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3,肝試しと予想外の展開

 その日の夜更け、伸は、松園たち三人とともに、洋館の玄関の前に立っていた。

 

 古川に殴らせるだけでは飽き足らなくなったらしい松園に、誰にも知られず、そこまで来るように言われたのだ。

 

 松園が告げたのは、伸が予想していた通りのことだった。玄関ドアの脇の、かつてはステンドグラスがはまっていたらしい、今は暗く四角い穴となった空間を指して、彼は言った。

 

「三階の角部屋まで行って来い」


 幽霊が出るという角部屋。ようするに、肝試しだ。


 滋田と古川が、にやにやしながら見ている。松園が、手に持った懐中電灯を突きつける。

 

「そこまで行ったら、窓辺に立って、これで合図しろ。そうしたら、今回は許してやる」


 「許してやる」とはなんだ。憮然とする伸に、小馬鹿にしたように滋田が言った。

 

「あれ、びびってる? 言う通りにしないと、いつものお仕置きよ。泣いて謝ってもダメよ~」


 言う通りにしなければ、いつものように殴るということか。

 

 くだらないし卑劣だ。そんなことをしなければならない理由など一つもない。

 

 そんなことのために、わざわざこんな時間に、こんなところに集まっているこいつらは、どれだけ暇なのかと呆れる。

 

 だが、いくら正論を言ったところで通じる相手ではないし、殴られるのは嫌だし、それに、びびっていると思われるのは癪に障る。

 

 馬鹿馬鹿しいと思いながらも、伸は、松園の手から懐中電灯をひったくるようにして、大股でドアの脇に向かった。

 

 

 

 体を硬くしながら、辺りを懐中電灯で照らす。大理石らしい、玄関の広い床には、割れたガラスと、空き缶やスナック菓子の空き袋などが散乱している。

 

 これからやらなければならないことを考え、胃の辺りがずんと重くなる。本当は、めちゃめちゃびびっている。

 

 幽霊を信じていないからといって、こんな時間に、こんなところに一人で入って、怖いと思わないほうがどうかしている。幽霊はいなくても、たとえばネズミとか……。

 

 うっかり余計なことを考えてしまい、伸はあわてて頭を振る。とりあえず、三階に行くのだ。

 

 

 玄関の奥に伸びる暗い廊下を照らすと、その先に、階段の上がり口らしい手すりが見える。足元に点在する、訳の分からない落下物を踏まないよう、注意を払いながら奥まで進むと、思った通り、闇の中を上に向かう階段があった。

 

 とりあえず、第一段階は突破だ。伸は、自分にそう言い聞かせる。第二段階は、この階段を三階まで上ること。

 

 実際に、ここを上る者は多くないのか、階段には埃が厚く積もっている。造りがしっかりしているのか、足を載せても、ほとんど軋むこともない。

 

 

 途中に踊り場を挟み、二階に着いた。左右に廊下が伸びているが、素通りして、さらに階段を上る。

 

 あとは、角部屋まで行って第三段階突破、窓から懐中電灯で照らして全段階クリア。なんだ、大したことないじゃないか。

 

 そう思いながら、三階まで一気に上る。もう、あまり怖くはないが、さすがに、少し足が疲れた。

  

 三階にも、二階と同じように、闇の中を左右に廊下が伸びている。足元を懐中電灯で照らしながら、伸は「角部屋」がある右側に向かって足を踏み出した。

 

 

 気持ちを落ち着けるように、ゆっくりと進んで行くと、廊下の突き当りにドアが見えて来た。一枚板らしいドアに、意匠を凝らしたドアノブ。

 

 このドアの向こうに、自殺した住人の幽霊が? いやいや、そんなわけがない。あんなものは、誰かがふざけて言い出した、ただの作り話。ようするに、でたらめだ。

 

 かつての住人が使っていたのは本当かもしれないが、どうせ埃が積もった無人の部屋があるだけに決まっている。

 

 そう思いながらも、胸がドキドキする。一度、大きく深呼吸をしてから、伸は、ドアノブに手をかけた。

 

 

 埃臭く、空気の淀んだ暗い部屋があるはずだった。だが、そこは、伸が思っていたのとは、まったく違っていた。

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