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ミステリーは突然に

作者: 細鐘レン

「山岡君はルソーについてどう思う?」

新聞部の部室。次の生徒新聞の記事について部会をしている途中、部長の真子は後輩部員の山岡に質問した。

「そうですねぇ。社会契約論や人間不平等起源論とかは大革命の先駆をなしたっていわれてますし……やっぱりすごい人なんじゃないですか?」

そういった山岡に新聞部の部員四人が沈黙した。

「だれがそっちのルソーの話をしろと言った!」

沈黙を破ったのは真子だった。

山岡は何を怒られたのかわからないようで「え?」と声をあげる。

「ほら、今ここら辺ですごく有名になってる怪盗ルソーの話をしてたんでしょ? 次の生徒新聞で取り上げるから……」と、山岡の隣にいる三島が説明する。

「あ~そうだった悪い、悪い」

「や・ま・お・かぁ~、あんた本当に分かってるの?」

三島が山岡を疑い深く見る。

「わかってる…………よ?」

「語尾が疑問形じゃない! どうせさっきまで寝てたから、全然聞いていませんでしたって落ちでしょ?」

「流石、大正解!」

「流石じゃない!」

山岡の頭に三島の鉄拳が振り下ろされた。

「ごめんなさい……」

山岡が頭を抱えながら謝った。

三島は腰に手をあてて「まったく」とため息をついた。

「仕方ないね、じゃあ最初から説明しようか。まず、今日の議題は来週の生徒新聞の内容だ。今回は今話題の怪盗、ルソーについての記事を全面的に扱っていきたいと思うんだ。で、今はまずみんなにルソー思っているかという意見を聞いてみようってわけさ」

真子がそう説明すると北崎が手を挙げる。

「あの、私はルソーはいい人だと思います。盗みに行った場所や企業は全て何かしらの横領とか密売とかをしていて、ルソーはそれを暴いている訳ですし……まぁ、確かにお金は盗んでいますけど……なんだかただ盗んだじゃなくて、もっと違う意味……ルソーなりの何かがあるような気がするんです」

確かにそれは真子も同じ考えだった。

ルソーは、ただの泥棒ではなくルパン三世などのような義賊のようなイメージが真子にはあった。

「それはそうと最近校内で変な勧誘メールが回っているのが気になっているんですけど……」

三島が思い出したように言う。

「変なメール?」

真子が質問すると北崎も思い出したと言うように携帯を出して真子に見せる。

「あ、私の所にも回ってきた『シェリム』っていううちの高校で新しくできたサークルの勧誘メールでしょ? 噂だと表向きは単なるお遊びサークルだけど、何回かサークルに参加してる内にうちの卒業生が来て、なんかの書類に名前を書かされた子も何人かいるとかなんとか……」

北崎がそう言うと、

「まぁ、何のために署名させられたのかわからないし、被害らしい被害も聞いてないから、実際はどうか分からないけどね。私はちょっと気になるんだ」と、北崎の話に三島がさらに説明を加える。

「うーん、気になる話だね……そう言えば父さんがこの前書いてた記事にそんなのがあったかな?」

真子の父親は某有名出版社に勤めている記者だ。

そんな時、突然部室のドアが開いて顧問の小夜鳴先生が入って来た。

「お、みんなやってるね。次の記事は決まったかな?」

「小夜鳴先生!」

小夜鳴先生が入って来た瞬間、部員全員の顔が明るくなる。それもそうだろう、小夜鳴先生は若く生徒達と年齢が近いこともあり何でも話しやすく信頼できる人気の先生なのだ。

かくいう真子も小夜鳴先生のことは顧問と言うこともあり、学校の先生の中でもよく信頼できる先生の一人だ。

「そうだ小夜鳴先生! 今度怪盗ルソーについての特集を組もうと思っているんですけど、小夜鳴先生はルソーのことをどう思います?」

「山岡ぁ~今来たばかりの先生にいきなり質問ってのは、ないんじゃない?」

山岡に三島がそう言うと山岡は「え? そうなの?」っと言った。

「大丈夫だよ。三島君、山岡君」

小夜鳴は席に座りながら

「そうだね。いち教育者として盗みというのは許せないかな、間違ってもここにいるみんなにはやってもらいたくないしね」

と、突然真子のポケットから電子音が聞こえた。そう言えば携帯をマナーモードにするのを忘れていた。

「あ、すいません。学校じゃ使っちゃダメなのに……」

そう言いながら取り出した携帯の画面を確認する。

画面には母さん表示されていた。

「げっ、母さんだ。まったく……あの、でてもいいですか?」

「今回だけは特別だぞ。次は没収な」

「すいません……」

真子は小夜鳴に謝り、電話に出た。

「もしもし母さん? 今、学校だから話は後で……え? 父さんが? うん……わかった。すぐに帰る」

「真子君、どうかしたのかい?」

真子の様子を見ていた小夜鳴が心配そうに真子を見る。それもそうだろう、今の真子の顔はわかりやすいくらい真っ青で携帯を握る手も震えているはずだ。

真子はゆっくりと、先程母親から聞いたことを話す。

「父さんが殺されたんです……怪盗、ルソーに……」


 病院で父の顔を見た後、真子は父親の出版社のビルに来ていた。

「父さん……僕許せない、父さんを殺した犯人……ルソーが……」

ビルの上を見る。

(あそこだ、あそこなんだ、父さんがルソーに殺されたのは!!)

怒りがこみ上げてくる。

「出来るなら僕の力でルソーを見つけ出してやりたいよ……」

でも……なにもすることは出来ない……僕は警察ではない。ただの……学生だ、子供だ……なにも、することは出来ない……

真子はうつむき涙をこらえた。

己の無能を恨んだ。

そんな時、真子の前に黒いスーツを着た男二人が現れた。

一目でこちら側の人間だろうと思った。

そういう雰囲気を男達は放っていた。

「君は新谷真子君かな?」

真子はびっくりした。まさかこんな怖い人たちに声をかけられるとは思わなかった。

「そうですけど……なんでしょうか?」

「そうだな、たいした用じゃないんだ。たださ、君にうろちょろとされたくないんだよね……」

そう言いながら片方の男がスーツの内ポケットとからなにやら黒いずっしりとしたものを取り出し、真子に向ける。

「っ!」

真子は声にならない悲鳴を上げた。真子に向けられたもの……それは拳銃だった。

「別に君に恨みがあるわけじゃないんだ。ただうちの協力者がどうしてもっていうんでね……」

逃げなければ……それは分かっている。

でも、恐怖で真子の足は動かない……どうすれば……

「あ~怖い、怖い。世の中物騒になったもんだねぇ~あんたら、そりゃぁ銃刀法違反だよぉ~知ってる?」

突然、なんとも場違いな声が聞こえた。声した方向を見るとそこにはヒョットコのお面を被った男が立っていた。

「なんだ、てめぇ?」

黒服がヒョットコ男に聞く。

「え? なんだってぇ~? そりゃぁ見りゃぁわかるでしょ。ヒョットコさんだよ~」

ヒョットコ男はそう言いながらピョンピョンと跳びはねる。

完全にただの酔っ払いだ……

「なめてんのかてめぇ!」

黒服はヒョットコ男に銃を向けると躊躇することもなく引き金を引いた。

パンッという火薬の弾ける音がした。

 だが、放たれた銃弾はヒョットコ男に当たることはなかった。

ヒョットコ男はそれまでの動きからは考えられない洗練された動きで銃弾を躱し、黒服の懐に飛び込むと黒服のみぞおちに拳を埋めた。

黒服が「がっ」と言う悲鳴を上げて倒れる。その時黒服の手から拳銃が落ちるのをヒョットコ男は見逃さなかった。

地面に落ちた拳銃を明後日の方向に蹴り飛ばしてしまう。

まるで、ドラマやアニメのワンシーンのようだ。

「なんだてめぇは!」

もう一人の黒服がヒョットコ男に殴りかかる。

だがこれもヒョットコ男にあっさりと返り討ちにされてしまう。

まさかの救世主が現れたことにビックリして立ち尽くしているとヒョットコ男に腕を捕まれた。

「さ、行くぞ」

「え? ちょっと……えぇ!?」

真子はよく分からないままにヒョットコ男に連れて行かれた……


その後、ヒョットコ男に連れられ真子は街の路地裏にある隠れたバーに来ていた。バーと言っても店主はおらずヒョットコ男は自分の家のように冷蔵庫を開くと、中からジュースを出し、コップに入れて真子に出した。

「あの、なにものなんですか?」

「何もんってのはないだろう。おれはお前の命の恩人なんだぜ?」

そう言いながらヒョットコ男は自分のグラスにウイスキーを注いでいく。

「確かにさっきは助かりました。けどそれとこれは別です、なんで僕がこんな所に来なければいけないんですか?」

「死にたいならどうぞ。別におれはお前が死んでも構わんからな」

なんなんだこの男は! さっきは助けておいて今度は死んでもらって構わないなど……

 いや、そうだこの男に構う前に真子にはやることがある。

「そうだ。まずは警察に連絡だよ……さっきの奴らを捕まえてもらわないと……」

真子が携帯のボタンを押そうとしてヒョットコ男に腕をつかんで止められた。

「何をするんです?」

真子が睨むと……「やめろ」っと一括された。

「なんで、ですか?」

「警察はな、おれの嫌いな者ランキングベストファイブなんだよ」

「それ、理由になってないじゃないですか。僕は殺されかけたんです、だから彼らを捕まえてもらおうとしたまでです」

「はい、で・た・よ。優等生君、いいねぇマジ感心する。でけどその答えは不正解。残念」

ヒョットコ男が腕で大きく×を作りぶぅ~と言う。

なんてバカにした態度だ!!

「バカにしているんですか?」

「バカにしているわけじゃない。よく考えてみろ、あの手の人間は警察に通報したくらいじゃぁ意味がない。トカゲのしっぽみ切りみたくにされるだけだよ。そしたらあんたはほかのやつらに狙われて……いつの間にやら海の中、だな」

想像してぞっとした。

「でも……じゃぁ何で僕が狙われなきゃならないんですか? 僕は何かしたわけじゃないはずだ!」

「残念だけどお前には狙われる理由を作ってしまっている。お前の父親の死に関することでな」

「僕が知っているのはルソーが犯人ということだけだ。しかも、そんなことなら誰でも知っている! 僕だけが狙われる理由になっていない!」

真子は叫んだ。

 だがヒョットコ男はなにがおかしいのか笑い始めた。

「残念だが、ルソーが犯人。まずその答えが間違っているんだよ」

そんなはずはない。警察が駆けつけた事件現場にはほかの事件と同様に『ルソー参上』という派手なカードが残されていたのだ。

「なんでそう言えるんですか?」

「それはな……」

そう言いながらヒョットコ男は静かにお面を外していく。

「おれがルソーだからだよ」

真子は驚愕した。ルソーが自分の前に現れたのだ。

だが、その顔は……

「君は確か、二週間前に転校してきた三組の御子柴君?」

「流石新聞部の部長だねぇ。校内の情報に通じるね。そう、おれがルソーの正体だ」

「証拠は? 悪いがルソーの犯罪が高校生に出来ることだとは僕には思えない」

「おれが本当に高校生だと思うか? この高校に転入してきたのはルソーとしてのちょっとした事情からだ。用が済んだらおさらばさ」

そう言って御子柴が近くからペンと紙を取り出して、紙に怪盗ルソーと書く。

「こいつを警察に行って筆跡鑑定でもしてみろ、おれは仕事が終わった後にカードを必ず一枚残して帰るからな。そいつと一致するはずだ」

さらに御子柴は話を続ける。

「で、犯行現場のアリバイもある。その時間おれは、軽音部の連中に誘われて、部室で見学させてもらっていたんだ。信じられないならそいつ等に確認しろ。これで信じられたか?」

そこまで言って御子柴がにやりと笑う。

「そこまで言うなら信じるけど、でもそれなら警察にそう言えばいいじゃないか」

「お前はバカか? 『おれは怪盗ルソーです。捕まえて下さい!』って言いに行けって言うつもりか?」

「あ……」

真子のとぼけ声がバーに響いた。


夜が明け、朝が来た。結局昨日は家に帰ることが出来ず、バーで一夜を過ごした。

起きたとたんドアが開いて隣の部屋から御子柴が出てきた。

「昨日お前を襲った連中のことが分かった」

「本当か!?」

流石は怪盗ルソーと言った所だろうか、手際が良い……

「あぁ、警察の前科者リストの中に載ってた。一人は駒下山学、もう一人は佐々木優介ってんだ」

警察の前科者リスト……やはりあの二人は過去に犯罪を起こしていたのか……ん? まて、なにか忘れてないか?

「け、警察の前科者リストって……どうやって?」

「あぁ、そりゃぁ簡単だよ。警察にある適当なパソコンに不正アクセスをして……」

御子柴がさらりという。

「そういうのをハッキングっていうんだよ!」

「で、お前が狙われた理由だが……わからん」

「無視した上にわからんのかい!!」

なんなんだこの男は! 

「うるさい、とにかく学校行くぞ!」

「へ? 何で?」

こういう時はあまり外を出歩かない方が良いのではないだろうか。

そう思ったからここで一晩過ごしたわけだし……

「学生が学校に行くのは当然だろ? それにおれがいるから大丈夫だ。ほら、行くぞ!」

御子柴が真子の腕を強引に引っぱって行く。真子に、抵抗することは出来なかった……


時間は巻き戻って昨晩。真子が寝てしまった後、御子柴は真子の父親、新谷博信が勤めていた出版社に来ていた。

エントランス前には黄色いロープが張られていたが……御子柴はそれを気にすることなく越えて行く。

そのまま中に入ろうとする。

 しかし、ドアはオーロロックになっているので開かない。ここを開けるにはドア脇にある鍵穴にシリンダーキーを差し込まなければいけない。

「ふーん、オートロック、ね……」

そう言って御子柴は高い位置からドアの隙間にお札位の大きさの紙切れを勢いをつけて放り込む。

 するとドアはいとも簡単に開いてしまった。

マンションなどのオートロックは外側からは、鍵を使わなければ開かないが、内側からはセンサーで開く。

御子柴は外側から紙を使ってセンサーを作動させ、ドアを開かせたのだ。

「オートロックなんて所詮ただの玩具だ。」

御子柴は得意げに笑った。

こんな姿が防犯カメラに映っていればすぐに捕まってしまうのだろうが残念ながらカメラに御子柴の姿は映らない。すでにカメラには細工を施しているからだ。

どうやってやるか教えて欲しいって? あんたが今すぐ転職するなら教えてやるぜ。

そのまま御子柴は堂々とエレベーターを使って上の階へと上っていく。

エレベーターが目的の6階にたどり着いた。

御子柴はエレベーターから出ると迷うことなくある男のデスクに向かった。

 そう、真子の父親のデスクだ。

たどり着いた御子柴は机の奥の奥、厳重に隠されたUSBメモリーを探し出した。

「これだよ、こーれ♪」

御子柴はニヤニヤと笑いながらメモリーを眺めた。


 アジトに戻った御子柴は、直ぐにパソコンを起ち上げると、持ち帰ったメモリーをパソコンに差し込んだ。

しかし、メモリーの中身を見ることが出来ない。

パスワードを入れなければ見ることの出来ないようになっているからだ。だが、こんなことは御子柴の予測範囲の範囲内だ。パスワードがついていることもそのパスワードもすでに検討がついている。

御子柴がパスワードを打ち込むと、ポーンと言う電子音が鳴ってファイルが開かれた。

「さ~て、覗かせてもらいますよ。新谷博信さん……」

そう、呟いた。

 

時間が戻って次の日。

御子柴によって学校に連れてこられた真子は廊下を歩いていた。

突然、真子の背後から声がした。

「あ、新谷部長!」

北崎と三島が背後から近寄ってきた。

「あぁ北島君に三島君……」

「どうしたんですか部長? 体調、悪いんですか?」

「いや、ちょっとね……」

真子の顔色が悪いのを察したのか三島が声をかけてきた。三島はこう言う時によく気がつく。

「そうですか……あ、そうだった! 部長、小夜鳴先生が呼んでましたよ。なんだか話があるとかで……理科室に来てほしいって」

「ありがとう。北島君……」

これ以上、二人に余計な心配は欠けさせてはいけない。真子は無理矢理笑顔を作って二人を心配させないようにした。


「失礼します」

理科室に来た真子は丁寧にドアを開ると軽く挨拶をして理科室に入った。

「あぁ、真子君。来たね」

理科室の席に座る小夜鳴がいつもと変わらない優しい笑顔で迎えてくれた。

「あの、話って何ですか?」

真子がそう聞くと先ほどまで笑顔だった小夜鳴の顔が突然、鋭くなった。

 なんだか今まで見てきた小夜鳴の顔が偽りの仮面のようだったかに思えた。

(あれ? なんで僕こんなことを考えたんだろう……)

「あのね、新谷君。用事というのは僕からじゃないんだ、こいつ等が君に話があるそうなんだ」

「よう、また会ったなぁ~ガキィ~」

理科準備室からズカズカと入って来たのは駒下山と佐々木だった。

「え? 何でこの人達が?」

なぜ? そんな疑問が真子の頭の中を駆け回る。

「この人が、昨日俺たちが言っていた協力者だよ」

「え? 本当なんですか、小夜鳴先生?」

声がかすれているのが自分でもわかる。

しばしの沈黙。そして小夜鳴はゆっくりとうなずいた。

「そんな……」

「はっ、残念だったな」

佐々木はショックを受ける真子をあざ笑うかのように笑い、真子を蹴りつける。

真子は痛みでその場でうずくまる。

(まずい、殺される!)

絶体絶命のピンチそんな時、理科室の扉が開く。

現れたのは……ヒョットコのお面を被った男だった。

「いや~、あんた相当の悪だねぇ~小夜鳴先生。まったく、普段は生徒想いの優しい先生、裏の顔は異端宗教に入り込ませる最低な人間。こいつの父親を殺したのもあんただ。そうだろ?」

ヒョットコ男が真子を指さして言う。

「そうだ。まぁ、そいつを知っちまってるならお前も生きては帰さんがな」

「本当なんですか?」

「?」

ヒョットコ男の雰囲気が突然変わった。

「あんたは俺たちを騙した!」

ヒョットコ男が勢いよくお面を外した。

しかし、お面の下の顔は御子柴でなく山岡だった。

「山岡!」

そう言って驚いた真子だが最初から御子柴でないことは分かっていた。体つきが御子柴とは異なっていたからだ。

まさか山岡だとは思わなかったが……

「話は全部御子柴って先輩から聞きました。まさか本当だったなんて思っていませんでしたけど……」

そう言った山岡の体が一瞬宙に浮き、山岡も真子と同じように地面に蹲った。山岡が、駒下山に殴られたのだ。

「へっ、悪いなガキィ~」

「山岡君! そうだ御子柴、御子柴はどこだ? あいつもここに来ているんだろう?」

山岡が御子柴に話を聞いて来ているのなら御子柴もここに来ているはず……だが、山岡は首を横に振る。

そんな二人を見て佐々木がニタニタと笑っている。

気味が悪い……

「残念だったなガキ、その御子柴ってのは……こいつのことだろ?」

そう言うと御子柴が理科準備室から現れる。

「みこ……」

「いいざまだな」

「え?」

「笑えるぜ、昨日たった一回助けただけで信じちまうんだからな、お前」

何を言っているのか分からない……そんな真子に真実が小夜鳴によって告げられる。

「わかってないようだな。ならば教えてやろう、御子柴は俺たちの仲間だ」

「そんな、僕たちを……騙したのか?」

うそだ。そう言ってくれ御子柴!

「そうだ、お前を目障りに思っていた小夜鳴におれが提案したんだ。お前を楽しく始末する方法をな。面白いだろ? お前におれを味方と思わせて、絶望させた後に殺す。そこの哀れな山岡と一緒にな!」

「そんな……」

「そういうわけだ。ちゃっちゃと……死ねや」

佐々木が拳銃を真子に向ける。

あぁ、死ぬのか……恐怖が、悲しみが、怒りが、もはや自分でも何と言っても分からない感情が真子の中で暴れ回る。

そして、佐々木が拳銃を真子に向け引き金を……

「あ、そうそう。言い忘れたことがあったよ」

「なんだよ、言い忘れたことって?」

佐々木が早くしろと御子柴を睨む。

「これ、全校放送しちゃってるのよね」

「はぁ?」

理科室にいる全員が訳が分からず御子柴を見ている。

「だから、今までの話は全校中のみんなが聞いちゃったの」

そう言われて、やっと意味が分かった。

「どういうことだ御子柴ぁ!」

小夜鳴が激怒する。

「いや、最初からあんたらの仲間になった覚えはねぇし……それに、あんたら悪事はすでに警察に届け済みだ、楽しい証拠写真付きで」

御子柴が小夜鳴向けて写真を見せつける。

小夜鳴の顔が引きつっていくのが分かる。

「てめぇっ!」

佐々木が拳銃を御子柴に向けて引き金を一気に引く。だが、拳銃から弾が発射されることはなかった。カチっと言う音を立てただけだった。

「それ、弾が入ってないよ。おれが抜いといたからな……さ、チェックメイトだ小夜鳴先生。ルソーを敵に回す。その恐ろしさを身をもって味わいな!」


 「一応礼をいうよ御子柴」

小夜鳴達が捕まった後、静かになった理科室で真子が御子柴にいった。

「礼なんていらねぇよ。お前にも迷惑をかけちまった……」

「なぁ、御子柴。全部教えてくれ。父さんの死のこと、それと僕が狙われた理由」

そう言うと御子柴は少し黙った後ゆっくりと口を開いた。

「小夜鳴は、大学生の頃に異端宗教『シェリム』にはまってな。教員になってからは宗教の信者を集めるために、生徒を勧誘し始めたんだ」

「こう言う行為自体は昔から学校、特に大学で多く行われたことだ。まだ社会常識のない若者が多いからな。何年か前にオウム真理教って一時期騒がせた異端宗教があっただろう。最近じゃぁ大学もそう言う異端宗教に対策を練ってきてるから信者が集まりにくい。じゃあ高校生を勧誘しようってな」

「そしてそのことにお前の父親、新谷博信が気づいた、博信は小夜鳴にこの事実を突きつけた。小夜鳴はこのことを記者であるお前の父親に発表されることを恐れ、博信を殺害した」

うつむく真子に御子柴が言う。

「俺がこの事実を知ったのは真子、お前の父親が残してくれたこいつのお陰だ」

御子柴がUSBを見せる。

「こいつはお前の父親が隠し持っていた。見つけるのに苦労したんだぜ?今までいろんな物を盗んできたってのに、こいつを見つけるだけが一番大変だったぜ……全くすごいよ、お前の父親、最後まで真実を発表しようとしてたんだ。立派な親父だ、胸を張れ」

御子柴が真子の背中をぽんと叩く。

本当は嘘だ。USBは簡単に見つかった。

でもそれは、今言うべきじゃない。御子柴はすくなくともそう思った。

「ありがとう」

感謝する真子を見て御子柴は「さて、時間だ。じゃぁな」と言って去って行く。


 そしてこの後、御子柴は姿を消した。真子は彼にもう二度と会うことはないだろう。なぜなら彼は……怪盗なのだから……


ミステリーは突然にいかがだったでしょうか?

この作品は昨年、僕が文化祭で部活の仲間と共に販売した文芸書に掲載したものです。

また、この作品は同じ文化祭での劇に使われた脚本を小説化したものです。

(作者は2つとも僕です)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 序盤はリズム良く読めました。 ドキドキ感ありました。 [気になる点] 中盤以降は、展開をもうちょっと引き伸ばすと良かったと思いました。 [一言] 自分も途中ですが書いてます。 良かった…
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