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45,予想外の展開と新たな呼び方と服を脱がせ合うこと

「おい……」


「伸くん、会いたかったよ」


「さっき会ったばかりじゃないか」


 彼が、伸の顔を見上げて言った。

 

「だって、さっきはママが一緒だったから」


 脳裏に、妖艶な彼の母親の姿が浮かぶ。

 

「さっきはびっくりしたよ。まさか、いきなりお母さんを連れて来るとは思わなかった」


「ごめん。怒った?」


「怒りはしないけど……」


 確実に寿命が縮まった気がした。

 

 彼は、伸の顔を見たまま言う。

 

「ママは、人を見る目は確かなんだ。だから、くどくど説明するより、実際に伸くんを見てもらったほうがいいと思って。


 ママなら、絶対に伸くんの良さをわかってくれると思ったんだよ」

 

「買いかぶり過ぎだよ……」


 こんな冴えない中年男。伸は心の中で自嘲したが、彼は続ける。

 

「ママは言ったよ。有希の好きな人が年上の男性だって聞いたときは、さすがに少し驚いたけど、安藤さんに会って、有希が惹かれた気持ちがわかった気がするって」


 思わず、真剣そうに話す彼の顔を、まじまじと見る。

 

「伸くんの態度やたたずまいを見て、とても誠実そうに見えたって。職場やスタッフの雰囲気を見ても、伸くんの人柄がうかがえるって。


 ママは、長年ナイトクラブを経営しているから、いろんな人たちを見て来ているし、そういうことがよくわかるんだよ」

 

 とても不思議な気分だ。こんな展開は、まったく予想していなかった。

 

「だけど……」


 そう言って、突然、彼が目を伏せる。

 

 あぁ、やっぱり、と思う。誠実そうに見えようが、人柄がどうだろうが、こんな関係が許されるわけがない。

 

 だが、彼は意外なことを言った。

 

「伸くんは、とても寂しそうだって。ずっと孤独を抱えて生きて来た人のように見えるって……」


「あ……」


 彼が、涙をたたえた目で見上げた。

 

「ママは、それが性的嗜好のせいだと思ったみたいだけど、そうじゃないよね。伸くんが寂しいのは、僕のせいだよね。


 僕が、長い間、ずっと伸くんに辛い思いをさせていたから……」

 

 彼は、こぼれる涙をぬぐいもせずに言う。

 

「もう二度と、伸くんを悲しませたりしない。ずっと一緒にいよう。伸くん、大好きだよ」


「あ……。えぇと」


 名前を呼ぼうとして、言葉に詰まる。伸は、ため息をついて、髪をかき上げながら言った。

 

「あのさ、こんなときに悪いけど」


「……何?」


 気をそがれたような顔をして、彼は涙をぬぐった。

 

「君は、行彦であるのと同時に、有希でもあるだろ。その……なんて呼べばいいのかな」


 繊細な行彦の記憶を持ちながら、大胆な現代っ子でもある有希。彼自身は、そのことに矛盾を感じていないようだし、伸も、そのどちらも魅力的で愛しいと思う。

 

 だが、名前を呼ぼうとするたび、なんと呼べばいいのかわからなくて、ひどく戸惑うのだ。

 

「そうだなぁ……」


 しばらくの間考えた後、彼が言った。

 

「どっちも頭に『ユ』がつくから、ユウっていうのはどう?」


「ユウ、か」


 彼は、うかがうように伸を見ている。

 

「ユウ。うん、いいな」


「本当?」


「うん」


「よかった」


 彼が、うれしそうに笑う。

 

「ねぇ、呼んでみて」


「ユウ」


「もう一度」


「ユウ。……好きだ」


 彼が、笑い声を上げながら、ぎゅっと伸に抱きついた。

 

 

 ユウにせがまれ、濃厚なキスを交わした後、そのまま奥の部屋に移動した。先に立って伸の手を引いていたユウが、振り返って言う。

 

「今日は、僕が脱がせてあげる」


 とはいえ、伸が来ているのはTシャツで、伸より背の低いユウが、立ったまま脱がせようとすると、うまくいかず、途中で二人して笑ってしまった。細い指でスウェットパンツと下着を脱がされる頃には、すでに体が変化していた。

 

 伸は、恥ずかしさをごまかすように、少々乱暴に、ユウをベッドに押し倒し、制服を脱がせにかかった。だが、制服は、横になったままでは脱がせるのが難しく、結局、起き上がったユウが、すべて自分で脱ぎ捨てた。

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