がしたり顔で言う。

「男の人も現実と言うのを理解しただけだよ」

 そんな志耶を見て苦笑する犬王と矢道であった。

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