遺伝子操作を研究するもの
萌野が手を出した違法な研究とは?
「今度の仕事は、少し面倒だ」
風一がファイルを見せてくる。
「萌野の研究所の極秘調査?」
志耶の言葉に風一が頷く。
「そこでは、秘密裏に行われている研究があるらしい。その実態を調べて、報告するのだ」
「了解しました」
志耶がそう言って、敬礼する。
「八刃に秘密裏にしなきゃいけない研究なんてあるのか?」
移動途中に犬王が言うと志耶が言う。
「正直、想像もつかないね」
猫姫が言う。
「前から思っていたんですけど、本気で八刃って何でもありなんですね」
志耶が頷く。
「神様相手にするのに方法なんて選んでられないからね」
そして、志耶達は、竜夢区の外れにある萌野の研究所に到着する。
「それでどうやって侵入するんだ?」
犬王の質問に猫姫が言う。
「谷走の術で侵入すれば良いんじゃ?」
志耶が肩をすくめて言う。
「八刃の施設は、その手の術に関する対策が万全だから駄目だよ」
「お前、普通の侵入術なんて使えたのか?」
犬王の言葉に志耶は、ばつが悪そうな顔をして言う。
「出来ないわよ。一応、正式な調査申請をとってあるから、その隙を見て、調査する事になるよ」
こうして、志耶達が、萌野の研究所に入る。
「お待たせしました。当研究所の責任者の萌野望です」
そういって微笑む二十代後半の女性に、志耶が頭を下げる。
「零刃所属、谷走志耶です。今回は、立ち入り調査、協力ありがとうございます」
「八刃に所属する者として当然です」
望が笑顔で言う。
そんな二人を見て犬王が呟く。
「お互いに作り笑顔で大変だな」
猫姫が肘で突いて黙らせるが、望が言う。
「解っているわ。ここでの研究が疑われているのでしょ?」
「どうして、そう思うのですか?」
志耶の質問に望が言う。
「秘密の研究があるからよ」
猫姫が驚く。
「認めてしまうのですか?」
犬王が舌打ちする。
「詰り、見つけられるものだったら見つけてみろって事だろ?」
望が無言で頷いた。
「絶対に見つけ出してみせます」
志耶が宣言すると望が言う。
「私は、忙しいので、後は、ご自由に」
そのまま去っていく望。
「これで大っぴらに調査出来るな」
犬王の言葉に志耶が呟く。
「極秘調査だった筈なのに」
「とにかく頑張りましょう」
猫姫が無理やり気分を切り替える。
「ここって研究施設ですよね?」
猫姫の言葉に、志耶が肩で息をしながら言う。
「そうよ、どうかした?」
猫姫は、目の前で犬王と死闘を演じている戦闘ロボットを指差して言う。
「どうしてあんなのが野放しになってるんですか?」
志耶が淡々と言う。
「まだ、戦闘ロボットだから良いほうよ、場所によっては、ドラゴンが放し飼いになってたりするからね」
猫姫が一度熟考した後に言う。
「もう一度、聞きますが、本気で研究施設なんですか?」
志耶が猫姫の肩に手を置いて言う。
「暴走すると竜夢区くらいだったら楽に消滅させる可能性があるものが研究されているから、最低限の予防処置なのよ」
暫く絶句した後、猫姫が言う。
「本気で、研究内容を考えた方が良いと思います」
志耶は、あえて反論しない。
そんな中、犬王の一撃がロボットのコアを打ち抜き、行動不能にする。
「さすが、核反応炉搭載型だけは、あったな」
犬王の言葉に猫姫が顔を引き攣らせる。
「いま、怖い言葉を聞いた気がするのですが?」
志耶が首を横に振る。
「馬鹿ね、この施設だったら、核くらい、普通に防げるわよ。研究中の龍神機関とか使われていたら、東京くらい吹き飛んでたかも」
猫姫が涙目になる。
「どうして、そう危険な物だけなんですか!」
犬王が舌打ちする。
「仕方ないだろう、相手は、神様クラスで、大陸一つ消滅させられる奴らだって居るんだ、こっちもその程度のリスクは、覚悟しないといけないんだ」
志耶が頷く。
「八刃白書には、魂の力を使った最終兵器なんてあってね。それだとほんの一瞬だけど太平洋をひやがらせたって記録があるわ。ただしその時の相手の攻撃が直撃してたら日本列島が消滅させられてたって話だけど」
蒼くなる猫姫。
「そんな事が現実にあったんですか?」
犬王が大きなため息を吐いて言う。
「八刃の長の所に居る、幼女モドキなら、木星クラスを一撃で消滅させられるって話だぞ。俺達の基準で考えられる奴らじゃないんだよ」
「とにかく調査を続けるよ」
志耶の号令に伴い、調査が続けられる。
「これといった違法研究は、無かったわね」
志耶の言葉に猫姫が手元の資料を見ながら言う。
「感染すると完全に死亡するウィルスや一からの人間製造って違法じゃないんですか?」
犬王が頷く。
「そんくらいだったら、八刃学園でも普通にやってるぞ」
突っ込むのに疲れた猫姫が何気なく壁に手を当てた瞬間、空間転移魔法が起動する。
到着した先には、無数の人間が納まった培養液が入ったケースが並んでいた。
「お手柄かもしれないぞ」
犬王の言葉に猫姫が言う。
「魂を感じません、単なる人造人間の一種じゃないですか?」
志耶が、いくつかの資料を確認して言う。
「違う、これは、遺伝子操作実験の試験体だよ。こいつらは、人工萌野だ!」
その言葉に犬王が頬をかく。
「間違いなく違法研究だな」
猫姫が戸惑う。
「どうして、それが違法なんですか? もっとヤバイ研究は、いくらでもあったと思いますけど?」
志耶が頬を掻きながら言う。
「この研究が違法なのは、複雑な事情があるのよ」
「八刃の中でも血統って言うのは、重要視されるのよ。そこに遺伝子操作を行い始めたら、分家筋からもクレームが来るのよ」
奥から現れた望の言葉に犬王が言う。
「八刃の長の妹さんがそれで未だに色々突っ込みが入っているくらいだからな」
志耶が油断無く構えながら言う。
「それが解っていて、どうしてこんな事をしていたんですか!」
望が自分の手の中で炎を生み出す。
「これが私の限界。これが戦闘に役に立つと思う?」
「呪文もアイテムも使用せず、炎を生み出せる時点で人外と呼ばれます」
猫姫の言葉に望が首を横に振る。
「八刃には、そんな事は、関係ない。必要なのは、異邪に打ち勝つ力だけ。その為なら分家や本家なんて下らない事を言っていられないのよ!」
強い意志を籠めた言葉に志耶が言う。
「貴女の考えは、解りました。弁明は、八刃の長にして下さい」
「ごめんなさいね、まだ時期早々なの。殺しは、しない記憶を封鎖するだけ。その為に倒させてもらう」
望は、そう言って指を鳴らすとケースが開き、人工萌野達が出てくる。
「丁度、元異邪の犬王までいるから、実戦テストさせてもらうわ」
犬王が獰猛な笑みを浮かべて言う。
「良いだろう、相手してやるよ!」
それに答える様に人工萌野達は、激しい炎を生み出して、犬王に撃ちこんで行く。
「俺の後ろに居ろ!」
犬王がそういって前に出て、全ての炎を受け止める。
「犬王!」
志耶が叫ぶが、犬王は、平然としていた。
「この程度の火力でどうにかなるとおもうなよ!」
舌打ちする望。
「まだまだこれからよ!」
更に力を溜め込む人工萌野達だが、次々と腕が燃え出していく。
「そんな、どうして!」
驚く望に対して犬王が言う。
「八刃が八刃なるには、血や才能じゃない。お前だって解ってるんだろう」
望が悔しげに言う。
「思いね。でも、思いを持った八刃なら、きっとこの研究を役立てられる筈よ!」
志耶がその望の言葉に戸惑う。
「どうしてですか? 八刃だったら自分の力の強化こそ、最優先じゃないんですか?」
「自分には、自分の得意とする物がある。それが私の場合研究だった。この研究を利用して、他の人間を助けるこれも、八刃としての戦い方なのよ」
強い意志をもって断言する望に志耶が告げる。
「色々とあると思いますが、頑張ってください」
萌野の研究所の調査報告書
萌野の研究所では、遺伝子操作による、人工萌野の開発が行われていました。
中略
研究所責任者、萌野望氏には、あくまで八刃の戦力アップを考えた事だと考えられます。
零刃所属 谷走志耶
八刃の長、ヤヤの前に呼び出される望。
「問題の研究は、中止です」
それを聞いて悔しそうな顔をする望。
「どうしてもですか? この研究が成功したら、八刃が更に高まる筈なのです!」
そんな望に対してヤヤが告げる。
「八刃の血や才能だけが戦う力じゃない。無理に変えずに自分の戦い方を探せば良いのよ。あなたみたいにね。今回の研究は、駄目だけど、これからも頑張って」
その言葉に望が強い決意を籠めて言う。
「はい。必ず、私の研究で八刃の戦力を高めてみせます」
去っていく望を見ながらヤヤが言う。
「まあ、これで他のところへの遺伝子操作への牽制も出来たわね。志耶ちゃんにも良い影響あった筈。そろそろ曙達もフォローしないと」
若手のフォローも大変な八刃の長、ヤヤであった。




