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生きる理由

作者: 小雨川蛙

「どうして立ち直れたんですか?」


 そう聞かれて私は答える。


「周りのおかげです」


 模範解答だろう。

 しかし、インタビューとしてそれではつまらない。

 なにせ、何度も自殺未遂をしている人間への質問なのだ。


「あなたは虐め、病気、親しい人からの裏切り……様々な困難がありました。それでもどうにか立ち直りましたよね。やはりそれは周りの人々のおかげだというのですか?」


 露骨な誘導だ。

 やはり、今の回答ではダメか。

『同じ境遇』の人々に対するアドバイスを聞きたいに違いない。

 だから私は付け加える。


「あとはほんの少しだけ頑張りました。自分でも」


 これも模範解答だろう。

 もう無意味だとさえ思えるものでもある。

 立ち直った人々が口を揃えて言うのだから。


「かつてのあなたと同じく、苦しみながら生きる人たちへ一言」


 馬鹿馬鹿しい。

 知りもしない他人の一言で前に進めるはずない。

 そもそもそれで前に進めるなら、もうその人は十分に立ち直れている。


「何か未来への楽しみを見つけることです」


 私は答える。

 インタビューの人間は満足する。

 絶望しながらどうにか生きている人間に未来など見る余裕なんてないというのは私が一番良く知っていた。


 けれど、これでくだらない時間は終わりだ。



 *



 放送された自分の動画を見る。


「未来への楽しみを見つけること、か」


 我ながら良いことを言っているじゃないか。

 そう思った。


 事実、私がどうにか今を生きていられるのは未来を楽しみにしているからだ。


「いつ、自殺してやろうかな」


 呟いて笑う。

 そう。

 これが私の楽しみ。


 大きな苦しみから立ち直り気高く生きていると人々に認知されている『今の私』が、ある日いきなり自殺する。

 ちょっとした騒ぎになるだろう。

 失望する人も出るだろう。

 もしかしたら、自分を責める人たちも出てくるかも知れない。


「いつ、自殺してやろうかな」


 そう言いながら今日もまた私は自殺をしない、

 楽しみは後に取っておくものだ。


 ……なんて。

 そう自分に言い聞かせながら、今日も何とか生きていく。

お読みいただきありがとうございました。

生きる理由なんてなんでもいいとおもいます。

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― 新着の感想 ―
 実際、理由なんて考えてもいない人達が普通に暮らしているのであって、そんな人達が彼等に理由を探せと言っているだけに、皮肉の効いた応えは何処か真実味があり、後を引く匂わせ方が巧いですね。
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