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16,顔を合わせるなり抱き合ってベッドに倒れ込むことと目のやり場に困ること

 甘く痺れるような余韻に浸りながら、かたわらに寄り添う行彦に目をやる。二人は裸のまま、ブランケットにくるまっている。

 

「行彦」


 小さく呼ぶと、行彦は、閉じていた目を開けた。まだ赤らんでいる頬が、なまめかしい。

 

「俺、なんて言っていいか……」


 驚きの連続で、まだ頭の中が混乱しているが、なんとか感動の気持ちを伝えたい。言葉を探していると、行彦が、恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「伸くん、素敵だったよ」


「行彦も……」


 ブランケットの中で、行彦が、伸の手に触れた。二人は、指と指を絡ませる。伸は、天井のシャンデリアを見つめながら言った。

 

「俺、初めてだったから、どうしていいかわからなかったけど、行彦がリードしてくれたから……」


 行彦が、伸の肩に頬を寄せる。

 

「僕だって初めてだよ。でも、伸くんに気持ちよくなってもらいたくて、無我夢中だったんだ。伸くんのことが大好きだから……」


「……すごく気持ちよかった。それに、俺も、大好きだよ」




 朝食のとき、箸を置いた伸を見て、母が言った。

 

「もう食べないの?」


 茶碗には、まだ半分ほど、ご飯が残っているが、最近、あまり空腹を感じないのだ。

 

「うん。お腹がいっぱいになった」


「やっぱり、どこか具合が悪いんじゃない?」


「そんなことないって。俺は元気だよ」


「……そう?」


 母が心配そうな顔をするが、元気なのは本当だし、それに、とても幸せだ。

 

 

 それから伸は、ふと思い出して聞いてみる。

 

「そう言えば、再開発の話って……」


「あぁ、あれ」


 母は、味噌汁の最後の一口を飲み干してから言った。

 

「計画は、順調に進んでいるらしいわ。来月には、あの洋館も取り壊すことになったって」


「え……」


「持ち主との交渉も、うまく行っているみたい」


「持ち主って、あそこに住んでいる人?」


 相変わらず聞きそびれているが、それは行彦の母親なのだろうか。母は、首をひねる。

 

「住んではいないでしょう? 要するに、名義人ということよ」


「ふぅん……」


 事情がよく呑み込めない。今夜こそ、ちゃんと行彦に聞いてみなくては。

 

 そう胸に刻みながら、ふと行彦の白い肌と、切なげにあえぐ美しい顔が頭をよぎる。行彦、早く会いたい……。

 

 

 

 のんびり話をする余裕は、なかなかない。顔を合わせるなり、二人は抱き合い、ベッドに倒れ込んだ。

 

 伸は、今日は迷うことなく、行彦のパジャマを脱がせる。平らな胸に、ここまで欲情するものかと思いながら、薄紅色の突起に唇をつけて吸うと、行彦は、ぴくりと震えながら吐息を漏らした。

 

 昨夜とは違うやりかたで愛を交わし、新たな発見と快感に驚きながら、伸は、何度も昇りつめ、やがてくたくたになって、シーツの上に倒れ込んだ。

 

 

 

 いつの間にか眠っていたようで、ふと目を開けると、行彦が、じっと見下ろしている。ブランケットは、伸の体にかけられ、行彦は、肌もあらわなままだ。

 

「伸くん、大丈夫?」


「あぁ、うん。俺、どうかした?」


「ぐったりしたまま動かなくなっちゃったから、心配したよ」


 伸は、目をこすりながら言う。

 

「そうか。別になんともないよ。すごく、よかったから……」


 きっと、やり過ぎて疲れただけだ。

 

 伸は、髪をかき上げながら、なおも心配そうに見下ろす行彦に言った。

 

「あのさ、目のやり場に困る」


「えっ?」


 行彦は、全裸のまま、伸のすぐ横に膝をついている。

 

「あっ、ごめん!」


 行彦は、あわててブランケットを引き上げ、下半身を隠した。お互いに、今さらという気もするが。

 

 

 少し甘えて、隣に寝てほしいと言うと、行彦は、その通りにしてくれた。ブランケットの中に体を滑り込ませ、昨夜と同じように、伸の手を握る。

 

 体勢を整え、顔をこちらを向けた行彦に、伸は言った。

 

「あのさ、再開発の話って、知ってる?」


「あぁ、うん……」


 とたんに、行彦の表情が曇る。

 

「ここを取り壊すって、本当?」

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