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59,やっぱり好きなことと確かめたかったことと僕なりの結論

「伸くんの話、初めは、すごく驚いた。伸くんが僕と別れたいと言うのには、何か深い訳があるんだとは思っていたけど、ああいうことだとは思わなかったから」


 伸は、黙ってうなずく。

 

「不思議な話とか怪談話は嫌いじゃないけど、僕自身は、そういう体験はしたことがないし、まさか自分の身に起こるなんて思わないし。伸くんが嘘をついているのかなって思ったりもしたけど、伸くんは、そんな人じゃないと思うし」


 伸は、思わず笑った。

 

「俺の頭が、どうかしていると思った?」


 有希は、あわてて否定する。

 

「そんなことないよ! ……でも、精神的に疲れているのかなっていうのは、ちょっとだけ。……ごめん」


 有希はうつむく。やっぱりそうか。

 

「いいよ。それが、当たり前の反応だと思う」


 伸の顔をちらりと見てから、有希は、再び話し始める。

 

「自分がどうしたいのか、どうすればいいのか、すごくたくさん考えたよ。伸くんの言うように、全部忘れて新しく踏み出したほうがいいのか、それとも……。


 だけど僕は、その話が本当でも、そうでなくても、やっぱり伸くんのことが好きなんだ。今も、嫌いだなんて感情は一かけらもないし、出来ることなら、そばにいたい。

 

 でも、それにはやっぱり、伸くんの話を、自分なりに理解して受け入れて、納得しなくちゃいけないと思ったんだ」

 

 有希が、そこで言葉を切ったので、ふと思い出して、立ち上がりながら言う。

 

「喉が渇いただろう? コーヒー淹れる? それとも」


「いいよ」


 有希は、首を横に振る。

 

「僕の話を最後まで聞いて」


「……わかった」


 伸は、座り直した。

 

「それでね、納得するには何が必要かって考えて、この前の休みに、墓地に行って来たんだ」


 伸は、身を乗り出した。

 

「それは駄目だって言ったじゃないか。また倒れたりしたら……」


「ごめん。伸くんにそう言われたのは覚えていたけど、どうしても確かめたいことがあって」


 有希は微笑む。

 

「でも、大丈夫だったよ。具合が悪くなったりもしなかった。


 実は、僕もちょっと怖かったから、管理事務所の人に、場所を聞くふりをして、お墓まで付き合ってもおうと思ったんだ。そうしたら、その人、僕が倒れたことを覚えていて」

 

 救急車を呼ぶなんて、そうあることではないだろうから、印象に残っているのも無理はない。

 

「だから、あのとき倒れちゃったから、ちゃんとお参りしてないんです。場所もちゃんと覚えていなくて、って言って」


 いたずらっぽく笑う顔が、とてもかわいらしい。

 

「僕が確かめたかったのは、お墓に書かれている名前だよ。伸くんが言った通り、桐原行彦っていう名前も、桐原響子っていう名前も、ちゃんとあったし、享年も、聞いていた通りだった。


 それで、やっぱり伸くんが言ったことは本当だったんだなぁって。だけど、自分がその人の生まれ変わりだっていうことは、なかなか実感がわかなくて……。

 

 それで、気持ちを整理するのに、少し時間がかかった」

 

 有希が、真っ直ぐに伸の目を見る。

 

「たくさん考えて、僕なりに結論を出したよ。


 伸くんとの日々を全部忘れてしまっても、それでも伸くんのことを好きだと思うのは、やっぱり、それ以前の僕が、本当に伸くんのことを愛していたからだと思うんだ。

 

 もちろん、記憶を失っても、好みのタイプは変わらなかったのかもしれないし、それで今の僕も好きなのかもしれないけど」

 

 まじまじと見つめられて、頬が熱くなるのを感じ、うつむく。

 

「それから、伸くんと出会ってから、ずっと僕の中にあった行彦の記憶が、突然なくなってしまったのはどうしてだろうって考えた。これは難問だったよ。


 でも、答えを出した。これは、あくまで僕が考えたことだから、正しいかどうかはわからないけど。

 

 行彦は、伸くんのことを深く愛していたけど、出会ったとき、彼は、すでに亡くなっていた。愛し合えば合うほど、伸くんの体をむしばんでしまうこともわかった。それで、やむなく身を引いたんだよね。

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