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ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第3章《自縄自縛のモリアデス》

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66:マインドの覚悟

「フレイム────バスター・キャノンッッ!!」


最大出力で炎を放つ。ブレイン砲を破壊したあの日よりも、強く、そして速く。


「わお」


ライグリッドは驚いたように口を開け、フレーの渾身の一撃を真正面から受け止めた。

地を抉るような爆音。ソールフィネッジが自体が揺れるほどの衝撃に、確かな手応えを感じる。


「はあああああっっ……!!」


ライグリッドは速い。真正面から戦ってもそのスピードに翻弄されるだけだ。

ならば最初から、圧倒的物量で押しつぶしてしまえば良い。


「こ、これなら……ッ!」

「いや……!!」


マインドが腰を低くする。撫でるような笑いが聞こえてきたのは、ちょうどそのタイミングだ。


「んふふっ……いいじゃないか、お姉さん」

「────!?」


「ソフィの友には、似つかわしくない力だ」


広場を埋め尽くすほどの炎が、ものの一瞬で消え失せる。煙が晴れたその先にいたのは────


こちらに向けて手を突き出し、先ほどと変わらぬ立ち姿でいるライグリッドだった。


「む、無理なの……!?」

「ちっ……だが、まだだ!」

「行くよ?」


ライグリッドが視界から消える。ほんの一瞬、風を切る音がした。


「っ、ぐうっ……!!」

「ザンっ!!」


フレーの眼前に迫っていたライグリッドの一撃を、ザン・セイヴィアは刀で受け止めた。

力のこもった彼の腕に筋が浮く。対するライグリッドは、拳を押し付けるのみでそれに対抗していた。


「させるものか……フレーには、指一本触れさせない……っ!」

「格好良いじゃない、剣士さん」

「っ……覚悟しろっ!!」


目にも留まらぬ打ち合いが始まる。エルドやレイティを打ち破った男の怒涛の連撃を、彼は事もなげに捌き続けた。


「っ……フレー、頼む……!!」

「う、うんっ!!」


彼の意図を組み、フレーは噴射でその場から離脱する。


マインドが狙いを定めたのは、それとほぼ同時だった。


「スパーク・ハンズ……!」


目が眩むような光の塊が、ライグリッドの額を目掛けて突き進む。距離はほとんど無い。命中すれば彼とてただでは済まないだろう。


しかし────


「甘いよ、機人さん」

「っ……!?」


ライグリッドは首をあらぬ方向に曲げた。常人には考えられないその動きに、刀を振りかざしていたザンは顔を引き攣らせる。


命中しなかった攻撃は、軌道はそのままに奥のモリアデス邸に直撃した。天井が音を立てて崩れる中、騒ぎを感知して逃げ惑っていた住民たちの声が、ほとんど聞こえなくなる。きっと全員、里の端の方に避難したのだろう。


「何か企んでる?」

「くっ……!!」

「見たいなぁ、君たちの全力……でも君の剣技は、軍務長官には及ばないねぇ……」

「ザン、諦めないで。ヴォルト────ストライク」


マインドが連続で弾を発射する。電気を帯びたそれらは、一か所に留まらない彼を正確に捉えていた。


「好機ッ!!」


「からの────エレクトリック・マグナム!」


岩をも砕くザンの一撃が繰り出されると同時に、マインドが放った最強の光線。


それは確かにライグリッドの腹部に着弾した。閃光が弾け、その場の全員の視界が遮られる。


「……ん……っ」

「────!!」

「あぁ……少し……少しだけ、ちくっとした」


眩かった視界が徐々に戻り、状況が明らかになっていく。

ライグリッドの服が破けていた。脇腹から腰にかけて、ごっそりと布地が無くなっている。


そして肝心の肌は────少しだけ、火傷の跡ができていた。それだけだ。


「そんな……」


腕から煙を発するマインドが、無表情のまま後ずさる。


「もう、エネルギーは……」

「ねえ、ところでさぁ剣士さん」


刀を押さえつけるザンの顔を、ライグリッドは下から覗き込んだ。


「いつまでこのおもちゃに付き合えばいいの?」


「────は……?」


小気味良い音がした。とはいっても、大抵は良い思い出の無い音だ。例えるなら、皿を割ってしまった時などだろうか。


ザンの刀が、同じ音を立てて砕け散る。ライグリッドがそれを握り締めたからだと、やや遅れて気が付いた。


「馬鹿、な…………っ……」

「消えなよ」


彼の突きがザンのみぞおちに直撃する。悲鳴を上げる間も無く、彼の体は直線状に吹き飛ばされた。もし民家の壁が受け止めてくれなければ、更なる惨事になっていたかもしれない。


「ザンッ!」


マインドが声を上げる。ザンの身を案じつつ、フレーは自分に言い聞かせた。

無駄ではない。彼らが時間を稼いでくれたおかげで────


「……準備、完了……っ」

「ん……?」

「受けてみろっっ!!」


フレーは雄叫びを上げ、空に向けて左腕を掲げる。最大限の集中をもって、全身全霊の攻撃を繰り出した。



「フレイムッッ……メテオ・ストーーームーーーーーッッッ!!!」



里の端にはあまり届かないように気を使った。それから民家が密集しているところには、なるべく着弾しないようにも。

しかしそのくらいだ。この里のほぼ全域を飲み込むつもりで、フレーは終末の隕石を降り注がせる。もはや逃げ場など無い。


「マインド、来てっ!!」

「うん……!」


二人でザンが飛ばされた方に走る。彼は負傷していたが、かろうじて意識はあるようだった。

全員を壁で囲み、地を穿つ衝撃に備える。


「フレイム・バリア……! よしっ、いけえええええっっっ!!!」


ライグリッドは、里を覆い尽くす火炎の雨を見上げ、ぼうっとその場に突っ立っている。

隕石が着弾する直前、彼は誰にも聞こえぬ声で呟いた。


「面倒だなぁ」


夥しい炎の塊が、爆音と共に次々と降ってくる。無尽蔵かと思われたフレーの力……生まれて初めてその消耗を実感したタイミングで、信じられない出来事が起こった。


ほとんど全ての隕石が、着弾の直前にかき消されていた。特に建物に当たりそうなものは、痕跡すらも残さずに消滅する。

全てが終わったのち……フレーは見た。決して見たくないと思っていた、その光景……


ライグリッド・モリアデスは、ほとんど負傷した様子は無かった。辺り一面が小さな炎を上げる中、初めと全く変わらぬ場所で……悠々と仁王立ちしていた。


「君は運が悪いねぇ」

「…………あ、あっ……あ……」


衝撃のあまり、バリアが解ける。

ザンが倒れ込んだまま光銃を構えたが、狙いが定まらないのか、引き金を引けていなかった。


「連絡通路の扉に当たったみたいだよ? 仮に君の仲間がいても……これじゃあ出て来れないかもね」

「嘘、で、しょ……」


愕然として、もはや涙すら流れない。もしマインドが支えてくれなかったら……フレーは背面に倒れ込んでいただろう。


「嘘なんかじゃないよ」


ライグリッドはゆっくりと近づいてくる。


これだけの力で。

これだけ本気で戦ったのに。


与えられたダメージは、マインドが多くのエネルギーを代償に負わせた多少の火傷と、ザンの献身を元に放った隕石による、擦り傷のみ。


「わかっていたじゃないか……これが現実なんだ」


もはや攻撃を繰り出そうとする者はいなかった。ザンは震える吐息と共に、掲げていた光銃を下ろす。フレーは視界が真っ白になるのを感じながら、ただ後ずさるだけだった。


「君たちは選択を誤った。余計にソフィを悲しませる結末を選んだんだ。残念ながら、お姉さん……」


目の前に来たライグリッドは、フレーに腕を振りかざす。


「報いを受けないとね」

「待って」


そんな濁った声がした。しずしずと立ち上がったのは、もうエネルギーもあまり残っていないマインドだ。


「フレーに怪我はさせられない。当然、ザンにも」

「へぇ……ならどうする?」

「…………」


マインドは答えない。ただ両腕を広げ、ライグリッドの前に立ち塞がった。


「全く……君たちは、甘い世界に慣れすぎなんだ」


彼はため息交じりに言った。掲げられた拳を、フレーではなくマインドに向ける。


「だっ、ダメっ、マインドっ!!」

「あーあ」


彼がそんな間の抜けた声を出したのは、せめてこちらを心配をさせないためだったのだろうか。


「ごめんね、フレー……これじゃあ君を守れな────」



彼が言い終えることは無かった。ライグリッドの雷のごとき攻撃が、マインドの顔面を貫いたからだ。



右目が粉々になり、何かの部品が飛び散る。一応は人間の目として認識できる、彼の残った方の瞳も、一切の色を無くした。

マインドが脱力し、ライグリッドの体に体重を乗せた瞬間。


「…………っ、は……え………………ま……」


フレーは初めて、仲間の「死」を実感した。


「まっ……マインドーーーーーーーッッッ!!!」


「あははははは、あはっ、はは、あははははははははは!!」


絶叫するフレーには目もくれず、ライグリッドは声高に嘲笑する。


「なーんだ、機人なんて言ったって、人間と同じじゃないか! そうだよねぇ、誰だって頭を砕かれたら終わりだもんね!」


機人マインドは力無く横たわった。もしもこれが人間なら、しばらくは動くのかもしれないけれど、機械である彼にそんな常識は通用しない。


無残なほどに静かな、成れの果てがそこにはあった。


「お前っ……よくも……っっ!!」


ザンが怨嗟の呻き声を発する。フレーも涙を拭い、怨念の怒号を放った。


「ライグリッド……ッ、ライグリッド・モリアデス!! 私はっ、絶対に……!!」

「絶対に、何?」


我を忘れて憤るフレーに、彼は冷ややかな視線を寄こす。マインドの決死の身代わりにより、一度は逸れたはずの拳が……再びフレーに向けられていた。


(あ…………)


何度目かの死の予感。それはかつてなく色濃く、そして恐ろしかった。


「もう飽きたよ」


人外はしとやかに嗤う。



「さようなら、炎のお姉さん」

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