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組織間問題を交渉するもの

再び護衛任務。今度は、八刃の指折りのVIP

 志耶は、激しく緊張していた。

「そんなに緊張しなくても良いわよ。楽にしてて」

 年取った女性、高峰タカミネ希代子キヨコが優しく声をかける。

「いえ、あちきは、全力であたれと言われています!」

 敬礼をする志耶を見て、猫姫が言う。

「凄い、緊張の仕方ですね?」

 犬王が疲れた顔で頷く。

「かなりの重要人物らしいからな」

 とにかく、志耶の希代子護衛の任務は、こうしてはじまった。



 その日の夕方。

「疲れた」

 リビングで倒れる志耶に妹の詩卯が言う。

「今日は、凄く疲れてるみたいだけど、どうしたの?」

 答える気力も無い志耶に代わり、猫姫が答える。

「今日から、高峰希代子って人の護衛の任務についていたんです」

 その一言に、それぞれの任務の報告資料を作っていた、志耶の父、栄蔵と志耶の兄、矢道が立ち上がる。

「本当か!」

 にじり寄る矢道に驚き、返事も出来ない猫姫に代わって犬王が答える。

「八刃の長から、直接指令が届いたから、間違いない」

 栄蔵が困った顔をしていう。

「いくらなんでも、VIP過ぎる」

 矢道が上着を掴み言う。

「八刃の長に交代を進言してくる」

「待って、あちきは、出来るから!」

 志耶が必死に言うが、栄蔵が首を横に振る。

「あの人は、別格なんだ。お前には、まだ無理だ」

「でも……」

 志耶が尚も反論しようとするが、栄蔵も上着をとり言う。

「私も一緒にいく。待っていろ」

 矢道が頷く中、猫姫が首を傾げる。

「そんなに凄い人なんですか? この前だって、八刃の一つ、遠糸の長の父親を護衛したじゃないですか?」

 すると詩卯が頬を掻きながら言う。

「希代子さんって言うとね、八刃と外部組織との折衝役をやってて、八刃の長の伯母にあたる人で、八刃の長が若い頃には、散々世話になっているらしいよ」

 志耶の母親、エテーナが言う。

「八刃の中で、八刃の血を引かず、認められた人間というだけでも凄いのだけど、何かと問題が多い八刃にとって外部との揉め事を効率よく解決し続けた希代子さんには、誰もが恩があるのよ」

 そして、栄蔵が言う。

「それだけに、敵も多い。内々で狙われただけの道夫殿とは、危険度が全然違う」

 矢道が頷く。

「零刃の中でもトップクラスの人間が警護につくのが普通なのだ。それを志耶に任せるなんて、本来は、ありえない」

 何か含みがある矢道の言い方に、犬王が何かに気付く。

「お前、何か、原因を知っているな?」

 矢道は、答えず栄蔵と家を出て行くのであった。



 翌日、栄蔵と矢道の説得も実らず、希代子の護衛任務は、継続される事になった。

「希代子さんって物凄く偉いんですね」

 猫姫の言葉に志耶が慌てるが、希代子は、苦笑しながら答える。

「単純に敵が多いだけ。貴女達に護衛してもらってありがたく思っているわ」

「とんでもございません。希代子様の功績は、父から聞かされています」

 志耶が慌てて言うと、希代子が大きく溜め息を吐く。

「確かに、いろんなトラブルを解決して来たわ。特にヤヤには、散々働かされたわ」

 犬王が言う。

「八刃の長の武勇伝ならいくらでも聞いた事があるな」

「どんなのですか?」

 猫姫が恐々と聞くが、誰も答えず、希代子が遠い目をして言う。

「思い出すのも面倒なほどに多く、恐ろしい事件の数々よ」

 そんな時、志耶が動く。

「危ない!」

 希代子を押し倒すと、希代子が立っていた場所を銃弾が通り抜けていく。

「犬王、追いかけて!」

 志耶の言葉に、犬王が反応しようとした時、希代子が命令する。

「必要ありません。私の護衛を続けなさい」

「でも、また襲われたら……」

 意見を言う猫姫に希代子がきっぱり言う。

「この程度の襲撃、いちいち目くじらを立てるものじゃありません」

 護衛対象にそういわれてしまっては、何も出来ない志耶達であった。



 忙しなく様々な場所に電話をかける希代子。

 それを護衛しながら見続ける志耶。

 希代子は、電話を置き、小さく溜め息を吐いて言う。

「ちょっとお願いして良いかしら?」

「何でしょうか?」

 志耶が直立して尋ね返すと希代子が言う。

「肩を揉んでもらえる?」

「解りました」

 志耶が、希代子の背中に回り、肩揉みを始める。

「上手いわね?」

 希代子の言葉に志耶が答える。

「母にしておりますから」

 それを聞いて少し寂しげな表情をする希代子。

「私も結婚していれば、貴女みたいな孫が居てもおかしくないのよね」

 弱みを見せる希代子に驚く志耶。

「あたしの妹の事を知っている?」

 希代子の質問に志耶が即答する。

「八刃の長の御生母と聞いております」

 希代子が頷き言う。

「そう、そして、八刃とは、なんの関係の無い強盗に殺された。これが、八刃の敵対組織や焔に恨みを持つ人間だったら、貴女達みたいな零刃が対処していたんでしょうけどね」

 悲しげな顔をする希代子が続ける。

「当時は、焔を散々責めた。家を留守にした貴方が悪いってね。焔は、その事を今も責任に感じ、私には、逆らえないで居る。でも、その時、私には、もっとやるべき事があった。何だか解る?」

 志耶が首を横に振るのを見て希代子が答える。

「今の八刃の長、ヤヤのメンタルケアよ。自分の妹が殺された事に余裕を失って、幼かったヤヤの事を気にかけられなかった。そして、いくつ物不幸がヤヤには、襲い、ヤヤは、壊れてしまったの」

 それを聞いて志耶が驚く。

「壊れたって、今の八刃の長は、誰もが認める立派な御方です」

 希代子が寂しげに頷く。

「ヤヤを助けてくれたのは、親友だった。結局、大人である私は、ヤヤの心の傷を癒すことは、出来なかった。その事を私は、ずっと後悔している」

 言葉が無い志耶を見ながら犬王が言う。

「何が言いたいんだ?」

 すると希代子が志耶を見上げて告げる。

「貴女は、ずっと自分の血の力を嫌悪し続けている。違う?」

 志耶は、戸惑いながらも頷く。

「はい。この力は、忌みすべき力です。相手の意思を無視して強制的にいう事をきかせるなんてあっては、ならない力です」

 それを聞いて希代子が猫姫を見て言う。

「貴女は、志耶の血の束縛を受けているわね?」

 猫姫が頷く。

「でも、それは、無理やりだったから……」

 希代子は、真直ぐに猫姫を見て言う。

「志耶の事、志耶の血を恨んでいる?」

 志耶に緊張が走る中、猫姫は、はっきりと答える。

「いいえ。あたしは、その力があったから救われました」

「それでも、貴女は、束縛され続ける」

 志耶の言葉に希代子が言う。

「どんな力も使う人しだい。そして、トラウマを持ち続けたままでは、強くなれない。貴女は、そのトラウマに打ち勝たないといけない」

 それに対して志耶が言う。

「それでも、あちきは、自分の力で戦いたいのです!」

 それに対して希代子が壁に並べられた無数のファイルを見上げながら言う。

「私に直接戦う力は、無い。出来るのは、この部屋で各組織と交渉することだけ。貴女からしてみれば、私は、戦っていないのかしら?」

 志耶が慌てる。

「そんな事、ありません! 希代子様は、自分の危険を顧みず、色んな組織から恨みをかいながらも交渉を続けています。立派に戦っています」

「ありがとうね。これが私の戦い方なの。そして、貴女には、貴女の戦い方がある」

 希代子の言葉に志耶が言う。

「あちきの戦い方……」

 希代子が頷く。

「じっくりと考えなさい」

 その言葉に志耶は、無言で頷くしかなかった。



 高峰希代子様の護衛記録



 いくつかの襲撃があった物の、全ては、事なきに終わりました。



 中略 



 最後に、希代子様からは、幾つかの助言を頂き、大変に有意義な仕事でした。



 零刃所属 谷走志耶



「今回は、ありがとうございました」

 ヤヤが、希代子の家に、御菓子をもってやってきた。

「良いのよ。私の出来るのは、こんな所。後は、本人次第よ」

 希代子の返答にヤヤが言う。

「独りでは、ないですから、きっと道が開ける筈です」

 そんなヤヤを見て希代子が言う。

「良美さんには、いくら感謝しても感謝したりないわね」

 苦笑するヤヤ。

「あちきとヨシは、親友ですから、当然の事をし合っただけですよ」

 希代子が頷く。

「そうよね。お互いに助け合える存在だからこそ、心の底から力になれた」

 そして、ヤヤが言う。

「もう直、大戦が始まります」

 それを聞いて希代子が辛そうに言う。

「どれだけの被害が出るか解らないわね?」

 ヤヤは、頷くと希代子が言う。

「死なないでね」

 ヤヤは、笑顔で答える。

「当然です。絶対に生き残ります。それが、いままであちきを助けてくださった人達への恩返しなんですから」

 希代子が微笑む。

「それが解る大人になってくれた事を、未知子ミチコも天国で嬉しいと思ってる筈よ」

 それを聞いてヤヤが頬を掻く。

「それを確認するのは、随分と先になると思いますけど」

 笑いあう希代子とヤヤであった。

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