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獣王の終焉

犬王の世界がメインの決着編です

「ここが、犬王の世界なんだ?」

 志耶が、広大な森と草原そして、美しい海が広がる景色に驚く。

「お前達の世界と違って物質に頼らない。自分の身を強化することで繁栄した。その頂点に立つのが、俺の一族、獣王族だ。絶対的な力を持つ俺の親父、獅子王が死ぬまでは、何の問題が無かった。親父が死んで、次の王を決める段階になり、後継者争いが起こった。第一候補は、長男の狼王ロウオウだった。俺も反対しなかったがドジっちまった。模擬戦で、兄貴に勝っちまった。力こそ全てのこの世界で、強者こそが正義。兄貴に代わって俺を新たな王にしようとする一派が生まれた。あのままでは、一族を二分にする争いになると思って、お前達の世界に逃げた。あれで、もう無駄な死は、発生しないと思ってたんだ」

 拳を握り締める犬王。

「それじゃあ、その狼王が犬頭の仇な訳?」

 志耶の質問に首を横に振る犬王。

「多分違う。兄貴は、俺を疎んでいたが、そんな周りくどい事は、しない。直接、倒しに来る筈だ。まずは、虎王コオウの所に行く。奴だったら、俺を匿ってくる。奴のところで、犬頭の仇を探す」

「了解」

 そして二人は、行動を開始する。



 森林の奥、複数の虎の獣人達の中心にそいつは、居た。

「犬王の兄貴、事情は解ったが、俺も長くは、無理だぜ」

 犬王の弟、虎王の言葉に戸惑う犬王。

「どういうことだ? ここだったら、お前のテリトリーだろう。他人のテリトリーに関しては、不干渉が、代々の掟だろ?」

 虎王が首を振る。

「狼王の兄貴が変えたんだ。いまじゃ定期的に兄貴の配下の狼の獣人が、俺のテリトリーまで入り込んできやがる」

 犬王が地面を殴りつける。

「そんな無法が許されか! いままで俺達獣人が大きな争いに成らなかったのは、王同士の争いで領土を決め、その領土には、手を出さない事になっていたからだ!」

 虎王が苦笑する。

「狼王の兄貴は、犬王の兄貴が居なくなった犬の獣人達をとりこみ、他を圧倒する勢力を作った。それで、逆らう勢力には、容赦なく潰した。牛王ギュウオウも死んだよ」

 愕然とした表情になる犬王に虎王が言う。

「兄貴、どうして居なくなったんだ! 兄貴が居ればこんな事に成らなかった筈だぜ!」

 犬王が拳を血が出るほど握り締めて言う。

「兄貴と争いたくなかったんだ。狼王の兄貴は、親父にきつく当られた時に庇ってくれた、唯一の存在だった。俺達がちゃんと成長できたのは、兄貴のお蔭だ」

 虎王も何かを堪えるような表情で言う。

「俺だって狼王の兄貴には、感謝をしている。だけど、狼王の兄貴は、変わっちまった。犬王の兄貴に負けてから変わっちまったんだよ!」

 何も答えられない犬王に虎王が背を向けて言う。

「三日、三日位なら誤魔化せると思う。三日後の朝には、ここを出て行ってくれ。俺にもこいつ等を護る責任があるんだ」

 犬王は、頷く事しか出来なかった。



「犬王どうするの?」

 枯葉が積もり、柔らかな天然のベッドの上で志耶が質問すると犬王が頭をかきながら言う。

「三日でできるだけの事を調べる。その後は、ここを出た後、敢えて大きく動いて、犬頭の仇をあぶりだす。そいつを倒して、お前の世界に戻る。それだけだ」

 志耶は、虎の獣人達を見ながら言う。

「ほっておいて良いの?」

 犬王は、志耶の肩を掴み言う。

「もう遅いんだ! やり直せないんだ!」

 志耶は、何も言えなくなる。

 夜の帳が下りて行く。

 その中、志耶が立ち上がる。

「ちょっとトイレに行って来る」

 犬王が舌打ちする。

「あんまり離れるなよ」

「了解」

 そして、志耶は犬王から離れる。



「離れてくれる? 犬王に貴方達が裏切ったと知られたくないから」

 志耶の言葉に虎王が拳を握り締めて言う。

「気持ちは、感謝する。しかしこちらにも護らないとならない者があるんだ」

 虎王の爪が志耶に迫る。

『影刀』

 志耶が自分の影からナイフを抜き出して、受け止める。

「行かせない!」

 次の瞬間、周りの虎の獣人達が一斉に志耶に襲い掛かる。

 思わず目を瞑る志耶。

 その時、虎の獣人達が吹っ飛ぶ。

「理由を言うなよ」

 虎の獣人達を吹っ飛ばした犬王の言葉に虎王が頷く。

「全力で行きます!」

 虎王が犬王にその爪を突き出す。

 しかし犬王は、その一撃を避けない。

 虎王が犬王の胸を貫いた事実に驚愕しながら言う。

「どうして避けなかった!」

 犬王が悲しそうな目で答える。

「この傷は、一生残る。お前の思いと一緒にな」

 虎王もその一言に全てを理解する。

「きっと貫いてください」

 犬王の爪が虎王の首を切り落とす。

 そして周囲の虎の獣人達を見下ろして言う。

「お前達の王は、俺が討った。これよりお前等は、俺の臣下だ。これより、狼王討伐を行う、ついて来い」

 虎の獣人達は、涙を流しながら頭を垂れる。

 犬王は、志耶の方を向いて告げる。

「すまないが、狼王だけは、倒さないといけなくなった」

「良いの?」

 志耶が心配そうに言うと犬王は、胸の傷に手を当てて言う。

「この傷に懸けて、引けない」



 虎の獣人を従えた犬王の反抗は、強烈であった。

 その中心になったのは、意外にも志耶の血の力であった。

 犬王が破って瀕死に陥った敵に、狼王を倒すまでの助力を約束させて、志耶が血を与え救った。

 裏切りの許さない絶対の束縛の前には、力だけの支配の狼王の一派は、どんどん離脱していった。

 中でも犬の獣人達は、犬王の復活に一気に寝返った。

 そして、狼王の住まう森に犬王達は、迫っていた。

「こっから先は、直接対決だね」

 志耶の言葉に犬王は、ただ頷くだけだった。

 そんな中、狐の獣人の王、犬王達の末弟、狐王キツネオウがやって来た。

「犬王の兄様、狼王の兄様を討つのですね?」

 頷く犬王。

「そうだ、俺は、それが終ったらこの世界を出る。残ったお前が、獣王となれ」

 狐王が反論する。

「どうしてですか? 犬王の兄様こそ、新たな王になるべきなのでは?」

 犬王は、首を横に振る。

「一度、この世界を捨てた俺に、王の資格は、無い」

 狐王が残念そうな顔をする。

「そうですか、でしたら、私が狼王の居る場所まで案内します。敵に会わずに近づける道を知っています」

「頼んだ」

 犬王があっさり同意した。



「正面から力押しした方が有利だったと思うけどな」

 志耶の言葉に犬王が首を横に振る。

「今は、敵でも争いあう相手じゃない。出来るだけ被害を少なくしたいんだ」

 そして、狼王が居る、森の中心に着く犬王達であった。

「やはり直接来たな」

 中心の木に寄りかかる狼の獣人、狼王が犬王を見る。

 犬王も視線を合わせて言う。

「どうして、多人数による制圧なんてしたんだ! 獣王として、個人の力で力を示すのが本当だろう!」

 狼王が苦笑する。

「時代が変わった。単純なお前は、知らなかっただろうが、親父の時代から、昔からのやり方では、従わなくなった者達が出始めた。もう王個人の力による支配の時代は、終ったのだ。俺は、王の指揮による、種族の力で、この世界を支配する!」

 力強い言葉に犬王がにらみ返す。

「それが大きな争いしか生まないと、何故解らない!」

「ほっておいても同じ事だ! 犬王にダメージを与えよ!」

 狼王の指示に従い、各種族の猛者達が一斉に犬王に襲い掛かる。

「負けるかよ!」

 犬王と猛者達の戦いは、激しいが、確実に犬王が勝っていた。

 最後の猛者を倒し、犬王が狼王に拳を向ける。

「お前で最後だ!」

 次の瞬間、狼王の姿が消えた。

 大きく前方に吹き飛ぶ犬王。

「残念だが、俺は、本気のお前に勝てない。だから体力を削らせて貰った」

 犬王は素早く立ち上がり、その爪を狼王に放つ。

 狼王は、再び消える。

「何?」

 犬王が困惑する中、狼王の爪が犬王の太ももに突き刺さる。

「負けるか!」

 大きく腕をふる犬王の間合いから外れる狼王。

「特に接近戦でのパワーと本能的な戦闘技術は、圧倒的だ。しかし、スピードなら負けない」

 肩膝を着きながら激しく呼吸をする犬王を見下ろし、狼王が言う。

「普通に戦えば、お前に致命傷を与えるのが先か、お前が一撃を決めるのが先かの勝負だが、体力を失ったお前にまともな勝負は、出来ないだろう」

 志耶が大声で言う。

「あちきの血で体力を回復させる! あっちも部下を使って体力を削って来たんだから卑怯じゃないよ」

 犬王が首を横に振る。

「ここだけは、俺一人の力でやらせろ!」

 狼王が小さく溜息を吐いて言う。

「くだらない拘りだな。だからお前は、獣王には、成れないのだ!」

 狼王が接近してくる。

 犬王は、立ち上がると目を閉じる。

「勝負を諦めたか!」

 狼王の姿が消え、犬王の後ろに現れ、犬王の左腕を貫いた。

「……馬鹿な?」

 狼王が驚愕する中、犬王の渾身の右が狼王の胸を貫いた。

 膝を着く犬王に倒れた狼王が言う。

「なぜ、避けられた?」

 犬王が悲しそうな顔で言う。

「兄貴と何度、模擬戦をやったと思う。兄貴のタイミングくらい解る。後は、急所を外す事だけ気をつければなんとかなる」

「なるほどな、結局、俺のやり方も間違っていたのだな?」

 狼王の言葉に犬王は、何も答えられない。

 そして、狼王が永遠に目を閉じる。

 涙も流さない犬王を辛そうな顔で見る志耶。

 その時、志耶の後ろに狐王が立つ。

「あんたは、今まで何やってたの?」

 その時、狐王の爪が志耶の首に当てられる。

「知っています。この娘の命令には、逆らえない。例え、自分の命を落す事になっても」

 犬王が睨む。

「まさか、あの首輪を作ったのは、お前なのか!」

 狐王が余裕の笑みを浮かべて答える。

「そうですよ。戦闘力が高い狼の獣人があんな小道具を使うわけ無いでしょ。この広い世界でも道具を使う一族は、そう無い事にもっと早く気付くべきでしたね」

 志耶も狐王を睨む。

「最初から、犬王と狼王をぶつけて、残った方を倒すつもりだったんだな!」

 狐王が自慢げに頷く。

「狼王に、今のやり方を教えたのも私ですよ。そうすれば反発が生まれて、兄様達が死んでくれると思って。予想通り、残るは、犬王、お前だけだ!」

 犬王が憤怒し、その爪を伸ばす。

「お前だけは、許さないぞ!」

 狐王が笑みを浮かべて言う。

「さあ、小娘、死にたくなかったら、犬王を自殺させろ!」

 志耶が怒鳴り返す。

「そんな事しない! 犬王、とっととコイツを倒せ!」

 犬王が歩みだし、慌てる狐王。

「馬鹿を言うな! 死ぬのが怖くないのか!」

 狐王の爪が志耶の首に当り、血が流れた。

 次の瞬間、犬王の爪が狐王の腕を切り落とす。

「嘘だ! 何でこんなスピードが出るのだ!」

 犬王が狐王を踏みつけて言う。

「残念だったな、これも勅命の血の能力だ。主に危機に陥った時に自分の魂を消耗させて、パワーアップさせる。覚悟は、良いな?」

 狐王が必死に犬王にすがりつく。

「どうか命だけは、助けてください。血を分けた兄弟では、ないですか?」

 犬王は、何かを堪える顔をして言う。

「志耶、コイツに血を与えてくれ」

 志耶が驚いた顔をするが犬王は、続ける。

「確認したい事があるんだ」

 志耶が頷き、傷ついている狐王に血を与えて回復させる。

「志耶、先に出ていてくれ」

 犬王の言葉に志耶は、大人しく従う。

 志耶が出た所で犬王が言う。

「性根を入れ替えて、獣人達の為の獣王に成れるか?」

 狐王は、強く頷く。

「勿論です。兄様達に代わって、導きます」

 犬王が溜息を吐いて言う。

「俺は、この世界に居られない。だからその言葉を信じる」

 そのまま狐王に背を向ける犬王。

「ありがとう。絶対に兄様の期待に答えて見せる」

 狐王がそういいながらも爪を伸ばし、犬王に忍び寄る。

「もう一度だけ確認して良いか? 二度と姑息な手を使わないな?」

 犬王の言葉に顔を引き攣らせ、爪を一度隠しながら狐王が答える。

「当然だ、兄様」

 犬王が溜息を吐いて、歩みを再開したのを見て、狐王は、その爪を犬王に振り下ろす。

「獣王族の最後の希望だったのだがな」

 振り返った犬王は、悲しそうな顔をしていた。

 爪を犬王に向けた状態で動けなくなった狐王が涙目になりながら言う。

「どうして? 何で攻撃が止まったのだ?」

 犬王が腕を振り上げながら告げる。

「勅命の血による支配には、上下関係が存在する。より多くの血を受けた者を上位者とし、マスターの意思に反しない限り、下位者を操る事が出来る。そして、下位者は、上位者に危害を加えることは、出来ない。お前に真があれば、外に居る志耶の血を受けた者たちを従えることも出来たのにな」

「兄様、助けてくれ!」

 狐王の最後の叫びに、犬王は、その爪で答えた。



「結局、犬王の世界は、どうしたの?」

 ファミレスで休学中のノートを写していた志耶に似丹が質問した。

「獣王族は、全滅したから、新たな獣王を選抜から始めるらしいよ。色々トラブルが連続しているらしいけど、新たな秩序を生み出そうとするなら仕方ない事だよ」

 志耶の答えに、似丹が口を尖らせて言う。

「どうせなら、犬王が獣王になれば良いのに」

 大きく溜息を吐く志耶。

「その台詞は、犬王の前で言わないでね」

 似丹が首を傾げる。

「どうして?」

 丁度来たワンが似丹の頭を叩きながら言う。

「お前は、本当に感覚で生きてるな。犬王は、自分の選択で、争いを拡大化させた、その贖罪の為に兄弟殺しを行ったが、兄弟の屍で作られた玉座に座れるほどの意味を持てなかったんだよ。今更、迷わせる必要は、無いって事だ」

 志耶が不思議そうな顔をしてワンと一緒に来た一華を見る。

「どうして、ここに来たのですか?」

 一華が溜息を吐いて言う。

「矢道と犬王がまた決闘しそうな雰囲気なの。止めて」

 呆れた顔をする志耶。

「これで何度目ですか? どうして兄貴も犬王の事を毛嫌いするんだろう?」

 似丹が意外そうな顔をして言う。

「どうしてって、当然じゃん。犬王に志耶をと……」

 途中で一華が周囲の空気を無くして音の伝達を停止させる。

「似丹ちゃん、何度も言うけどもう少し考えてから喋りましょうね」

 眉を顰める志耶。

「似丹に解って、あちきが解らないなんて、何か複雑?」

 ワンがそっぽを向いて小声で呟く。

「この手の話は、本人同士は、気付き辛いもんだよな」

 志耶が荷物をまとめながら言う。

「とにかく、止めに行ってきます」

 駆け出す志耶を見送ってから、一華が言う。

「犬王と志耶ちゃんは、どうなるのかしらね?」

 ワンが肩を竦めながら言う。

「知ったこっちゃ無い。色恋事は、守備範囲外だ」

 一華が苦笑する。

「前例を作っておいた方が、有利だと思うけどな」

 意味ありげな発言にワンが複雑な顔をした後、一華とは、反対の方向を向いて言う。

「俺は、どんな障害があっても絶対に貫き通す」

 顔を真赤にしているワンを見ながら一華が笑みを浮かべるのであった。

 因みに似丹は、酸欠で床に倒れているが、死んでは、居ない。

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