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ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第3章《自縄自縛のモリアデス》

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70:人外の咆哮

ライグリッドが視界から消える。ほとんど残像だが、彼がどこに移動しているかは分かった。


狙いは────フレーだ。


「消えなよ!」

「フレイム・バリアっ!!」


押し潰すような衝撃が炎の壁とぶつかり合う。凄まじい圧力に、フレーは思わず仰け反りそうになった。


(これ……やば、保たない……っ!)


バリアが音を立てて決壊したのは、今までで初めてのことだった。手が燃えることさえ厭わない彼の前には、多少の防壁など合ってないようなものらしい。

しかし────


「ぜああああッッ!!」


守護者グレイザーは、在らん限りのスピードで彼に接近していた。ナイフが首元を掠める直前、ライグリッドは再び煙のようにその姿を消す。

だが光銃部隊の猛攻からは、さしもの彼も逃れられなかった。


「んっ……」


移動した先で、ザンが放った一撃が命中する。彼の胸辺りにはっきりと被弾の跡が残った。


「押し切れ、総攻撃だ!」


数々の暴力がライグリッドを取り囲んだ。ザンとエーネの光線が、フレーの炎が、そしてグレイザーによる打撃が……ほんの少しずつ彼のかすり傷を増やしていく。


けれど、そんな陣形も長くはもたない。


「ぐっっ……!?」


グレイザーはついに、正面からその突きを受け止めてしまった。体格差などもはや飾りのようなもので、彼はもんどり打って後方に吹き飛ばされる。


「グレイザーッ!!」

「浅いよ、ソフィっ!」

「ううぅ……!」


光線を腕で弾き返し、ライグリッドは姉へ向けて凄む。その威圧感と物理的な風圧で彼女が揺らぐのと、魔力残量が危うくなるのは同時だった。


「エーネ、着地して!」

「っ……ごめんなさい!」

「心配しないで! フレイム・バスター! フレイムッ……バスター!!」


出し惜しみはしていられない。フレーは姉へと牙を剥くライグリッドに、高出力の一撃を放ち続けた。たとえ当たらなくとも、せめて抑止力となることを信じて。


「グレイザー、大丈夫!? ザンも……!!」

「ちいっ……そう何度も、ガキに翻弄されてたまるか……!」

「ま、まだ傷が痛むが……撃つだけの仕事だ、フレーこそ気を付けろよ!!」


再起するグレイザーとザンは、それぞれ別方向から攻撃をしかける。先ほどより近くの建物に着地したエーネも、彼女なりの狙撃を続けていた。


「ふふふ、うふふふ……!!」


人外は予測不能な動きで光線を躱し、近接を仕掛けてくるグレイザーを汗一つかかずに捌き切る。


「やはりダメージが入らねェか……!」

「無駄さ、そんな攻撃じゃビクともしない! 君風に言うなら……そうだな。ヤワな鍛え方じゃないからね!」


「………………」


その時、それまで倒れ伏していた者の指先がかすかに持ち上がる。近くの床には、仲間が一縷の望みにかけて投げ出した最後の光銃があった。


「……僕、が……500、番以下、な、ら…………」


ギシギシと奇怪な音を立て、機人マインドは体を起こす。半壊した顔面を揺らしながら、定まらない声で言った。


「じど、う、修復、プログラ、ム……無かっ……」

「マインド!?」

「あぁ、フ、レー……」


マインドは震える手で光銃を構えた。立つことすらやっとの様子で、視界が機能しているかすらもわからないのに……

その銃口は、真っ直ぐにライグリッドを捉えている。


「見て、て…………」


彼は引き金を引いた。フレーには、それが今までで最も疾い光線に見えた。


何せ、満身創痍の身から放たれた一撃は……寸分狂わずライグリッドの瞳を射抜いたのだから。


「うっ……!!?」


それは彼が初めて上げた、人間らしい呻き声だった。右目を押さえて後ずさったライグリッドは、グレイザーを相手取るのをやめ、広場の中心部へと移動する。


「どうしてその距離からッ……普通の狙撃じゃ、ありえない……!」

「何でって……きっ、決まってるじゃないですか!」


三度目の飛翔。光銃を構えたエーネが、上空から大声で叫んだ。


「マインドこそが……リアル人外なんだからっ!!」


「…………!」


彼女による光線を、ライグリッドは素手で握りつぶす。離れた位置にいたフレーにも、そのふつふつと煮えたぎる怒りが伝わってきた。


(……やばい……!)

「ああ……そっか、油断したよ……」


ライグリッドは右目から手を放し、顔を俯かせる。肩を揺する彼は、あたかも感心したように言った。


「僕とて、目はあまり鍛えようが無い……今のは痛かった」


鍛えようが無いと言っている割に……髪の隙間から覗いた彼の瞳は、多少傷ついているようだったが、目が見えなくなるほどではないらしい。

しかし、それでも防げなかった痛み。初めて負傷したライグリッドは────


隠しきれない殺意を、その場の全員に浴びせた。


「君たち、少し痛い目に遭いたいかい?」

「────まずいぞ、全員備えろ!!」


「………………────────!!」


ライグリッド・モリアデスは、姉によく似た銀髪を逆立て、天に向けて咆哮した。


それは文字通り天地を揺るがす、圧倒的な破壊力だった。生み出された衝撃波は、一秒の間も無くソールフィネッジ全域を覆い尽くす。

もし今この世で最も神に近い者は誰かと問われれば、誰も回答に迷うことはなかっただろう。


「うあああああっっ!!??」


到底自力で耐え切れる風圧では無い。激しく後方に吹き飛ばされたフレーは、背面の家屋に背中を強打する。

しかし壁に押し付けられているのも一瞬のことだった。ありとあらゆる建物が、衝撃によって半壊状態になる。まだ半分は無事だったモリアデス邸はいよいよその面影を無くし、エーネが通ったはずの学校も、学び舎としての機能を失っていく。


「うううううっ!!」

「モイスティ……!!」


かろうじて堪えているグレイザーが、空中で錐揉みするエーネを呼んだ。大きな衝撃は免れたものの、もはや飛行状態を維持するのは不可能である。


「ぐっ……!」

「…………っ……」

「ザンっ、マイン、ドっ……!!」


ザンとマインドはそれぞれ、後方の床に叩きつけられる形となった。ザンは受け身を取ることができず、苦しげな呻き声を漏らす。踏ん張ることすらできない状態のマインドは、部品を散らせながらノーガードで飛ばされていた。


「半、死半…………生…………」

「そんなっ……」

「くそっ、何て馬鹿げた力だ……!!」


再び動かなくなったマインドに、フレーは悲痛な声を上げる。ザンも起き上がることに苦労しているようで、その視線は破壊された光銃を憎々しげな目で捉えていた。


「あぐっ……!」


風に煽られた末に、エーネはフレーとマインドの間に不時着した。落下の寸前に水で衝撃を吸収したものの、強く体を打ち付けられ、眩暈と吐き気がしているようである。光銃は空中で紛失したようだった。


「おのれッ……武器すら持たねェやつに……!」

「はあ、はあ……ふふっ……」


ライグリッドは額を拭い、唯一立っているグレイザーに向けて笑いかける。


「これでわかっただろう? 何人束になっても、所詮は烏合の衆さ。軍務長官がいれば良かったのにねぇ」


それはまさしく、子供の嫌味のような言い方で。


「疲れた……疲れたよ、みんな……でもさ、また一から作り直せばいいよね……」


息を整えたライグリッドは、原型を失ったソールフィネッジを見渡した。やっとのことで立ち上がったフレーやザンに目もくれず、ただ自身の「所有物」に関心を向けている。


「弱者たちはいくらでも揃ってるんだ。僕の手足となって動くしかない、哀れな動物たちが。そう────今の君らのような、ね」

「……相変わらず、強さとか弱さとか……そんなのばっかり……!!」


未だにふらつきがおさまらない様子のエーネも、水に濡れた髪を払い、どうにか自分の足で起き上がった。


「ライは、何もわかってません……!!」

「……そろそろ君との問答も飽きたよ」


ライグリッドは肩をすくめる。フレーたちが今にも倒れそうでも、彼は大した傷を負っていない。


「諦めなよソフィ。その運命は、君じゃどうしようもない」


フレーがそのあまりの実力差に、初めて────本当の意味で、心が折れそうになった時。



「いや……まだです」



エディネア・モイスティがそう口にする。少女の物言いは、凪のように静かだった。

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