46,淫らな行為を再開することとギンガムチェックのシャツと初めてのデート
ユウのことが愛しく、欲望はいくらでも湧き上がった。その体の隅々まで貪り味わい、一つになり、体力の限界に達した頃には、すっかり夜が更けていた。
夕方帰って来て、水を一杯飲んだきり、何も口にしていない。ユウが買って来たケーキにも手をつけないままだ。
胃は空っぽになっているはずだが、心は満たされていて、空腹を感じない。ユウは、なんと魅力的で、自分は今、なんと幸せなのかと思う。
若く美しい恋人は、まだ肩で息をしながら、しどけないポーズで枕に顔をうずめている。
あお向けになったまま、ぼんやりと天井を見上げていると、ユウが寝返りを打って、伸の腕に手を置いた。そして、気だるそうにつぶやく。
「伸くん……」
「うん?」
「僕も、桐原家のお墓参りに行きたいな」
「そうか。今度、二人で行こうか。昔、行ったことはあるの?」
つまり、行彦だったときに、という意味だ。
「小さいときに行ったことはあるけど、細かいことは忘れちゃった」
「そうか。じゃあ、近いうちに休みを取るよ」
ユウの学校の休みに合わせて、土曜か日曜に有給を取ろう。
「伸くん」
ユウが、肩口から見上げて言う。
「うん?」
「お腹空いた」
「じゃあ、何か作るよ」
そのつもりで食材も買ってある。
「その間にシャワーを浴びておいで」
するとユウが、甘えた声で言った。
「伸くんも一緒に浴びよう」
「えっ……」
ユウは、伸に体を洗ってほしいとねだった。その通りにしたのだが、それは、あまりに刺激的で、あんなにくたくたになっていたはずなのに、いつしか二人は、淫らな行為を再開していた。
疲れ果ててバスルームを出たときには、すでに夜が明け始めていた。もはや料理を作る気力もなく、結局、ペットボトルの飲み物とともに、ユウが買って来た、クリームたっぷりの甘いケーキが朝食替わりになった。
ペットボトルを、とんとテーブルに置いてため息をつくと、向かいに座るユウが言った。
「疲れた?」
「うん。ちょっとね。洋館でも、ここまで続けざまに、したことはなかったし……」
なんだか気恥ずかしいが、とても幸せな気分だ。ユウも、照れくさそうに微笑む。
「そうだね」
「ユウは大丈夫なの?」
いくら若いと言っても、細い体は、あまり体力がありそうには見えない。
「僕も、くたくただよ。授業中に寝ちゃうかも」
欲望のままに、あまり無茶をしてはいけないと、伸は反省した。
その日、待ち合わせの駅に現れたユウは、ブルーのギンガムチェックのシャツを着ていた。
「伸くん、昔こういうの着ていたでしょう? たまたまネットショップで見つけて買っちゃった」
「あぁ。とてもよく似合っている」
「よかった。ねぇ、初めてのデートだね」
ユウが、うれしそうに微笑む。
「そうだな」
話しながら、改札を通って、駅の構内に入る。
人が見たら、二人はどういう関係に見えるのだろう。教師と生徒? 年の離れた兄弟? いや、やはり親子か、せいぜい叔父と甥といったところか。
どちらにしても、誰も恋人同士だとは思わないだろう。そんなことを考えていると、横を歩くユウが耳元で囁いた。
「手、つないでもいい?」
「えっ?」
思わず顔を見ると、ユウは笑った。
「冗談だよ。伸くん、かわいい」
昼前に、最寄りの駅に着いた。墓参りをしてから、どこかの店で昼食にすることに決めて、墓地までの道をぶらぶらと歩く。
人通りのない道で、ユウは、伸の手を握って来た。伸も握り返し、そのまま手をつないで歩く。
天気が良く、とても気持ちがいい。かつて、この道を歩いたときは、孤独と悲しみで胸がつぶれそうだったのに、今の自分はどうだ。
伸は、満ち足りた気分で、ユウに話しかける。
「墓地は、とても見晴らしがいいんだ。この天気なら、遠くに海が見えるかもしれない」
「へぇ、楽しみ。ねぇ、明日も休みだし、今夜、この近くで泊まっちゃう?」
「俺は、明日は仕事だよ」
「そうか。……残念」
本当に残念そうな顔をしているユウがかわいくて、伸は笑った。