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己の血を認めるもの

矢道の負傷、強力な異邪を相手に志耶は、どうするのか?

「おかえり!」

 詩卯に迎えられた志耶だったが、返事もせずに部屋に戻っていく。

「お姉ちゃん、どうしたんだろう?」

 詩卯が眉を寄せて居ると猫姫も困った顔をする。

「この頃、ずっとああなんです。どうしたんでしょうか?」

 そんな中、犬王があっさりと言う。

「自分に零刃としての才能が無い事に気付いたんだろう」

「犬王、酷い!」

「そうです! 志耶さんは、一生懸命にやっています」

 文句を言う詩卯と猫姫に対して犬王が辛辣に言う。

「単純な事実だ。今まで何度、試験に落ちてたと思う?」

 詩卯が視線を泳がせながら言う。

「それは、いっぱい落ちたけど……」

「それでも、受かったんだから良いじゃないですか!」

 零刃になってからの知り合いの猫姫の反論に犬王が答える。

「あれは、随分と特例だったんだ」

「確かに、志耶は、零刃としては、未熟だ。だが、無能じゃない」

 外出の用意を済ませた矢道がやって来ていうと詩卯が言う。

「勅命の血があるからね」

 それを聞いて猫姫が複雑な顔をする。

「血の力は、強力ですけど、志耶さんは、受け入れていません」

「それが馬鹿なんだ。力、とくにあいつの力は、血だ。それから逃れる事は、出来ない」

 犬王の言葉に矢道が頷く。

「そうだな。しかし、最終的には、自分で決断する事だ」

 重い空気の中、エテーナがやってくる。

「これから仕事なの?」

 矢道が返事をする。

「はい。今夜は、帰れそうもありません」

 それを聞いて小さく溜め息を吐くエテーナ。

「無理だけは、するんじゃありませんよ」

「解りました」

 そう返事をして矢道が家を出て行く。



 志耶は、自分の部屋のベッドに横たわり、掌を蛍光灯にかざす。

「あちきの血の力か……」

 蛍光灯の光で透けて見える血管を流れる血に志耶は、過去のトラウマが甦る。

「やっぱり、あちきには、血の力を使うなんて無理だよ」

 布団を頭から被り、無理やり寝る志耶であった。



 夜中、早く寝た為に目が覚めた志耶が飲み物を飲もうと階段を降りて行くと、玄関が開いた。

「お兄ちゃん?」

 感じた気配から矢道と悟るが、いつもと違う動きに困惑する。

「志耶か? すまない、母さんを呼んできてくれ」

 照明が点けられ、血まみれの矢道の姿を見て、志耶が慌てる。

「その傷、どうしたの!」

 矢道が苦笑する。

「少し相手が強かった。傷を治療したら直に、追跡を再開するつもりだ。だから、母さんを」

「そんな、怪我じゃ無理だよ!」

 志耶が反論するが、矢道が首を横に振る。

「相手は、かなり強力な異邪だ、ほっておくわけには、いかないんだ」

「でも……」

 混乱する志耶。

「まずは、傷の治療が先です」

 いつのまにかに現れたエテーナが矢道に自分の血、ブラッドオブエリキシルを飲ませ、回復を促しながら、傷の治療を行う。

「お兄ちゃん、あたしの血も使って!」

 詩卯も矢道に血を飲ませる。

 その力もあり、矢道の傷は、どんどん癒えていく。

 それに加われない自分の無力さに志耶が泣きたくなった。

 傷がある程度、癒えた所で矢道が立ち上がろうとした。

「そろそろ、追跡を再開します」

「駄目よ、せめて今夜だけは、大人しくしていなさい」

 エテーナのきつい言葉にも矢道は、首を横に振る。

「放置すれば、一般人にも被害が出ます。行きます」

「お兄ちゃん、止めて!」

 必死に止める詩卯。

「ここは、家族のいう事を聞いておけ」

 そういって犬王は、矢道に打ち込みをいれる。

「貴様……」

「俺にあっさりやられる状態で、仕事が続けられる訳ないだろうが」

 犬王の言葉を聴きながら、矢道は意識を失う。

「ありがとう。感謝するわ」

 エテーナの言葉に犬王は、照れくさそうに言う。

「何時も、食事を食べさせてもらっているからな」

「それじゃあ、明日は、あたしもお礼に料理を作るね」

 嬉しそうに言う詩卯に犬王が力いっぱい言う。

「それは、絶対に断る」

「なんでよ」

 文句を言う詩卯。

 そんな中、戦闘準備を終えた志耶が携帯で連絡をする。

「お兄ちゃんの仕事は、あちきが引き継ぎます」

 それに対して、零刃の上司、風一が電話先から答える。

『矢道が負傷する相手にお前が敵うわけないだろうが、別の奴を派遣するから大人しくしていろ』

「お兄ちゃんがやられたのに、黙っていられません!」

 志耶の言葉を風一が切り捨てる。

『そして、お前は、異邪に殺されるのか? お前の実力では、相手にもならないぞ』

 悔しそうな顔をする志耶。

「ここは、他の人にお願いしようよ」

 詩卯が説得しようとする中、猫姫が思案をめぐらせて提案する。

「実際戦わなくても、何か出来る事があるんじゃないんですか?」

 エテーナが首を横に振る。

「今の状況では、邪魔にしかなりません」

「それでも、何にも出来ないなんて、あちきは、嫌!」

 志耶が目に涙を溜めながら言うと犬王が言う。

「お前に出来る事は、あるぞ」

 視線が集まる中、犬王が志耶を見返して言う。

「お前の血を俺に飲ませて、そして俺がその異邪と戦えば良い」

「そんなのあちきが戦った事にならない」

 志耶の反論に犬王が答える。

「矢道を倒した奴を俺だけの力で勝つのは、難しい。お前の血の力が必要なんだ」

「あたしもやります!」

 猫姫も手をあげる。

 困惑する志耶。

「でも、やっぱり……」

 犬王が志耶の顔を真直ぐに見て言う。

「志耶、戦う力と方法があるのに、それを無視するのか? お前にとって戦うって事は、単なる自己満足だけなのか?」

「違う。だけど、あちきは、ただ命令するだけの人間になりたくない!」

 志耶の言葉に犬王が言う。

「だったら、後ろに居ろ。そして俺の戦いを見守れ。そして危なくなったら血を提供しろ。それで俺は、お前と共に戦える」

 無言で見つめあう二人。

 そして志耶が言う。

「一つだけ約束して、あちきの命令より自分の命を大切にするって」

「俺は、他人の為に命を捨てるなんて絶対にしない」

 犬王の答えに志耶が言う。

「行こう」

 そして、異邪の追跡を開始する志耶達。



 矢道に重症を負わせた異邪は、獅子の獣人で、零刃の追跡を振り切り、竜夢区を脱出しようとしていた。

 そして、都心に通じる橋に足を踏み入れようとした時、横から強烈な蹴りが決まり海岸に蹴落とされる。

『何者だ!』

 獅子の獣人の言葉に、犬の耳と鼻をもち、剛毛に覆われた本来の姿を全開にした犬王が居た。

「俺の名は、犬王。自分の世界を捨てた、お前の同類だ」

 それを聞いて獅子の獣人が言う。

『ならば解るだろう! 俺達は、この世界に逃げてくるしかなかったのだ!』

 それに対して犬王が頷く。

「そうだろうな。しかし、ルールがある。お前も正規に契約を結べ。なんだったら身元引受人を紹介してやるぞ」

 獅子の獣人が苦笑する。

『何で、下位の世界の人間に遠慮する必要があるのだ? お前とて、それだけの力があれば、好き勝手に出来るだろう?』

 犬王が苦笑する。

「この力は、借り物だ」

 後ろを振り返るとそこには、志耶とその護衛の猫姫が居た。

『下位の世界の人間の力を借りるとは、誇りまで失った愚か者という事だな! ならば我が爪でその無様な生を終わらせてやろう!』

 伸ばされた爪での一撃が犬王の左腕を貫く。

『これまでだな!』

 勝利を確信する獅子の獣人だが、犬王は、平然と答える。

「お前のな!」

 犬王の爪が獅子の獣人の胴に大きな傷をつくる。

 よろめき、片膝をつく獅子の獣人。

『馬鹿な、そんな怪我を負って、戦いを続けられると思うのか?』

 その時、志耶が近づいて来て、腕を差し出す。

「飲みなさいよ」

 犬王は、頷き志耶の腕から血を吸うと左腕の傷が癒え始め、更に力が増す。

『その娘の血が力の元か、ならば我もすするまで!』

 獅子の獣人が一気に志耶に近づこうとするが、その前に猫姫が立ちふさがる。

「志耶さんには、手を出させません!」

 獅子の獣人の一撃を受け止める猫姫。

『お前程度の実力で止められると思うな!』

 一気に押し切ろうとした時、傷が完全回復した犬王の拳が獅子の獣人の脇腹に決まる。

 地面を転がり呻く獅子の獣人。

『何故だ! その娘の血だけが目的なら、したがう必要は、無いだろう!』

 志耶が辛そうに言う。

「あちきの血は、確かに力を与える。でも、それと同時にそれは、あちきの僕になる事を意味するのよ」

 獅子の獣人が目を見開く。

『そんな生に意味があると思っているのか!』

 犬王は、ゆっくりと近づきながら言う。

「俺達は、自分の意思で血を飲み、志耶の命令に従っている。それが全てだ!」

 犬王の一撃が獅子の獣人を打ち滅ぼす。

 志耶は、犬王に近づいて言う。

「これで、またあちきの血からの開放が先延ばしになったね」

 犬王が胸を張って答える。

「自分で選んだ道だ。お前にとやかく言われる覚えは、無い」

「あたしもです!」

 猫姫も強く主張する。

 無言で居た志耶であったが、その視界に一匹の子犬が入ってきた。

 そして走り去っていった子犬を見送って志耶が言う。

「あの子達ともこんな関係を結べば良かった」

 朝日が昇る中、志耶は、新たな自分の道を見つけた。



 転属届



 自分の能力が零刃に向いていないと判断しました。

 このまま、零刃に居ても向上は、望めない以上、新たな部署で、自分の能力を高めたく思います。

 短い間でしたがありがとうございました。



 零刃所属 谷走志耶



 志耶の転属届を持って風一がヤヤの所に来た。

「これで良かったのでしょうか?」

 風一の質問にヤヤが頬をかく。

「半ば無理やりだったからね。それでもこれからの戦いには、志耶の力も必要なのよ」

 風一が転属届を見ながら言う。

「実力には、問題がありましたが、やる気だけは、ある奴でしたから、少し残念です」

「そのやる気を新しい部署で発揮してもらいましょう」

 ヤヤの言葉に頷いてから真剣な顔で別の報告を始める風一。

「崩落大戦に向けて、各組織への事前通知は、終了しました」

 それを聞いてヤヤが言う。

「そう、今度の戦いは、私達、八刃だけの戦いじゃない。全人類の戦いよ。心して当たりなさい」

 風一が頷く。

「了解しました」

 退室する風一を見送ってからヤヤが悲しそうな顔をする。

「激しい戦いは、志耶や犬王にも無理をさせる事になる。その結果、命を落す可能性がある。それを解っていても戦わせようとするあちきも罪深いわね」

 それに対して、奥のへやから来た、ヤヤの親友、大山良美が言う。

「最終的に戦うかどうかを決めるのは、本人だ。その覚悟まで自分の所為にするのは、相手を侮辱することだぞ」

 苦笑するヤヤ。

「そうだね。あちき達が出来るのは、志耶達が生き残れるようにする事だけだね」

 強く頷く良美であった。



 時代は、世界を一変させる異界壁崩落大戦に向かって加速していくのであった。

 その戦いで、志耶は、犬王や協力者達のバックアップとして活躍する事となる。



 異界壁崩落大戦終結前夜。

「この戦いが終わったら、一度、犬王の世界にいってみようか?」

 志耶の言葉に犬王が首を横に振る。

「俺の世界は、もうこの世界だ」

 それを聞いて志耶が戸惑う。

「でも、心配じゃないの?」

 犬王は、淡々と言う。

「俺は、あの世界の全てを捨てた。それも二度もだ。そんな俺に戻る資格は、無い」

 志耶がそんな犬王によりそって言う。

「犬王は、優しすぎて、そして弱かったんだよ。でも、今は、あちきがバックアップしてあげられる。だからもう一度、行ってみよう。そして、もし犬王が必要とされていたら、力を貸してあげなよ」

「もしも、そんな事になったら長くなるが、良いのか?」

 犬王の質問に志耶が頷く。

「この戦いにも付き合ってもらったから、丁度良いよ。それにもしかたら何もやる事ないかもしれないよ?」

 犬王が苦笑する。

「確かにな。様子だけでも見に行くか」

 そして立ち上がる志耶。

「そろそろ寝よう、明日は、大変になるから」

 そういって先に行く志耶。

 そんな志耶を見送った犬王の傍に猫姫が来る。

「言わなくて良いんですか?」

「何をだ?」

 犬王の言葉に猫姫が言う。

「貴方は、勅命の血を過剰に吸い続けた。このままでは、勅命の血の束縛で考える事すら出来なくなるって事をです」

 犬王が肩をすくめて言う。

「今、そんな事を言ったら、志耶は、絶対に俺に血を吸わせようとしなくなる。それじゃ困るんだ」

「何故です? 志耶さんだってそんな事を望んでいない筈です!」

 猫姫が詰問すると犬王が言う。

「兄弟との争いを嫌ってこの世界に逃げてきた俺は、馬鹿な事に志耶の血を飲んで、その束縛を受けた。何度、その事実を後悔したかわからない。でも、あいつは、その束縛の所為で俺が苦しんでいるのをしって、まったく関係ない俺の戦いに付き合ってくれた。そんな志耶を俺は、何よりも大切で、愛している。だから、この戦いに勝って、異邪から志耶を護りたい。その為には、もっと力が、勅命の血の力が必要なんだ」

 猫姫が悲しそうに言う。

「志耶さんは、絶対に自分を責めますよ?」

 犬王が笑みを浮かべて言う。

「そうならないように、上手くやってやるよ。さて明日の為に俺達も寝ようぜ」

 そのまま平然と立ち去る犬王をその後姿を辛そうに見送る猫姫であった。



 そして、最後の戦いの中、犬王は、強敵を倒す為に命を落す事になる。

 しかしそれは、志耶に勅命の血の重度の束縛で犬王が犬王で無くなるという重荷を負わせない為だったのかもしれない。

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