ライブハウス、どこにする?(3-ライブは終わった、さて次は……)
「いやー! いいライブになったね!」
土曜の夜、見事デビューライブを成功させた四人に、ライブハウスのブッカーが声をかけた。まだ興奮の抜けないユイや碧波は満面の笑みで応えたが、晴歌はいつも通り穏やかに頭を下げた。暁時はその後ろで、愛用のギターの手入れに余念がない。
「お陰様で。音を綺麗に作ってくださって、ありがとうございました」
ライブ中、ボーカルだけでなくMCも担当し、パンクテイストを取り入れて観客を煽るような「尖った」パフォーマンスを見せた晴歌を、ブッカーはしきりに礼賛した。
「君のようなパフォーマーがいるバンドは伸びるよ。MCもしっかり作り込んできてたし、それに君たち、キャラ付けもしてるでしょ。最近の若い人はそういうの恥ずかしがってやらなかったりするから」
晴歌はニコニコと相槌を打ちながら聞いている。五十代後半くらいのブッカーはひとしきり感想を言い終えて、精算に入った。すかさず暁時が、スマホの電卓を横に置きながら取り分を受け取る。
ブッカーは言う。
「それで、どうかな? 次はいつになりそう? また対バンになるけど、来月の参加者を募ってるんだ」
「え、次っすか」
ひょこっとユイが顔を出したが、晴歌は「また予定見て、ご連絡します」とだけ答え、その場を後にした。午後十一時の大通りは、酔客で混み合っている。
「リーダー。どうして次のお誘いにすぐ乗らなかったんすか」
後ろから追いかけてきたユイが、晴歌に尋ねた。碧波もユイと同じように不思議がっているのがわかる。晴歌は、ライブハウスが見えなくなってから口を開いた。
「ライブハウスが次の誘いをかけてくるのは、俺たちなら十分集客できるとわかったからだ。対バンって言ってただろ。俺たち以外のバンドが集客を見込めないとしても、俺たちを誘っておけば、飲食料で利益が見込める。もちろんバンドとライブハウスは持ちつ持たれつの関係だが、もし対バン相手の怠慢の補填役をさせられるんだったら、たまったもんじゃない」
晴歌は口にしなかったが、今日の対バン相手の演奏や客層を考慮に入れての発言だということがわかり、ユイと碧波は唸った。
「それに、だ。来月にはもう一つのライブがあるだろ」
そうなのだった。ひと月前、ファミレスで二択にまで絞ったライブハウスを、結局彼らは選びきれなかったのだ。デビューライブを成功させ、そのひと月後には二件目のライブハウスで、新曲を追加したライブを行うことにしたのだった。
「確かにそうっすね。今回のと来月のとで比較して、より良かった方にお世話になればいいですもんね」
「その通り。……それで、暁時。売り上げはどうだった?」
晴歌が足を止め、最後尾を歩いていた暁時に尋ねた。暁時は「んー」と溜めを持たせ、指を立てた……三本。
「三万!」
ユイが叫ぶ。
「……と、五千円」
暁時はニヤッと笑った。
「ハルが還元率五十パーセントで交渉してくれておいてよかったわ。欲を言えば全額欲しかったけど」
「まあ、このくらいのハコなら満員にできるとわかったってことで。それに……」
晴歌はようやく、笑顔になった。ブッカーに見せていた愛想笑いではない、素の、爽やかな笑顔だ。
「めっちゃ良い演奏できたな! 初ライブであれは最高だった!」
メンバーはハイタッチを交わした。お互いの演奏について話したいことが山ほどあるという表情が、全員の顔に浮かんでいる。
「それじゃあ打ち上げと行きますか! あ、今日の利益はバンドの活動費として温存しとくから割り勘な」
暁時が言い、ユイは「ケチー」と笑った。三人の足は駅前の安い居酒屋に向かい……、そこで碧波の姿が見えないことに気がついた。
「え? ナオさんは?」
慌てて来た道を戻った彼らは、道路脇にしゃがみ込んで野良猫に話しかけている碧波を見つけた。彼が一連の会話のどこからフェードアウトしていたのか、その場の誰にもわからなかった。
お題「ライブハウス」で書きました!
エピソード「ライブハウス、どこにする?」はこれで終了です!
次回更新日は未定ですが、近日中に書いて上げられたらいいなと思います。




