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47,墓参りと救急車と思いがけない医師の言葉

 伸が言った通り、高台の墓地に続く道を登って行くと、途中から海が見えて来た。

 

「わぁ、きれい」


 ユウは、スマートフォンを出して写真を撮っている。

 

「後で、一緒に写真撮ろう」


「あぁ」


 こうして、少しずつ二人の思い出が増えて行くのだろうか。そう思ったのだが、実際には、一緒に写真を撮ることも、昼食を取ることすら叶わなかった。

 

 

 

「ここだよ」


 そう言いながら、伸は、駅前で買って、持って来た花束をユウに手渡す。ユウは、花束を抱いて墓石の正面に立った。

 

 斜め後ろから見守っていると、しばらくの間、墓石を見つめていたユウの手から、花束がぼとりと落ちた。

 

「ユウ?」


 目を見開いたユウの呼吸が激しくなる。あわてて駆け寄るのとほとんど同時に、ユウは、あお向けに倒れかかって来た。

 

「ユウ!」


 ユウは、そのまま意識を失い、伸は、墓地の管理事務所に助けを求めた。救急車が呼ばれ、ユウは病院に搬送された。

 

 

 

 過呼吸発作による意識の消失。原因は、おそらく疲労や精神的なストレス。

 

 伸から倒れたときの状況を聞いた医師は、そのように判断した。目を覚ましたら、簡単な問診をした後、特に問題がなければ帰ってかまわないと。

 

 だが、やはり母親に知らせなくてはいけないだろう。伸は、ユウの母親の連絡先を知らないので、ベッドのそばで、ユウが目を覚ますのを待つことにした。

 

 行彦の墓に対峙することは、ユウには大きなストレスになったに違いない。もう少し配慮するべきだった。

 

 かわいそうなことをしてしまった。ユウが倒れたのは自分の責任だ。

 

 

 不安な気持ちで寝顔を見つめていると、やがてユウは、ゆっくりと目を開いた。

 

「ユウ、大丈夫か?」


 ユウは、ぼんやりと伸に顔を向ける。

 

「どこか痛いところや苦しいところは?」


 ゆるゆると首を横に振るユウに言う。

 

「今、お医者さんを呼ぶけど、その前に、お母さんの連絡先を教えてくれないか? 君が倒れたことを知らせないと」


 まだぼんやりとしたまま、ユウがつぶやいた。

 

「……僕のスマホは?」


「あぁ、ここに」



 ナースコールのボタンを押して、ユウが目覚めたことを知らせると、伸は、彼の母親に電話かけるために病室を出た。伸が一通り状況を説明した後、母親が聞いた。

 

「なぜ、そんなところに?」


 伸は答える。

 

「私の古い知り合いの墓参りに付き合ってもらったんです。まさか、こんなことになるとは思わず、軽率でした。


 申し訳ありません」

 

 母親は、これから、すぐにそちらに向かうと言い、電話を切った。

 

 

 病室の前で待っていると、問診を終えて出て来た医師が、伸に向かって言った。

 

「少しよろしいですか?」


「……はい」


「それではこちらに」


 医師は、廊下を先に立って歩いて行く。

 

 

 小さな面談室のような部屋に案内され、テーブルを挟んで腰かけたところで、医師は口を開いた。

 

「失礼ですが、西原さんとのご関係は?」


「あ……友人です」


 怪訝そうな目で見られ、さらに言い添える。

 

「彼が、私の職場のアルバイトの面接に来まして」


「あぁ、なるほど」


 それで納得したのか、医師はうなずいている。

 

「ところで」


 医師は、思いがけないことを言った。

 

「西原さんには、一部、記憶障害があるようなのですが」


「……それは?」


「倒れたこと自体は、それほど心配はないと思いますが、彼は、ほかのことはともかく、あなたのことを知らないというのです。それから、墓地にいた理由も」


 そんな……。愕然とする伸に、人のよさそうな医師は、申し訳なさそうに言った。

 

「彼は、未成年ですし、その……」


 医師の言わんとすることはわかった。つまり、血縁者でもない胡散臭い男に、ユウの身柄をゆだねることは出来ないと。

 

 いたって真っ当な話だと思う。虚しい思いを隠して、伸は言った。

 

「彼の母親に連絡しました。もうこちらに向かっていると思います」


「そうですか」


 医師は、ほっとしたような顔をした。

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