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束縛を超えた絆

犬王を迎えに来た者、そして犬王がこの世界に来た理由が明らかに

「また落ちた」

 夕食の席で、うな垂れる谷走志耶シヤ

「何落ち込んでるんだ?」

 平然と、一緒に食事をする人のシルエットと犬の耳と鼻、剛毛に覆われた体を持つ犬王ケンオウが母親の手伝いをしていた志耶の妹、詩卯シウに尋ねると、詩卯が溜息を吐いて言う。

「志耶お姉ちゃん、また零刃ゼロバ試験に落ちたの」

 犬王が呆れた顔をする。

「またか? 大体、他人の部下になる試験に落ちたくらいどうでも良いだろうが」

 極々普通に差し出される犬王の茶碗に、ご飯をよそろうとする詩卯を押しとめて、志耶が言う。

「何で、居候の分際でお代わりしてるのよ!」

 犬王が嫌そうな顔をしていう。

「仕方ないだろう、お前の血に縛られてる間は、遠くに行けないんだ」

「コンダクターなんかに騙されるからよ」

 志耶が睨む中、詩卯が言う。

「前から聞こうと思ったんですけど、犬王さんってどうして、こっちの世界に来たんですか?」

 犬王が拳を見せて答える。

「強い奴と戦うためだ」

「ヤヤさんに、完敗してるけどね」

 志耶の呟きに犬王が強い目で反論する。

「もっと実力をあげて、勝ってやる!」

 そこに志耶達の兄、矢道が帰ってきて言う。

「挑戦するのは、構わないが、犯罪行為だけは、止めてくれ。そうなったら、討伐命令が出る。そうすると、妹達が悲しむ」

「あちきは、清々するよ」

 志耶が強がる中、詩卯が言う。

「でも、もう暫くは、ここに居るんですよね?」

 犬王が頷く。

「血の束縛が強くて、離れられもしないんだから仕方ないだろう。血の効力が薄れたら、修行の旅に出る」

「元の世界に戻らないのでしたら、こっちに顔を出して下さいね」

 三人の母親、エテーナが微笑む。

 困った顔をする犬王であった。



 夕食後、庭で必死に鍛錬を積む志耶を見て、犬王が言う。

「お前、何で血の力を使わないんだ? そんな下手な術より、血の力で他者を支配して使役した方が良いだろう?」

 志耶が練習を続けながら言う。

「あちきは、ゲームの召喚師って嫌いなの。勝手に呼び出して、戦えって非常識でしょ。この力もそう。相手の意思を無視して一方的に命令する、ふざけた力。そんな物には、頼りたくないの!」

 肩を竦める犬王。

「戦いは、奇麗事じゃないだろう。特にお前達は、自分の能力以上の化物と戦うのが前提なんだからよ」

 志耶が練習を止めて言う。

「解ってる、あちきの言葉が単なる我侭でしかないことくらい。力が無く、一方的に蹂躙される者も多く居る中、やり方の選択なんて贅沢な事が出来るのは、家族の保護が、特に兄さんが居るからだよ。でも拘りたいの!」

 犬王が遠い目をする。

「兄貴か……」



「チャンスよ!」

 志耶の言葉に、詩卯が溜息を吐く。

「また?」

 志耶が強く頷く。

「今度は、正式な命令だよ。異邪がまた来て、潜伏中だから、それを発見して報告する。上手く見つければ今度の試験にプラス査定がつくって話だもん。絶対に見つける!」

 駆け出す志耶を見てから、犬王に頭を下げる詩卯。

「志耶お姉ちゃんを護ってください」

 犬王が嫌々そうに言う。

「頼まれなくても、そういう血の束縛だ。俺が居る限り、そんじょそこらの奴等には、殺させないから安心して待ってろ」

 犬王が、志耶の後を追っていく。

 そんな二人の後姿を見送りながら詩卯が言う。

「なんだかんだ言って、二人とも仲が良くなっているみたい。もしかしして、恋人とかになったりして。まるで犬夜叉だね」

 能天気な話題を振りまく詩卯であった。



「こっちの方?」

 志耶の質問に犬王が顔を歪ませる。

『どういうことだ? 何であいつが?』

 志耶の血の力で、日本語を喋っていた犬王が元の言葉を使った。

 八刃の特殊能力の一つ、強い感応能力で、言葉に含まれた意味を知り、志耶が眉を顰める。

「もしかして、知ってる奴なの?」

 犬王が駆け出す。

『そんな訳が無い! 奴は、兄貴の下で働いている筈だ』

「待ちなさい!」

 急いで後を追う、志耶。



 それは、犬王によく似ていた。

 そして、犬王の前に膝をつく。

『お待たせしました、犬王様。お迎えにあがりました』

 犬王は、苦虫を噛み潰した顔で言う。

『なんでお前がここに居る? 兄貴の下で、新しい体制を支えている筈のお前が!』

 その異邪は、首を横に振る。

『我が主は、犬王様だけです! どうかお戻り下さい!』

 犬王が怒鳴る。

『愚か者! それが、兄貴との権力争いになるとどうして解らん! 俺は、兄貴と争うつもりは、無い!』

 その異邪がそれでもなお、縋る目で言う。

狼王ロウオウに徳は、ありません。あれは、国を滅ぼします』

 犬王は、拳を握りしめて言う。

『それでも血を分けた兄貴なんだ……。解ってくれ』

 ようやく追いついた志耶だったが、二人の会話から事情を読み取り、困った顔をして犬王に言う。

「一応、あちきには、報告の義務があるんだけど、どうする?」

 犬王が振り返り言う。

「少し待ってくれ、直ぐにもとの世界に帰るように説得する」

 異邪の視線が鋭くなる。

『貴様、犬王様に馴れ馴れしいぞ!』

 犬王が振り返り言う。

『さっきの話だが、無理だ。俺は、コイツの血の力に囚われている。元の世界に戻る事は、出来ない』

 異邪が立ち上がり、その爪を伸ばす。

『ならば、その娘を殺して、お戻りいただくだけ!』

 志耶に迫る異邪の爪。

 犬王がそれを防ぐ。

『止めろ!』

 異邪が断言する。

『犬王様は、その娘の血の力で混乱なされているのですね? 安心して下さい。直ぐに解き放ってみせます。それまで暫くお待ち下さい』

 異邪の胸元から、不思議な首輪を取り出すと、犬王へ投げた。

『それは……』

 その首輪は、犬王の首に巻きつくと、犬王の動きを封じた。

犬頭イヌト、こんな物をどこで手に入れた?』

 異邪、犬頭が答える。

『犬王様に新たな主になってもらうことに賛同する同胞からです』

「それって絶対に騙されてるよね。どうせ、説得は、無理やりでも連れ戻した後、やれば良いって言われたんでしょ? それだったらそいつって、犬王の兄の手先で、戻ってきたら邪魔な犬王を確保する為に、あんたを利用したとしか考えようがないじゃん」

 志耶の当然の指摘に犬頭が敵意を向ける。

『下等の世界の人間に何が解る! 犬王様に束縛したその罪、償って貰う!』

 犬頭の爪が志耶に迫る。

 志耶は、慌てて、間合いを開けるが、犬頭の動きは素早く、一気に間合いを詰められる。

影刀エントウ

 影の刀が、犬頭の爪を弾く。

「発見次第、報告の命令だった筈だったろうが」

 矢道と一緒に行動していた、シャイニングドラゴンが人の姿をした者、ワン=ドラゴンが志耶の頭を軽く小突く。

 そして、犬頭の爪を弾いた、影の刀の主、矢道が言う。

「事情は、解らないが、妹を殺そうとした奴を見逃す訳には、いかない」

『邪魔をするな!』

 激しく爪を振るう犬頭。

 矢道は、それを正確にさばいて行く。

 その間に、ワンのパートナーである、八刃の一家、霧流の直系、一華イチカが来て、犬王の首輪を見て言う。

「これ、かなり厄介な物ね。一度つけたら、そうそう外れない。それこそ、本人を殺さない限り」

 犬王が怒りに顔を歪ませる。

「どこのどいつか知らないが、犬頭にこんな物を渡しやがって、ただじゃすまさないぞ!」

 ワンも参戦して、一気に防戦一方になる犬頭。

『私は、負けない!』

 その時、矢道の刀が左腕を切り落とす。

「勝負ありだな」

 矢道が油断なく刀を突きつけ、ワンがその手に、相手を消滅させられる程の力を溜め込む。

「待って、犬王の知り合いなの。送り返すだけにして!」

 志耶の言葉に、戸惑う一同。

 犬王が悔しそうに言う。

「こんな事を頼める義理じゃないのは、知ってる。だが、逃がしてやってくれ」

 動けない体で、精一杯の頭を下げる犬王を見て犬頭が残った腕で、自分の胸元の物を砕く。

『犬王様に、恥辱な行為を行わせた罪、この命で償います』

 体が大きくなっていく犬頭。

 ワンが舌打ちする。

「やられそうになって巨大化するなんて、どっかの戦隊の怪人か! 俺が元の姿に戻ってやるぞ!」

 ワンも本来の竜の姿に戻り、バトルを開始する。

『ドラゴンコロシアム改』

 一華が結界を張って、周囲の被害を防ぐ。

「面倒な事になった」

 矢道が困った顔をする中、犬王が一華の方を見る。

「あいつを元に戻す事は、出来るよな? お前等の力だったら可能だよな!」

 一華は、巨大化した犬頭の方をチェックして、難しそうな顔をする。

「あの姿を維持するだけで、寿命を削っていく。早くしないと、戻しても手遅れかも」

「どうすれば元に戻りますか?」

 矢道の質問に、一華が犬頭の胸を指差して言う。

「胸のところに、術の触媒があるからそれを取り出せばなんとかなると思う。でも、食い込んでるから抉り出さないと。あたし達は、貴方達の肉体構造をしらないから致命傷になる場所を避けられるか解らないよ」

 犬王が叫ぶ。

「志耶、血を飲ませろ。お前の血の力をよこせ! その力で強引に封印を壊す」

 志耶が反論する。

「馬鹿を言わないでよ、ただでさえ血の束縛に囚われてるあんたが、飲んだら、完全に下僕になるかもしれない。そんなの出来ない!」

 犬王が強い視線で言う。

「俺は、血の束縛なんかに負けない。あいつを助けたいんだ。頼む!」

 志耶が苛立ちながらも、手首を切り、犬王の口に押し当てる。

 血と共に強大な力が流れ込む犬王。

 首輪がはじけ飛ぶ。

 志耶が手首を押さえながら言う。

「自分の意思は、ある?」

 犬王は、強く歯を食いしばり答える。

「当たり前だ! あいつを助けるぞ!」

 巨大化した犬頭に突っ込んでいく犬王。

「大分無理してるね。終ったら、薬で意識飛ばしておかないと、精神が焼き切れるね」

 一華が簡易診断を降した時、犬王の右手から放たれた一撃が巨大化した犬頭の胸を大きくえぐった。



『すいません、操られていたみたいですね?』

 元の大きさに戻った犬頭の弱々しい言葉に、犬王が怒鳴る。

『黙れ。今は、大人しく治療に集中しろ!』

 一華やワンが回復魔法をかけて、傷の回復を促しているが、一華の表情は、暗い。

「傷は、治るんだろう!」

 犬王の言葉に、一華は、複雑な顔で言う。

「傷を治すことは、出来るけど、それをしたら生命力が無くなるの。傷を塞がなくても生命力は、削れて行く。消耗しきってるから、いまやっている治療が精一杯」

 犬王が犬頭の手を強く握り締める。

『死ぬな! 約束しただろう、ずっと俺に仕えると』

 犬頭が虚ろな視線で言う。

『約束を守れそうもありません。しかし、最後に犬王様と一緒に居られて幸せでした』

 そのまま、犬頭の目が閉じる。

 犬王の魂の遠吠えが鳴り響いた。



「奴とは、乳兄弟だった。小さい頃から一緒に暮らしていた。優秀な奴だから、兄貴の下でも偉くなれると思ったんだ」

 ベッドに横になって居る犬王。

 彼は、大量の薬を飲まされて、深い眠りにつこうとしていた。

『許さない。血の束縛がなくなったら、元の世界に戻って、犬頭を利用した奴等を皆殺しにしてやる』

 怒鳴り声を出すが、志耶の命令で暴れられないで居た。

 そして、そのまま眠りにつくのであった。

 そんな傷心の犬王を気遣う志耶。

 そんな志耶を遠くから見て矢道が言う。

「志耶には、あの血の力は、合わないのか? そうだとしたら、奴は、始末した方が……」

 こうして谷走家の夜が過ぎていく。

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