表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/62

52,発熱と沙也加からの電話と訪ねて来た有希

「大丈夫だよ。ありがとう」


 キッチンで食事の用意をしながら、母が言う。

 

「なんなら、そろそろカフェのほうを手伝ってもらおうかな。お母さんも年だし、もう十分修行になったでしょう」


「うん……」


 それもいいかもしれない。二人でやれば、メニューももっと増やせるし、将来的には、もう少し店舗を広げてもいい。

 

 この機会に、マンションを引き払って、ここに戻って来ようか……。

 

 

 母には大丈夫だと言ったし、自分でもそのつもりだったのに、夜半、目が覚めると悪寒がした。久しぶりに実家に帰って気が抜けたせいか、精神的なダメージのせいなのか、発熱していたのだ。

 

 翌朝になっても熱は下がらず、やむを得ず、仕事を休むことにして、中本に、電話で事情を話した。

 

「悪いけど、今日一日だけ頼むよ」


「任せてください、って言いたいところですけど、わからないことがあったら電話してもいいですか?」


「あぁ、もちろん」


「団体客、来週でよかったですよ。それじゃ、お大事に」


「悪いね。ありがとう」


 電話を切ると、そばで聞いていた母が言った。

 

「病院に行って来なさい」


「寝てれば治るよ」


 だが、母は顔をしかめる。

 

「ちゃんと治さないと、みなさんに迷惑がかかるでしょう」


「それもそうか……」


 母の言う通りだと思い、午前中に、近くの病院に行って診てもらい、帰って来てからは、ずっと部屋のベッドで横になっていた。その日の夜も、そのまま実家に泊まることにした。

 

 

 夕方になって、沙也加から電話がかかって来た。何か困ったことでもあったのかと心配したが、それは、伸が予想したこととは、少し違っていた。

 

「主任、あの子がまた来ているんですけど」


「あの子って?」


「あの西原っていう、高校生の男の子ですよ」


 本当は、聞く前からわかっていたが、やはり有希のことだ。

 

「……それで、なんだって?」


「主任に会いたいって言うから、今日は病欠ですって言ったら、主任の住所を教えてほしいって言うんです。さすがに、それはまずいですよね」


「そうだね。それに、今は実家にいるんだ」


「そうなんですか。じゃあ、彼には、うまく言っておきます。主任、お体の具合はいかがですか?」


「うん。明日には、なんとか行けそうだよ」


「よかった。ここだけの話ですけど、中本さんだけじゃ、なんだか頼りなくて……」


「面倒をかけて悪いね」


「いいえ。お大事になさってください」



 電話を切って、枕に頭を戻す。参った。そう簡単には、あきらめてくれないか。なぜそんなに、俺なんかにこだわるんだ……。

 

 そろそろ、中本や沙也加も、不審に思い始めていることだろう。いくらなんでも、有希は、二人の関係を彼らに話したりしないだろうが、絶対ないとは言い切れない。

 

 そんなことを思いながら、いつの間にかうとうとしていたのだが、突然、母の声に起こされた。

 

「伸。ちょっと起きてくれる?」


 見ると、母が部屋の入り口に立ってこちらを見ている。

 

「起こしてごめんね」


「いや……」


 ぼんやりと母に視線を注いでいたが、母の次の言葉で、一気に目が覚めた。

 

「お店に、西原さんっていう男の子が来ているんだけど。あなたに会えないかって」


 あわてて起き上がると、かすかにめまいがしたが、かまわず言う。

 

「わかった。今、下りて行くよ」


 まったく、なんてやつなんだ。パジャマを脱ぎ捨て、病院に行くときに着ていたシャツとチノパンツに着替える。

 

 

 階段を下りて、店舗に続くドアを開けると、カウンター席に座っていた有希が立ち上がった。テーブル席には、主婦らしい二人連れがいて、食事をしながら談笑している。

 

 伸は、不安そうな顔でこちらを見ている有希のそばまで行く。母も、不思議そうに様子をうかがっている。

 

 伸は、ドアを指して言った。

 

「奥で話そう」


 それから、母に向かって言う。

 

「いいよね」


「もちろん。どうぞごゆっくり」


 母は、有希に向かって笑いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ