第1話 おはようございます。神さま。
神さまとお話をする時間。
おはようございます。神さま。
朝起きると神さまが家の中にいなかったので外に出て探してみると、神さまは海の見えるところにいた。
白い砂浜の上に座っていて、そこから穏やかな海の風景をぼんやりと見つめていた。私は神さまの歩いた足あとが残っている白い砂浜の上を(なるべく神さまの足あとの上と同じところを歩くようにして)ゆっくりと歩いて、神さまのところまでいった。
神さまは海を見て泣いていた。
私がやってきたことに気がつくと、神さまは私を見て、綺麗な涙を白い指で優しくぬぐってから、にっこりと笑った。
「海を見ていたんです。今日の朝はとても海が穏やかで美しかったから。朝のお散歩の途中に、ほんの少しのつもりだったんですけど、なんだかずっと見ていたいって思ってしまって。えっと、心配させてしまってごめんなさい」
と神さまは私に言った。
私は神さまのとなりに座ってそこから神さまと同じように美しい海の風景を見た。
神さまもまた海を見た。
風は吹いていなかった。
ざっーという穏やかな波の音が音楽のように聞こえる。
海は地平線の先までずっと続いている。
私の見ている世界の中には、海と空のほかに見えるものはなにもなかった。
私と神さまはなにも言わずに、そんな美しい朝の海の風景をぼんやりと見ていた。
「どうして泣いていたんですか?」
少しして、私は言った。
「思い出していたんです。いろんなことを」
「いろんなこと?」
「はい。思い出したいことも。それから、できれば本当は思い出したくないことも。そんな普段は忘れているいろんなことを思い出していました」
「それはとても悲しくて、つらいことだったんですか? それで泣いていたのですか?」
私は神さまの顔を見る。
すると神さまも、顔を動かして、私の顔を見つめた。
信じられないくらいに美しい神さまの小さな顔にある二つの大きな子供みたいなきらきらしている瞳が私を見ている。(大きな瞳の中には私の顔が鏡みたいにはっきりとうつりこんでいた)
「確かに悲しくて、つらい思い出もたくさんあります。でもそのことを思い出して泣いていたのではありません。私はそれほど子供ではありませんよ。そうではなくて、『私の罪』を思い出して、泣いてしまったのです」
神さまは小さく笑ってそう言った。
「神さまの罪、ですか?」
「はい。私の罪です。私が今までに傷つけてしまった人のことを、『私が救うことのできなかったたくさんの人たち』のことを思い出して、ごめんなさいって思って、泣いてしまったんです」
神さまはよく(私や子供たちから隠れるようにして一人で)泣いていた。
私は泣いている神さまを見つけるたびになんだかとっても悲しい気持ちになった。(私も泣いてしまいそうになったし、一緒に泣いてしまうこともあった)
それからまた私と神さまは無言になった。
「はくしゅん!」
神さまがくしゃみをした。
少し暖かくなってきたけど、まだ朝の海は寒かった。
私は家を出るときに服を一枚、羽織るようにして着てきたけど神さまは薄着のままだった。
「そろそろ帰りましょう。神さま。ここは寒いです。風邪をひいちゃいますよ」
私が微笑みながらそういうと、神さまは「はい。そうですね。風邪をひいちゃう前に帰りましょう。あったかいお家に。二人で一緒に」とにっこりと子供みたいな顔で笑いながら私に言った。
私たちは手をつないで家まで帰った。
神さまの手はなんだかとっても冷たかった。




