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犬と影が交わる時

犬王と矢道との対決の時

「一華さん、この質問は、内密にお願いできますか?」

 ファミレスでの志耶の質問に、一華が頷く。

「あたしが空間を遮断してあるから、外部からは、絶対に盗聴したり出来ないし、あたしも誰にも言わないよ」

「犬王をどうにかして、元に世界に帰してあげたいんです。でもいまのままだと、あちきの血の制約の所為でそれが出来ないんですが、何か良い方法ありませんか?」

 一華が困った顔をして言う。

「志耶の能力は、八百刃獣との混血同士の婚姻で生まれた、偶発的な物で、ハイジピーター博士も研究中。それでもおばあちゃんだったら、時空を操る力でどうにか出来ると思うけど、おばあちゃんは、ただ働きしないよ」

 志耶が複雑な顔をして言う。

「ローンでなんとかなりませんかね?」

 一華がドリンクバーで取ってきたジュースを飲みながら言う。

「八刃の人間だったら、それ相応の保証人がいれば可能だけど、心当り居る?」

 首を横に振る志耶。

「あれ、志耶じゃん、どうしたの?」

 その時、二人の所に、志耶のクラスメイトの黒髪少女、白風似丹ニニが声をかけてくる。

「ちょっと一華さんに相談にのってもらってるの?」

 似丹が勝手に空いている席に座って言う。

「何々? これでもあたしは、頭が良いんだから相談してみなさい」

 疑る視線で似丹を見る志耶。

「父親の遺伝で、頭が良いのは、知ってるけど、似丹って馬鹿だからな」

 頬を膨らませて似丹が言う。

「頭が良いのに馬鹿なんて、日本語が変だよ!」

 一華が溜息を吐いて言う。

「頭の回転が速いのは、あたしも認める。でもね、似丹は、脊髄反射で動いてるから」

 頷く志耶に怒る似丹。

「なんですって!」

「そういう、感情だけで反論するところが、駄目なんでしょうが」

 一華の指摘に不満そうな顔をする似丹。

「とにかく、何を悩んでるの?」

 志耶が、答える。

「ある種の呪いの所為で、主になった人間が居る限り、生まれた世界に帰れなくなったのをどうにかして、元の世界に戻る方法を探してるの」

 似丹が即答する。

「そういった契約だったら、逃げ道は、二つ。主を殺すか、もしくは、主が一緒に元の世界に行くって方法があるよ」

 指を鳴らす志耶。

「その手があった」

 席を離れる志耶が完全に離れたところで、テーブルの下に何故かあったペットキャリーから声がする。

『これだから、馬鹿だって言われるんだ』

 ペットキャリーから出て来たチビ竜型のワンが、人の姿に戻って席につくのを見て、似丹が言う。

「どうして、そんな事をしていたんですか?」

 一華が溜息を吐いて言う。

「矢道さんに頼まれたの。志耶が犬王の件で何かやるかもしれないって、確認しておいてくれって」

「最初から暴露するつもりだったのですか?」

 似丹の突っ込みに、一華が平然と答える。

「あたしは、何も言わないし、外にばれない様にしてあるのも本当」

 ワンが注文しながら言う。

「事前に俺が隠れていて、矢道に伝えるのは、約束を護った事になるだろう?」

 似丹が眉を顰める。

「それって詐欺師の手口じゃないですか?」

 ワンが肩を竦ませて言う。

「なんにしても、お前が余計な事を言った所為で、面倒な事になったぞ」

 首を傾げる似丹。

「どういうこと?」

 一華が遠くを見て言う。

「これで、二人の対決は、避けられなくなったわね」



「本気か?」

 犬王の言葉に、志耶が頷く。

「本気。あちきの血の所為で、束縛されて、苦しむなんて嫌だからね。あちきが一緒に行く。そのくらいなら許容範囲よ。ただし揉め事終ったら、こっちに戻るから。少なくとも一年は、血の効力は、無くならないって話だから、その覚悟だけは、しておいてね」

 言ってからそっぽをむく志耶に犬王が頭を下げる。

「助かる。犬頭の仇だけは、とりたい。それだけ出来れば、十分だ。それが終ったら、こっちに戻ってくる。二言は、無い」

 顔を真赤にする志耶。

「早く準備を済ませるよ」

 移動の準備と長期休暇の手続きを始める志耶であった。

 そこに矢道が現れる。

「犬王、君だけを元の世界に戻す方法を見つけた。時間が無いから急いでくれ」

 驚いた顔をする志耶。

「本当なの?」

 矢道が言う。

「本当だ。信じろ。急いでくれ」

 複雑な顔をする志耶を尻目に犬王が言う。

「助かる、急ごう」

 矢道と犬王が外に出て行くのであった。

「一緒に行けないの、残念?」

 詩卯の言葉に志耶が怒鳴る。

「ませた事を言わない!」



「何処に行くんだ?」

 犬王の言葉に、矢道が振り返る。

影断エイダン

 影が犬王を襲う。

 大きく下がる犬王。

「何のつもりだ!」

影刀エイトウ

 矢道が、自分の影から刀を生み出して、きりかかる。

「死ねば、血の束縛は、無効になる。お前の所為で志耶に危険な目にあわせる事など、許さん」

 犬王がその爪で刀を受け止める。

「そういうことか! 気持ちは、解るが、犬頭の仇をとる前に死ぬわけには、行かない」

 高速の動きと共に、鋭き爪を放つ犬王。

影小円エイショウエン

 矢道が攻撃、無数とも思える、影の円が犬王に襲い掛かる。

「この程度の攻撃は、効かない!」

 手で顔を覆い、一気に詰め寄る犬王。

影沼エイショウ

 矢道の声に応えて犬王が足元から影に飲み込まれていく。

「馬鹿な! 俺を捕らえることが出来る筈が無い!」

 矢道が淡々と告げる。

「純粋な力で勝てるとは、思ってない。その影沼には、数日間、力を注ぎ続けた。幾らお前でもそこから抜け出せない」

 必死に犬王が抜け出そうとするが、全ての力が吸い込まれて行く中、矢道に向かって叫ぶ。

「とどめを刺しに来ないのか!」

 矢道が答える。

「近づいた所を狙うつもりかもしれないが、残念だが、接近戦で確実に勝てる思う程、奢っていない」

 舌打ちする犬王。

「こんな所で終るわけには、行かないんだ!」

「残念だ。妹と関りが無ければ応援してやれる思いだが、私にとって優先すべきは、妹達の安全なのだ」

 矢道が表情も変えずに言う中、必死にもがく犬王。

「あちきは、兄さんに護られるだけの存在じゃない!」

 いきなりの志耶の声に驚きながらも、矢道は、空間の歪みを察知する。

「一華さん、どういう事ですか?」

 何も無い空間が割れて、一華とワン、そして志耶が現れる。

「似丹の単純娘が、下手に頭を使ってこっちの計画を予測して、志耶に暴露したの」

 一華の答えに矢道が顔を抑える。

「頭が良い馬鹿だけは、予測が出来ない事をする」

 ワンが頷く。

「確かに、普通の馬鹿は、気付かない。普通に頭が良い奴だったら、気付いても前後の事を考えて話さない。似丹じゃなければ、こんな事態にならなかったな」

 志耶が矢道に近づき、犬王を指差して言う。

「影沼を解除して! 犬王との事は、あちきの問題だよ。兄さんが出ることじゃない!」

 矢道が首を横に振る。

「残念だが、お前の力は、お前を苦しめるだけだ。お前は、八刃には、向かない。その証拠がこの状況だ。谷走としての力も弱いから犬王を救えず、犬王を完全に支配する事も出来ないから、その血の力を使う事も出来ない」

 志耶は、躊躇なく影沼に飛び込む。

「そんな事をしても解かないぞ」

 矢道が冷静に告げると志耶が怒鳴る。

「犬王、あちきを助けなさい!」

 その瞬間、影沼が吹き飛ぶ。

「命令するな」

 犬王が志耶を抱き上げて続ける。

「命令される前に助けるからな」

 志耶が顔を赤くしながら飛び降りる。

「あちきを護ろうとする時に魂をエネルギーに発動される力、相手を信じ、目的を同じだったら使える。これが答えだよ」

 志耶の強い意志が篭った言葉に、矢道が溜息を吐く。

「どうしても行くのか?」

 志耶は、頷く。

「これがあちきの選んだ道だから」

 一華が諦めた顔をして言う。

「それじゃあ、今から送ってあげる。良いよね?」

 志耶が頷き犬王の方を向く。

「兄さんみたいな邪魔が出る前に行くよ」

 それを無視して犬王が矢道の前に行く。

「俺は、やられっぱなしで済ませておけるほど甘くない。絶対にあいつと一緒に戻ってくる。その時にこの借りは、返す!」

 矢道が淡々と答える。

「当然だ。もし、志耶にもしもの事があったら、何処に居ようとお前を殺しに行く」

 そして、志耶と犬王は、一華に連れられて、犬王の居た世界に転移する。

 それを見送った後、ワンが言う。

「戻ってきた後、あの犬王の相手をする時は、手を貸そうか?」

 矢道は、首を横に振る。

「いいえ、兄として妹にまとわりつくハエは、自力で叩き潰します」

 肩を竦めるワン。

「結局、シスコンって訳だ。別に良いけどな」

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