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第2話 改造ロボット掃除機(優しめ)

 断崖絶壁を彫って建造された寺院の中、白に金糸の刺繍が入った法衣へ着替え終わり、廊下を歩いていたリシルタは立ち止まる。


「えっ……なにバリケード作ってるの?」


 一階の外廊下で壁掛け収納に使うワイヤーネットをスタンドに固定させ、障害物を設置中のシャンカラに遭遇した。


「ロボット掃除機達が暴走中でして」


 寝癖の様に毛先が跳ね返り、乱れていた黒髪を全て後ろに撫でる様に整えながら、シャンカラは立ち上がった。


「どういうこと?」


 故障して動かないなら話に聞くが、暴走?

 想像がつかず首を傾げるリシルタの元に、答えが走って来た。


 ガッ!!!


「え!?」


 リシルタが後ろを振り返ると、曲がり角に大きな音を立てる程に勢いよく三角のロボット床掃除機が打つかっていた。上部には大きく〈3号〉書かれたとシールが貼られている。

 

「来ました!!」

「えっ? ええ?」


 黒色の平たいロボット掃除機には、正面にセンサーが取り付けられている。まるでこちらに狙いを定める様にゆっくりと方向転換し、モーターの加速する音と共に物凄い速さでこちらへ迫って来る。

 床を磨くようにゆっくりと動くロボット掃除機の動きではない。


「改造でもしたの!?」

「はい! やりました!」


 清々しい程の即答に、リシルタは注意をしようとした瞬間、ロボット掃除機がワイヤーネットへと激突した。


 ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!


 勢いよく体当たりするロボット掃除機に、一種の恐怖をリシルタは感じた。


「これはセンサーの異常ですね。速さも手を加えていますが、制限が勝手に解除されたのか……解体して確認しなくてはなりません」


 ロボット掃除機を持ち上げ、直ぐに電源を切るとシャンカラは、冷静に分析する。

 

「修理の業者さんに依頼したら?」

「これは古い機種同士を繋ぎ合わせたので、本来の製品とは別物になっています。依頼しても、新品を買った方が良い位の値段が掛かります」


 ロボット掃除機を小脇に抱え、ワイヤーネットとスタンドを回収したシャンカラは、1階の物置部屋ではなく2階へと続く階段のある方向へと歩き出した。


「……まだ何体かいるんだね?」


 リシルタの問いにシャンカラは足を止めたが、直ぐに歩き出す。


「ちょっと待ちなさい!! やって良い事と悪い事があるでしょ!」


 シャンカラの着ている白いTシャツを掴んでリシルタは止めようとした。しかし彼の力は強く、彼女は軽く、そのまま引き摺られて行った。

 寺院は、僧侶たちが暮らしを営むための一階、展望デッキと本殿や玄関のある二階、そして瞑想をする為の開けた三階となっている。ロボット掃除機は一階に3体、一番広い二階に4体、三階に3体の割り振りで計10体が配置してあった。

 その各階1台ずつ信号が無い。


「6号は、ここにいるはずです」


 持ち手の枠がはめ込まれたガラスのような透明な板のタブレット端末を片手に、シャンカラは床を探す。表示される6号の最後の行動履歴は、二階の本殿だ

 地球西暦23世紀以降、科学の発展と共に人類は宇宙へと進出した。他の惑星の植民地化、別宇宙の人類との宇宙戦争、様々な時代を経て、今がある。

 2人の住む惑星は、Z1-1。通称〈サイハテ〉と呼ばれている。

 スペースコロニーを介さず人類が生息できる惑星の中で地球から最も遠いことから、現時点では辺境と位置付けられている。


 この寺院は、地球の仏教に似たメアズ教のものであるが、現在の所有者はシャンカラである。


 なぜ歴史的価値がありそうな大きな寺院を購入できたのか。

 それは、ここが未完成であり非公式の寺院だからだ。


 この建造物は、1人の信者が修行の為に彫ったものだ。建築基準法に基づいてしっかりと造られているが、完成を前に亡くなられてしまった。山を隔てた場所にはメアズ教の古い寺院があり、その未完成の建物を公認すると信者達が間違えて訪問してしまう等の問題が起きかねない。さらに信者は役場だけでなく宗教団体にも申請をせず、無断で建築していた事が発覚した。

 遺族も全く知らなかったので、相続する意思はない。環境を考え安易に壊すわけにもいかず、だからと言って放棄しては犯罪組織の基地や禁止薬物の栽培所にされかねない。


 引き取った町役場側も手を拱く事態となり、様式の人里離れた廃墟として売りに出され、色々な手順を踏んで今に至る。


「いないね」


 現在修繕が完了したのは一階のみだ。

 二階と三階は床や壁の修繕などがまだまだ途中であり、戸の無い窓から雨風が入り、これまでの埃や落ち葉、虫や小動物の徘徊もあって汚れや破損は多い。本殿には、シャンカラが持って来た塗料の缶やセメントの入った袋、道具箱などが無造作に置かれている。

 科学の進歩によって便利な世の中になったが、作業ロボットのレンタルとその輸送はかなりの出費になる。昔と変わらず、技術と時間さえあれば手作業のほうが安上がりだ。


「どこかに引っかかって、充電が切れたのかもしれません。探します」

「私も手伝うよ」


 2人がそれぞれ動き出そうとした時、頭上からローラーの動く機械音が聞こえて来た。


「あれ?」


 リシルタが見上げると、そこには6号とシールが貼られたロボット掃除機が宙を移動していた。まるで水面を泳ぐ水鳥のように、移動用のローラーが一生懸命に回っている。


「浮いてる!? どういうこと!?」

「あぁ、反重力装置の誤作動ですね」

「反重力!? ロボット掃除機に!?」


 どこからともなく虫取り網を持って来たシャンカラは、ふわふわと移動するロボット掃除機の捕獲に成功した。


「機能を取り付けたのみで、掃除の時に作動させないようにプログラムを組みました。3号の件もありますし、そちらも確認する必要がありますね」

「なんで取り付けたの? 何かの実験?」

「天井を掃除できればと思いまして」


 シャンカラは6号の電源を切った。


「その言い訳、今考えたよね」

「はい」

「もう……」


 リシルタは小さくため息をついた。

 天井、壁面用のロボット掃除機は、床用とは別にメーカーから販売されている。

 寺院や乗り物、家具に工具などの購入で予算は嵩んでいるが、これは完全にシャンカラの趣味だ。


「こういう事が無いように、ちゃんとしようね!」

「気を付けます」


 2人は3階へと向かい、行方知れずの最後のロボット掃除機を探す。

 3階は座禅、瞑想の空間として造られた。展望デッキの様に見晴らしの良くする為だったのか、断崖を彫って造られた窓枠はどれも大きく設計されている。


「今度のロボット掃除機には、どんな改造施したの?」


 リシルタは咎めるように見つめると、シャンカラは目線を横へと移動させる。


「シャンカラ?」

「……8号には、プロペラとセンサー、それにレーザーライトをつけました」

「何の為に!?」


 その時、外から2人の元へとロボット掃除機が悠々と飛んできた。

 パラララララ……

 4個の小さなプロペラによって空中で停止し、センサーによって安全に着地できる場所を見つけると、折り畳まれていた足が出て来た。そして、ゆっくりと降下し、見事着地を果たした。


「何をどうやったら、ここまで改造する気になるの」

「掃除は出来ます!」

「いつかこっちが掃除されそうだよ! 怪我をする前にやめてね!」


 シャンカラは8号の電源を切ると、少しだけ肩を落とした。


「お姉ちゃんに怒られては、仕方がありません。今後は改造を控えます」


 控える。懲りてはない。


「……ちなみに、他のロボット掃除機は?」


 8号を小脇にそのまま無言で歩き出したシャンカラにリシルタはしがみ付くが、彼の力は強く、軽い彼女は引き摺られて行った。


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