ライブハウス、どこにする?(1-リーダーは苦悩する)
四季晴歌は唸っていた。
愛用のMacBookの画面と睨めっこを始めて、もう数時間になるだろう。いつもは穏やかな好青年といった雰囲気の表情に、今は苦悩が滲んでいる。細いが節にタコのある指をキーボードに滑らせる合間に、シルバーアッシュの短髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「ハル。ライブハウス決めるのってそんなに難しいわけ?」
晴歌は、自分にかけられた声に振り向いた。ソファから相手を見上げるようにして「むずいよ」と答え、数時間ぶりに立ち上がった。両腕を天井に向けて伸ばしながら、水路暁時に首を振って見せた。
「俺たちの初めてのライブだぜ。しけたとこでやりたくない」
「まあ、それはそうだけど。でもぶっちゃけ、やってみなくちゃわかんなくね? 俺は俺のギターがちゃんと響いてくれれば、それで何の文句もないんだけどな」
暁時は、晴歌の調べ物の間ずっと弾いていた愛用のギターをじゃらんと鳴らした。晴歌同様清潔感のあるこざっぱりとした身なりに、黒くゴツいシェイプのギターがアンバランスだ。
晴歌は、暁時の言葉に苦笑する。
「やってみなくちゃわからないとこもあるけど、前評判とか立地とかチケットノルマ達成後の還元率とかは調べりゃ分かることだろ。自分でできるとこで手を抜くのは、来てくれるお客さんにも失礼だ」
「確かに」
暁時は頷く。可愛がっているペットでも扱うように慎重な手つきでギターを床に置き、腕時計を示しながら言った。
「とは言え、そろそろ候補くらいは決まったんだろ。行こうぜ。ナオさんとダイも待ってる」
「もうそんな時間か。仕方ないな、行くか」
晴歌はMacBookを机から取り上げた。