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許容範囲で調査するもの

志耶の普通の一日のお話

 志耶の一日は、猫姫のアップから始まる。

「志耶様、朝ですよ」

 志耶が欠伸をしながら体を起こす。

「おはよう、猫姫」

「おはようございます、志耶様」

 猫姫があいさつを返し、部屋に出て行く。

 この後、志耶達の母親、エテーナの手伝いをするのだ。

 志耶は、トレーニングウェアに着替えて、朝のランニングに入る。

 ランニングを終えると別ルートで走っていた、背が高い、志耶の兄、矢道ヤドウと合流して体術と基本的な谷走の技も含んだ模擬戦を行う。

 それが終え、軽くシャワーを浴びていると、眠そうな目で金髪の少女、志耶の妹、詩卯シウが入ってくる。

「おはよう、志耶お姉ちゃん」

「まだ寝てたの? 基礎トレーニングぐらいは、やった方が良いよ」

 志耶の言葉に小さく頷くが朝が弱い詩卯は、服を脱ぎながらも眠りそうになっている。

 シャワーも追え、リビングに行くと、志耶達の父親、栄蔵エイゾウが各種朝刊に目を通している。

 因みに、その横では、呑気にテレビを見ている犬王が居る。

 実は、この二人は、志耶達より先に起きて、トレーニングを済ませている。

「「おはようございます」」

 頭を下げる志耶と詩卯。

「おはよう。ご飯の前に一面記事くらいは、目を通しておきなさい」

 栄蔵の言葉に従い、志耶と詩卯は、朝刊に目をやる。

「そんな物を読んで何か楽しいのか?」

 犬王がつまらなそうな顔で言うと志耶が朝刊を叩きながら言う。

「谷走の主な仕事は、情報収集があり、その為には、社会の動きを知る必要があるの!」

「はいはい、そうですか」

 馬鹿にした様な態度に志耶が不満そう顔をする。

 そうしている間に、金髪の落ち着いた雰囲気の女性、志耶達の母親、エテーナが朝食を持ってやってくる。

「みんな、ご飯よ」

 こうして朝食が始まる。

 テーブルにつくのは、志耶の家族と志耶の血の束縛を受ける犬王と猫姫。

「お代わり!」

 犬王が朝から三杯目のお代わりを要求する。

「居候は、三杯目そっと出すって言葉を知らないの?」

 志耶の言葉に犬王が平然と返す。

「俺の世界には、無かったな」

 睨む志耶。

「良いのよ」

 優しい笑みを浮かべるエテーナ。

 ご飯が終ると、志耶達は、八刃学園に向かう。

 その間、犬王は、八刃の特殊施設で、戦闘訓練の相手をする仕事し、猫姫は、エテーナの家事を手伝う。

 そして、志耶は、学校が終ると零刃のアジトの一つ、表向きは、探偵事務所の白水探偵社に行く。

「おはようございます」

「遅いですね!」

 そう返すのは、この事務所の所長で、零刃の中間管理職、白水シラミズ風一フウイチが神経質そうな顔で文句を言ってくる。

「何時も言っているでしょう、時間には、正確に動いてくださいと」

 その言葉に、一緒に来ていた猫姫が反論する。

「志耶様は、遅れたくて遅れた訳では、ありません。学業の為に遅れたのです」

 風一は、肩をすくめて言う。

「それがナンセンスなのです。こちらの仕事が決まっているのですから、断れば良いのです。八刃学園なら許される事の筈です」

 実際、それが可能だったが、志耶としては、重要な仕事が入っていない限り、その権利を行使する気は、無かった。

「猫姫、もう良いの。すいませんでした」

 あっさり頭を下げる志耶に不満そうな顔をする猫姫も引き下がる。

「まあ、良いでしょう。仕事が入っています」

 風一は、そう言って資料を取り出す。

「間結の表の仕事の一部ですが、一部の者が過剰な術を使っていると指摘があります。調査してください」

 資料を受け取り志耶が答える。

「すぐに取り掛かります」

 志耶がそのまま出て行こうとした時、同じビルにある探偵事務所の所員の女性、水島ミズシマウグイスに遭遇する。

「あら、志耶ちゃん来てたの?」

「はい。鶯さんは、こっちから流した仕事の報告ですか?」

 志耶の言葉に鶯が苦笑する。

「そう。本当におじさんがもう少し営業努力してくれれば、こちらから仕事を流してもらう必要なんて無いのにね」

 そこに風一が駆けつける。

「鶯さん! そんな所でバイトと話してないで中に入ってください。とっておきのケーキが有るんですよ」

「何時も悪いですね」

 鶯の言葉に鼻の下を伸ばして風一がいう。

「良いんですよ。仕事をやってもらっているお返しですから」

 そんな会話に呆れた顔をしながら志耶が言う。

「いって来ますよ」

「さっさと行ってください」

 邪魔者を追い払うように手を振る風一。



 バスで移動中、猫姫が不満の声をあげる。

「あの人の態度なんなんですか!」

 犬王が馬鹿にした笑顔で言う。

「あいつは、あの女に惚れてやがるんだよ。しかし、馬鹿だよな、あの女は、自分の事務所の所長に惚れてるのは、一目瞭然なのによ」

 資料を確認しながら志耶が言う。

「でも、あの鶯さんとその人は、叔父と姪の間柄だった筈だから結婚出来ないはずだよ」

「いろいろと入り組んだ恋愛関係ですね!」

 エテーナと昼メロを見てる猫姫が興味津々そうな顔をするのであった。

 そんな会話をしている間に目的地に着き、志耶達は、バスを降りる。

 その現象は、直ぐに確認できた。

「これって、人払いの結界ですよね?」

 猫姫の言葉に志耶が頷く。

「間結が地上げによく使う手だよ。地上げをしたい土地で商売をしている場合、そこに人払いの結界を張って仕事の妨害をするの」

 猫姫が眉を顰める。

「よく使うって、もしかしてこれも許容範囲内なんですか?」

 志耶が資料を確認しながら答える。

「以前は、無制限だったけど、ヤヤさんが八刃の長になってからは、二ヶ月以上の使用は、禁止されてる。そこまで根性あるんだったら認めても良いだろうと、間結でも了承したって話だよ。ちなみにここは、一ヶ月目」

 なんとも言えない顔をして猫姫が言う。

「あの、オカルト業界の常識で、一般人に術を使わないって言うのがあるのって八刃は、知っているんですか?」

「必要があれば神だって平気で敵にまわす八刃に一般常識を求めるのが間違いだと思うぞ」

 犬王の言葉に猫姫が嫌そうな顔をする。

「八刃では、金儲けに力を使うのって大丈夫なの。でも、ある程度の制限をつけようとしてるんだけど、それに反発する人も居る。今回のあちき達の調査は、それをチェックする事。次に行くよ」

 再び移動を開始する志耶達の後ろでは、店主達の客が来ない悲しい慟哭が聞こえてきそうであった。



「見事なゴーストハウスだな」

 犬王が感心する家では、少しでも霊感があればくっきり見える幽霊が漂っていた。

「うーん、見た限り、重度の実害を発生させれるレベルの霊は、居ない見たいね」

 志耶の言葉に猫姫が顔を引きつらせて問う。

「まさかと思いますが、これも間結の仕事なんですか?」

 頷く志耶。

「さすがに商売していない所では、人払い結界じゃ、効果が薄いから、ただし、住人に重度の障害を発生させる悪霊を発生させるのは、いけない事になってる」

 その目の前で、赤ん坊を連れた母親が出てくる。

「もうこんな家に住めない!」

「待ってくれ、ここは、先祖代々住んで居る家なんだ!」

 必死に引きとめようとする父親。

 そんな修羅場に猫姫は、罪悪感を覚えるが志耶は、平然と言う。

「次の場所は、遠いのよね」

 そのまま、何もせずに次の場所に向かう志耶達であった。



 最後に訪れた場所は、小さな公園だった。

「子供が居ませんね」

 猫姫が公園を見回してそう呟く。

「そうでもないみたいだぞ」

 犬王が指差した先に、一人の男の子が居た。

 その子は、野球のヘルメットとパチンコで武装していた。

 志耶達が近づくと男の子は、パチンコを向けてくる。

「ここは、絶対に壊させないぞ!」

 頬を掻く志耶。

「聞いて良い、ここって化け物が出るって話だけど、本当?」

 男の子の顔に少し恐怖の色が現れる。

「犬の化け物なんて怖くないぞ!」

 精一杯強がる男の子に志耶が質問する。

「その化け物って何かした?」

 それに対して男の子は、パチンコを握り締めて悔しそうに言う。

「あいつは、エッちゃんを咬んだんだ! 絶対に許さないぞ!」

 ため息を吐いて志耶が言う。

「これは、さすがに許容範囲外だね」

 そんな時に男の子の母親がやってきた。

「良太! 何度言ったら解るの! ここは、野犬が現れるから遊んじゃだめだって言っているでしょ!」

 遊具にしがみ付き抵抗する男の子、良太。

「嫌だ、僕がエッちゃんの仇をとるんだ!」

「馬鹿な事を言ってないで、帰るわよ!」

 母親が叱るが、がんとして動かない良太に志耶が言う。

「その敵討ちは、お姉ちゃん達に任せてくれない?」

「だけど……」

 言いよどむ良太に犬王が言う。

「お前の根性は、俺達が引き継ぐ。安心しろ、明日には、すべて終わってる」

 戸惑う母親に志耶がささやく。

「頼まれて調査に来た者です。今夜中には、駆除も終わってます」

 それを聞いて安堵の息を吐く母親。

「絶対だからな!」

 良太は、母親に連れられて帰っていく。

「どうするのですか?」

 猫姫の言葉に志耶が言う。

「終わらせるわ」



 その夜、一人の男がやってきて、公園の外れの土を確認して戸惑う。

「残念だけど、そこにあった犬の首は、処分させて貰ったわ」

 志耶が告げるとその男、間結の分家の一つ間閉マトジ犬輔イヌスケがにらむ。

「何で邪魔をする。これは、間結としての仕事だぞ!」

 志耶が肩をすくめて言う。

「けが人を出したのは、やり過ぎ。許容範囲外なんだよ」

 それを聞いて苦笑する犬輔。

「散々な事をしておいて今更綺麗事か? 所詮、八刃の長、白風較も本家のお嬢様に過ぎなかったって事だな」

 志耶の目が鋭くなる。

「八刃の人間が八刃の長を侮辱してただで済むと思ってるの?」

 犬輔が余裕の笑みを浮かべて言う。

「大丈夫だろう、お優しい八刃の長は、この程度の事では、怒らないだろうからな」

 明らかな侮蔑に怒りを超えて呆れた顔をする志耶。

「あんた馬鹿?」

「何だと! 所詮、間結の使いぱっしりでしかない谷走の小娘が!」

 犬輔の言葉に流石に志耶もきれた。

「こっちにも我慢の限界があるんだよ!」

「怒ってみたらどうだ? ここは、俺の陣の中。いくら谷走の人間でも、お前みたいな出来損ないには、負けない」

 犬輔の言葉に、志耶が仕掛ける。

影小円エイショウエン

 小型の円形の影が生まれ、犬輔に襲い掛かる。

 しかし、犬輔は、余裕たっぷりの態度で指を鳴らす。

反転陣ハンテンジン

 土の上に魔方陣が生まれ、影の小円が志耶に弾き返される。

「嘘!」

 まともに食らって吹き飛ぶ志耶。

「所詮は、小娘。甘いお前等に何が解るんだ! 八刃だから、本家だからって威張ってられると思うな! だいたい、中途半端なんだよ! 勝手にルールを作りやがって、何様のつもりだ!」

 日頃から溜まっていた怒りを吐き出すように怒鳴る犬輔。

「志耶様!」

 慌てて駆け寄る猫姫。

「近寄らないで、猫姫は、この公園に余計な人が入らない様に結界を張ってて!」

 志耶が痛みを堪えて立ち上がる。

「でも……」

 戸惑う猫姫に犬王が言う。

「そいつは、自分の仕事の手伝いをさせるつもりは、無いから諦めろ」

 悔しそうな顔をする猫姫。

 犬輔がそれを聞いて馬鹿にした様な顔で言う。

「流石は、本家のお嬢様、そんなくだらない意地をはってられるなんて羨ましいねえ!」

「何だと!」

 犬王が睨むと犬輔が肩をすくめる。

「お前らみたいな強力な下僕を使わないなんて、驕り以外のなんだと言うのだ!」

 猫姫は、真剣な目で否定する。

「志耶様は、他者を血の力なんかで縛るのを嫌っているだけです! 決して驕ってる訳では、ありません!」

「それが驕りだと言う! そいつだけじゃない、本家のやつ等は、強大な力を持っているから、驕り、綺麗事を言う! やつ等に見たいな化け物に俺達の何が解る!」

 犬輔の言葉に、志耶がゆっくりと近づきながら言う。

「それじゃあ貴方に本家の何が解るの? 八刃の長がどれだけの重圧に耐えているか、解るって言うの?」

 一瞬だけ口篭るが犬輔は、反論する。

「どうせ、自分だけは、綺麗に居たいんだろう!」

「ふざけないでよ! ヤヤさんがどれだけ泥を被ったか! どれだけ苦しんだか! あんたは、知ろうともしてないじゃない!」

 志耶の怒気が、犬輔を怯ませるが、やけくそになった犬輔が攻撃を開始する。

爆撃陣バクゲキジン

 志耶の足元で連続して爆発が起こる。

 志耶が前方に吹き飛ばされる。

「その程度の力で……」

 犬輔の言葉が途中で止まる。

 吹き飛ばされた筈の志耶が空中で体勢を整えて腕を振り上げた。

影刃エイバ

 影の刃が、犬輔に直撃する。

 しかし、それが志耶の限界だった。

 一撃を食らわせた所でそのまま地面に倒れる。

 ダメージを負った犬輔は、激怒し、公園全体に張り巡らせた魔方陣を発動させる。

「これでお前の下僕諸共、殺してやる!」

 大地が鳴動する。

「竜脈の力を使った攻撃、あたしじゃどうしようも無い……」

 青褪める猫姫だったが、犬王が笑みを浮かべる。

「運が無いな、志耶だけを狙ってたら、やれたかもしれないのによ!」

 振り上げた拳を振り下ろし、大地を打ち抜く犬王。

 それと同時に地面の鳴動が静まり、犬輔が術の反動で血を吐いて倒れる。

「まさか、竜脈の力を正面から、打ち返したというのか! それ程の者がどうして……」

 犬王が倒れた志耶を抱き上げて言う。

「こいつの力は、お前が考えるより絶対なんだよ」

 こうして、一つの公園が間結の魔の手から守られた。



 間結家業務内容調査の報告書



 調査した結果、一件を除き、八刃会議で決定した許容範囲に収まっていました。

 問題の一件に関しては、自己判断で処理しました。

 詳細を以下に記述します。



 中略



 間閉犬輔が行った術での犬首での襲撃に対するフォローが必要とされます。



 零刃所属 谷走志耶



 エテーナの血の治療を受けて安らかに眠る志耶を見ながら、矢道が言う。

「誰もが、志耶と血の能力は、合っていないと言うが、お前達は、どう思う?」

 猫姫が正直に答える。

「志耶さんで良かったと思います。こんな強力な束縛を他の人にされたら、生きている事を呪うと思います」

 矢道が頷く。

「志耶の血の力は、強力過ぎる。使い方しだいでは、国の一つや二つ手に入れるのも夢じゃない。だからこそ、志耶が持つ強い節制の心こそ、この力には、必要なんだ」

 犬王が不機嫌そうに言う。

「それでも限度がある。せめて自分の身が危ないときくらいは、俺達を頼れって言うんだ」

 心底心配しているのが解る態度に、そばに居た詩卯が笑みを浮かべる。

「本当に志耶お姉ちゃんの事が好きなんだね」

 犬王が必死に否定する。

「何を誤解してるんだ、そんなんじゃないぞ!」

「ちょっと、良いか?」

 怖い顔をして近づいてくる矢道であった。

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