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己の意思を貫くもの

志耶編開始です


八刃ハチバと呼ばれる、異界から来た人に害成す存在、異邪イジャを滅ぼす者達が居る。

そんな八刃の調査、内部監査を行う部署を零刃ゼロバと呼んだ。

この物語は、そんな闇の仕事を行う一人の少女のお話である。

 東京から離れた田舎町。

 そこに、十四歳の少女、谷走志耶シヤが居た。

 その隣の一人のどこか犬を思わせる少年が居た。

「しかし、こんな田舎まで来ないといけないなんて、零刃になっても下っ端だな」

「五月蝿いよ、犬王ケンオウ。これは、あちきの仕事だから、口も手も出さないでね」

 志耶の言葉に呆れた顔をして頷く少年、正体は、異界からやって来た犬の獣人、犬王が頷く。

 そして、二人は、一つの神社に到着する。

「すいません、どなたかいらっしゃいませんか!」

 すると、奥から一人の巫女がやってくる。

「はい、いらっしゃいませ」

 志耶は、一枚の写真を取り出す。

「ここにこの写真の男性は、来ていません? 名前は、間締マシメ裕也ユウヤって言うのですが?」

 巫女は、驚き固まっていると、奥から巫女の兄が出てきて言う。

「お前は、こいつの仲間か!」

「やっぱり、揉め事を起こしていたみたいだな」

 犬王の言葉に志耶が慌てて言う。

「あちきは、谷走志耶、八刃の零刃に所属している者で、束縛の墨を持って逃げた、間結マムスビの分家のそいつを追ってきたんです」

 巫女が途中の単語に激しく反応する。

「まさか、その束縛の墨と言うのは、物の怪も支配する事が出来るのですか?」

 志耶があっさり頷く。

「はい。その墨で術を使うことで相手を支配する事が可能です」

「やっぱり、そうだったのか!」

 巫女の兄が怒鳴り、志耶に掴みかかる。

「お前等のミスの所為で、うちの守護獣が連れて行かれたんだ! どう責任とってくれるんだ!」

「お兄ちゃん、止めて!」

 巫女の少女も必死に止めるが、止まらない。

「解っています。金銭的な賠償も行いますし、あちきが責任をもってその守護獣を連れて帰ります」

「お前みたいな小娘に何が出来る!」

 巫女の兄が凄むと犬王が睨み言う。

「言い掛りは、見っとも無いぞ、守護獣を奪われたのは、お前等の落ち度だろうが」

「犬王、仕事に口を挟まないで!」

 志耶が犬王を睨むが、犬王は、素知らぬ顔で答える。

「何の事だ、俺は、ただ、そいつの態度が気に入らなかっただけだが」

 険悪の雰囲気の中、巫女が言う。

「とにかく、奥で詳しい話を」



「詰り、ここの御神体を護る守護獣、猫姫ビョウキが裕也に連れ去られたと言うわけですね?」

 志耶の言葉に、巫女、猫奉ネコマツリ禰子ネコが頷く。

「はい。しかし、その裕也って人は、どうして一族を抜け出したのですか?」

「それは、……」

 答えに詰まる志耶。

「八刃って組織は、力ない奴は、冷遇されるからな。間結系の癖にろくな結界も作れないんで、出来損ない扱いされていたらしいからな。一念発起して、束縛の墨を盗んで強い奴を支配下に納め、見返してやろうとしたんだろう」

 それを聞いて禰子の兄、禰徒ネトが言う。

「結局、あんた等のトラブルに巻き込まれたって事じゃないか。どうしてくれるんだよ!」

 犬王が肩を竦めて言う。

「そんな出来損ないにあっさり守護獣を奪われておいて、大きな口を叩ける神経が解らないぜ」

「何だと!」

 禰徒と犬王が睨み合う。

「止めて下さい。さっきも言いましたが、猫姫は、あちきが責任とって取り戻します。金銭的の賠償に関しては、ここに申請していただければ行われる筈です」

 間に入り、幾つかの用紙を差し出す志耶。

 禰子がそれを受け取って言う。

「解りましたが、これからどうなさるのですか?」

 志耶が少し考えてから答える。

「猫姫の力を完全に使いこなすまで動かない筈ですから、近くを探索するつもりです」

 それを聞いて禰子が手を上げる。

「それでしたら、あたしも手伝います。猫姫様の居る場所でしたら解ります」

 それを聞いて禰徒が言う。

「余計な事を言うな。全部、こいつらにやらせれば良いだろう!」

 それに対して、禰子が首を振る。

「それは、出来ないよ。猫姫様は、私達の守護獣様だよ。あたし達が動かないでどうするの?」

 妹の言葉に舌打ちしながら禰徒が言う。

「仕方ねえな。一緒に行ってやるよ」

 こうして、猫姫奪還の即席メンバーが結成された。



 満月が照らす夜道、禰子の導きに従い志耶達は、山道を進む。

「この先に居るんだね?」

 志耶の言葉に禰子が頷く。

「はい。猫姫様の気配が強くなっているのが解ります」

 そんな中、禰徒が犬王を指差して言う。

「ところで、こいつは、どれだけ当てに出来るんだ? あんだけ大口を叩いているんだ、さぞ大した力の持ち主なんだろうな?」

 厭味込みの台詞に犬王が不機嫌そうな顔をするなか志耶がはっきりと言う。

「ここで明言しておくけど、これは、あちきの仕事、手を出さないでね。ただし、禰徒さんと禰子さんだけは、護って」

 苛立ちながらも犬王が言う。

「解ったよ」

「尻に引かれてるな」

 禰徒の言い返される事を予想された言葉に犬王は、言い返さなかった。

 それに禰徒が首を傾げていると、広い場所に出た。

 そこには、一人の男と、人型をした猫又が居た。

「間締裕也、束縛の墨の強奪及び、他の組織への過剰干渉の罪で捕縛します!」

 志耶の言葉を聞いて苦笑する裕也。

「これは、これは、谷走家の出来損ない、志耶さんでは、ありませんか?」

 驚いた顔をする禰子と禰徒。

「どういうことだ!」

 禰徒の言葉に裕也が説明する。

「谷走の力を全て兄、矢道ヤドウが持って生まれたって有名な話だ。それに母親譲りの血の力も、使い道がないらしいじゃないか」

 蔑む言葉に志耶が答える。

「だからと言って、貴方には、負けないよ」

 頷く裕也。

「だろうな。しかし、今の私には、こいつが居る。やれ猫姫!」

 裕也の言葉に答え、裕也の傍に居た猫又、猫姫が志耶に襲い掛かる。

影集エイシュウ

 志耶の前に影が集まり、その影に手をいれる。

影刀エイトウ

 やや短めな刀を生み出し、猫姫と斬り合う

 しかし、猫又の両爪を伸ばしての攻撃にどんどん傷を負っていく志耶。

「どうした、それが仮にも本家の名を持つものの力か? 所詮は、親の七光りだな」

 裕也が嘲る。

「志耶さんを助けて下さい」

 禰子が傍に居た犬王に懇願するが犬王が即答する。

「出来ねえよ」

 禰徒が睨む。

「あんだけ大口を叩いておいて、怖いのかよ!」

 そんな禰徒を睨み返し犬王が言う。

「誰が、あの程度の奴を恐れるか!」

 その気迫に傍に居ただけの禰子も怯える。

 そんな中、志耶が猫又の術で弾き飛ばされる。

 そして、裕也が言う。

「ついでだ、そっちの奴等もやれ!」

 猫姫は、命令に答え、禰子達に襲い掛かる。

「猫姫様、止めて下さい!」

 猫姫の動きが止まる。

「無駄だ! やれ!」

 裕也の言葉に答え、再び動き出し、その爪を禰子達に向ける猫姫だったが、その前に犬王が現れて、拳の一撃で猫姫を吹き飛ばし、舌打ちする。

「手加減しすぎたか」

 驚く裕也。

「お前、強いじゃ無いか! どうして戦わないんだ!」

 犬王が不機嫌そうに答える。

「志耶に止められてるからに決まってるだろうが! 今のがチャンスだったのに、殺さないようにするのに力を抜きすぎた」

「どういうことだ?」

 戸惑う、禰徒、裕也も困惑した。

「おかしい。何で志耶に従う奴がこんな力を持っているんだ? そうだ、あいつも強力な癒しの力を持つ血の力を多少は、引き継いでる筈だ! 猫姫、志耶の血を吸うのだ!」

 猫姫は、命令に従い、動けない志耶の血を吸う。

「猫姫様……」

 悲しそうな顔をする禰子。

 禰徒が犬王に掴みかかり言う。

「おい、このままじゃあいつが殺されるぞ、助けろ!」

 犬王は、苛立ちながら答える。

「できねえんだよ。俺は、あいつの血の力で縛られている。あいつの命令に逆らえないんだ。まあ、もう、あいつも同じだがな」

「もう、これ以上血を吸ったら駄目」

 志耶のその一言で猫姫は、血を吸うのを止めた。

「自由意志で動いて良いよ」

 志耶が続けて発した命令で、猫姫が自由に動けることに驚く。

「嘘、あの墨の呪縛が無効になっている?」

 驚く裕也。

「どういうことだ?」

 犬王が肩を竦めて言う。

「志耶の血は、勅命の血と呼ばれてる。血を吸った者に強大な力を与える代わりに、絶対服従を約束される。詰り、お前は、あいつの血をすわせる事で、猫姫に呪縛を打ち破る力を与え、志耶の僕にしたんだよ」

「嘘だ! そんな絶対能力を持っている奴がどうして、出来損ないなんて……」

 志耶が立ち上がり答える。

「あちきは、この血の力が嫌い。こんな相手の意思を無視するような力にどれだけの価値があるっていうのよ!」

「そういっておきながら、勝手な命令をしやがって」

 犬王の不満気な言葉に禰子が気付く。

「それって、犬王さんが志耶さんの事を助けたくて仕方なかったって事ですか?」

 犬王が慌てて反論する。

「そんな訳無いだろう! 俺は、他人を操っていい気に成ってるボケを殴りたかっただけだ!」

 禰徒が笑いを堪えながら言う。

「そうか? どうみてもあいつの心底心配してる顔をしていたぞ」

「何だと、役立たず!」

 犬王と禰徒が睨みあう中、志耶が裕也の前に出る。

「さあ、これからが本当の勝負よ」

 悔しげに裕也が言う。

「猫姫とそっちの化け物を僕にしたお前に敵う訳が無い……」

 志耶が猫姫の方を向いて言う。

「すまないけど、手を出さないで。こいつの相手は、あちきがするから」

 猫姫は、あっさり頷く。

「解りました」

 驚いたのは、裕也。

「馬鹿な、どうしてそんな命令を出す。何でもいう事を効かせられるのだったら、もっとやり方も言い方もあるだろうが!」

 志耶が影刀を構え言う。

「術や血の力で他人を従わせ、命令するなんて最低な人間のやること。あちきは、自分の力で戦うの!」

 言葉を無くす裕也に犬王が言う。

「こいつは、あくまで自分の力を高める事を選んだ、そこが同じ出来損ない扱いでも違うところだ」

 そして、志耶の攻撃で裕也は、意識を失い確保されるのであった。



 間締裕也事件の報告書



 間締裕也および間締裕也が盗み出した束縛の墨の確保は、無事完了。

 詳細を以下に記述します。



 中略



 間締裕也が干渉した現地組織に対する交渉も問題なく終了しました。

 ただ、代わりの守護獣の手配が必要なり、早急な対応が必要とされます。



 零刃所属 谷走志耶



「志耶様、タオルです」

 訓練を終えた志耶に猫姫がタオルを差し出す。

 志耶は、受け取りながら答える。

「あのさー、何度も言うけど自由にしていいし、禰子達の所に戻った方が良いんじゃないの?」

 猫姫は、胸を張って答える。

「元々、あの神社は、仮住まいだったのです。代わりの猫又も手配してます。それよりも、こんな強大な血の力を持ちながら、それに頼ろうとしない志耶様の生き方に感銘を受けました。御傍に置いて下さい」

 大きく溜息を吐く志耶。

「また面倒な奴に見込まれたな志耶」

 そんな犬王を猫姫が睨む。

「貴方の事情は、聞きましたよ。よく、大恩がある志耶様に無礼な態度をとれますね!」

「お前の口を挟む問題じゃ無いぞ!」

 睨み合う犬王と猫姫。

 遠い目をし、志耶が呟く。

「あちきは、普通に零刃の仕事がしたいだけなのになー」

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