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第6話 ライトなセイバー

  徐々に夏の足音が大きくなるにつれて、2人の住む地域では小規模の嵐が頻発する。

 いつもなら長くても半日で終わるが、今日に限っては夜になっても嵐は止む気配がない。


『嵐は今日の深夜に過ぎ去り、朝は雲一つない青空が広がるでしょう』


 壁に取り付けられた薄型テレビでは、ニュースキャスターが天気図を差しながら説明をする。


『大雨により地盤が緩んでいます。土砂崩れの危険がありますので、近くに住む方は……』


 生中継の映像では、視界を遮る程の雨が降り、強風によって時より画面内が揺れている。


「町への道が寸断されたら嫌だね」

「何事もなく過ぎ去るのを祈るばかりですね」


 夕食が終わり、紅茶を飲んでいた2人は一階の食堂室でくつろいでいた。

 2人とも〈明日は大変だな……〉と心の中で思っている。

 一階は見晴らしの良い外廊下だけでなく、きちんと建物内部にも廊下があるので移動自体の心配はない。予め三階に置いてあった資材と展望デッキの鉢植えは二階の本殿に避難させ、ビニールハウスも暴風雨で壊れないように補強もしている。対策は万全だ。

 渡り廊下と展望デッキ、修繕途中の三階の掃除、鉢植えの移動、道路の状況の確認など、やることが山積みだ。


『週間予報です』


 次の嵐はいつなのか、と2人が画面を注目した。

 その時、


「きゃあ?!」


 一瞬で真っ暗になり、リシルタは思わず頭を手で覆った。


「停電ですね。すぐに灯りを付けますので、ご安心ください」 

 懐中電灯を持って来てくれるのかな?


 そう思ったリシルタだったが、シャンカラは右ポケットから短い棒を取り出す。

 そこから刃渡り70センチほどのピンク色に光る円柱状の剣が現れる。


 明るい。

 お互いがよく見える。

 とても明るい。


 驚きのあまり、リシルタから暗がりに対する恐怖が吹っ飛んだ。


「二階に行って、非常用電源に切り替えましょう」

「う、うん。あのさ、それなに?」


 まだ歯磨きと風呂がまだなので灯りが必要だ。電源の復旧が優先されるとリシルタも分かっているが、シャンカラの持つライトが気になり訊いた。


「剣のようなライトです」

「さっきまでこんな大きい物持ってなかったよね」

「このように、ズボンのポケットから」


 左のポケットから二本目となる柄が登場した。

 柄の部分のスイッチを押すと、水色に光る剣が伸び、シャンカラは二刀流になった。


「こう、振り回すと、遠くにいても何処にいるのか分かりやすいですよ。しかも振ると残像で流星マークが出てくるおまけ付きです」


 ピンク色の剣のようなライトを上下に振ると、流星が流れ落ちるアニメ映像が出てくる。


「おまけ……?」


 道路の交通整理や車両誘導に使う誘導棒。

 コンサートで観客が振るペンライト。

 特定のパターンを点滅する事で文字や図形の残像を表示させるバーサライタの装置。

 組み合わせとして実際に在り、受け入れられるモノばかりだが、個人宅で披露する代物ではなのかリシルタは疑問に思う。


「家の中で振り回すのは危ないよ」

「大丈夫です。これは光なので、当たっても平気です」


 このように、とシャンカラが剣のようなライトを右腕に当ててみれば、貫通せずに光が留まっている。立体映像の技術を用いて作られているようだ。


「さらに、何時ぞや流行ったとされるゲーミングカラーに切り替えられます」


 電源のボタンを再度押すと、剣身は赤から黄、橙と滑らかに虹色の光を放ち始める。


「自信作です」


 光量が増えたお陰で、90センチ程離れた場所も良く見えるようになり、なかなかに明るい。 


「半分嘘でしょ」

「……懐中電灯を改造しました」


〈この子はぁあ!〉と言いたくなったリシルタだったが、停電の真っ暗な状況なのでぐっと堪えた。まずは安全確保と復旧が最優先だ。


 二階の本殿の隣の物置部屋に設置された配電盤の元まで到着する。シャンカラが配電盤内の幾つかのスイッチを切り、横に取り付けられた非常用電源切り替え盤を操作する。

 青い剣のようなライトを借りたリシルタは、換気が行き届いた隣の部屋に置かれている発電機の電源を入れた。

 そして、発電機が稼働しているのを確認したシャンカラは、切っていたスイッチを入れ直す。


「点いた!」


 物置部屋が明るくなり、リシルタは喜んだ。


「よかった! これで今日のところは安心だね!」

「はい。安眠出来そうです」


 そう言ってシャンカラは二本の剣のようなライトの電源を切った。


「ところで、このライトって何かモチーフになったものがあるの?」


 自動掃除機は色々と試してみた様子だが、これは機能が絞られている。明かりが点いて分かったが、柄のデザインは細部まで拘って作られている。

 リシルタは何かある様な気がした。


「はい。これはとある映画に登場する武器を模倣したものです。競技用として正規品が販売されていますが、あくまで個人の制作ですから、それっぽく見えるように心がけました」

「き、競技用?」

「内容としてはフェンシングに近いです。攻防し、相手に柔らかい素材の刃を当てて点数を稼ぐ競技です」

「世の中には色んなスポーツがあるんだね」


 映画から競技にまで発展するなんて、どれほどの人気なのだろうか。

 一作目が爆発的な人気を誇っても、直ぐに競技として確立はしないだろう。シリーズ作品として継続的に放映され、若い層からも人気を博し、世代交代に成功していると考えられる。

 映画に興味がなくとも、大人気作品のタイトルはどこかで耳にするものだ。全然知らないリシルタは、自分が世間知らずだと気づかされる。


「元となった映画を見てみますか?」


 愕然とするリシルタに対して、すかさずシャンカラは提案する。


「ね、寝る前だから、ちょっとだけ……」


 一作品見て眠ろうと思っていたシャンカラだったが、リシルタは大いに気に入り、二作目も見たいとせがまれた。そして三作目、四作目と続き、シャンカラは途中から気絶するように眠っていた。



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