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ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第2章《愛も蝕むポイズンロード》

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43/75

43:毒をもって毒を制す

ただ独り、荷物すら持たず、フレイング・ダイナは宿を後にする。


「フレー……本当に大丈夫なんですよね? あの隕石を使うの? 作戦があるなら、私たちに教えてくれても……」

「隕石は被害が大きすぎるからダメ。エーネ、私は大丈夫だから。それよりザンをお願い」


フレーは不安で冷たくなっているエーネの手を握り、目を細めた。

避難豪での激戦から約半日が過ぎ、日は既に高く上っている。マインドは防衛本能からか眠ってしまったザンを介抱しており、エーネは最後の戦いに赴くフレーを見送りに来ていた。


「いつも助けられてばっかりだから、今度はザンに教えてあげて。何があっても……私たちがいるから、心配ないっことを」

「うん、わかった……それとフレーも、一つだけ約束してください。結果がどうなっても……勝とうが負けようが関係無く、合図の爆炎を上げてほしい。そしたら、私とマインドでフレーの元に飛んでいきます。最悪の結末になるくらいなら……ハンガーズに助けを求めたいです」

「了解。約束するね」


フレーは強く頷いた。エーネも涙目で首を縦に振り、名残惜しそうに手を離す。


「信じてます」


彼女の言葉を胸にしまい、市長邸からそう遠くはない学園を目指す。死都となった街は相変わらず殺風景で、今でも夜は一人で歩きたくない。


しかし緊張こそすれど、恐怖はもう感じなかった。恐れることなど今のフレーには無いのだから。


「ここが学園か……」


ホメルンには存在しない子供たちの学び舎。フレーたちの教育は、村の数少ない知識人から施されていた。もしこういう場所に通っていたらもっと賢くなれたのだろうか。

鉄製の門を越え、校内の階段を上っていく。屋上のドアを開き、再び外の風を胸いっぱいに吸い込んだところで、最後の会合は始まった。


「ようこそダイナさん、私の元学び舎へ! どう? この無駄に広い屋上」


開口一番上機嫌なペトレ・ロベインが、その場でくるくると回って見せた。

確かにとても広い。学園そのものも大きかったが、屋上もふんだんにスペースが確保されている。流石はレイティの作らせた校舎というべきか。


「……遅いわよ」


一方のマニーは不機嫌そうだ。無理もない、半日が経過するギリギリまで待たせたのだから。


「でも、来てくれた。温かく迎えよう、お姉ちゃん」

「まあそうね」

「そんなことより、これ! 見て!」


ペトレが奥に走っていき、巨大な鉄の塊を指し示す。

塊という表現は正しくないかもしれない。大きな筒とも形容できるそれは、まるで拳銃を巨大化したもののようだった。


「大砲っていうらしいわ! ポイズン・ガールズ合作の、名付けて『ブレイン砲』!! それも昔ながらのやつじゃなくて、光線が出る最新式のやつなんだって! 見える範囲ならどこでも届くし、ノーブルタワーも破壊できるくらいの威力なのよ。すごいでしょ?」


黒光りする大筒を撫でるペトレは、年相応にはしゃいでいる。確かここに来たばかりの頃、ザンが何かについて言及していたが……これのことだったとは。


「あんたは色塗り手伝っただけでしょ」

「でもペトレ、休憩時間、歌、歌ってくれた……」

「まあ、とにかく!」


軽やかに元の位置に戻ったペトレは、どこか試すような声色で言った。


「こんなの見たら反抗する気力も失せるでしょ、ダイナさん?」

「…………」

「何よ、顔を伏せちゃって。具合でも悪いの?」

「ううん、具合が悪いっていうか……まあ、緊張してたのは事実だけど……」


フレーは顔を上げた。


そこに、誰もが不気味に思うほどの……最上の笑みを貼り付けて。


「毒のスペシャリストでも……最後まで、気付かないものだね」


フレーの視界に光線が走った。幾度となく見た、光銃から放たれる恐ろしい攻撃だ。

発射したのは、右手に銃を構えたピューレである。至近距離からの攻撃を避けることはできず、正確に二の腕を打ち抜かれ────


「────ぎああああっっ!??」



マニー・エーションは、鬼気迫る悲鳴を上げて崩れ落ちた。



「……は……?」


ペトレが呆然として目を瞬く。そんな彼女の頬を、再度放たれたピューレの光線が掠った。


「いっ……!!?」


ペトレは顔を押さえ、後ずさる。今しがた起こったことが信じられないという顔つきで、光銃を構えるピューレと、その場で微動だにしないフレーとを見比べた。


「ど、どういうこと!? ピューレ……ピューレっ!? あんたが裏切るなんて!?」

「そ、そんな……う、嘘よ、嘘、こんなの嘘ッ!!」


ピューレはなおも引き金を引く。一筋の光が今度はペトレの髪を貫き、後頭部で結っていた髪がはらりと舞った。


「やめなさい、ピューレ! やめなさいっ!!」

「…………が、う……」


無我夢中で静止を呼び掛けていたマニーだったが、妹の発した呻き声のようなものに、ぴたりとその動きを止めた。


「お、お姉、ちゃん……」

「あ、あんた……あんたまさかっっ!!??」


「からだ、が、勝手、に…………っ」


ピューレ・エーションは真っ青な顔で、涙を流しながら唇を震わせる。

怪我をした肩では腕を動かすのも大変だろう。それでも銃口は、寸分の狂いも無く仲間を捉えていた。


「ほんとに欠陥品なんだね、あれ。全然意識奪えてない」


目の前で繰り広げられている地獄絵図を眺めながら、フレーは暢気な声で言った。


「でも役に立ったよ。敵を操れることほど楽なことはないね」


正直、唾液を入れるのはかなり抵抗があった。皆に見られないように背中を向けたが、指摘はされなかったので大丈夫だろう。

マインドの言う通り髪でも良かったが、すぐに溶けるかどうか怪しかったし……何より下手な動きをして、この切り札の存在を皆に知られたくなかった。


あの時────ピューレがフレーの脇腹を撃った瞬間。万が一に備えて携帯していた薬は粉々に砕かれた。そして溢れ出た気体を、彼女はしっかり吸い込んだのだ。

フレーに対する、確かな恐怖を携えながら。


「……っっ!! ペトレ、あいつを! フレイング・ダイナを攻撃して! 殺しても良いわ! じゃないとっ……あ、あたしたちがッ!!」

「う、ううっっ……!! うわあああああっっっ!!」


手負いのマニーから光銃をもらい受けたペトレが、なりふり構わず引き金を引く。先ほどの狙撃といい、狙いはすこぶる正確のようだ。今まで色々な特訓を受けてきただけあって、全ての光線がフレーの急所を捉えている。


「フレイム・バリア」


もちろんそれが意味を成すのは、光線が壁を破壊できればの話であるが。


「当たらないっ!! ま、マニーさん、無理よぉっ!」

「あ、当たるまで撃ちなさい! 早く!! ピューレがまた攻撃し始める前にっ!!」

「……良いの? そんなこと言って」


フレーは小さな声で尋ねると、脳内である動作を思い浮かべる。ピューレはぴくりと痙攣したかと思うと、小刻みに震えながら思い通りの動きを行った。


「……あっ……!!」


それを見たマニーは愕然として脱力する。彼女の視界の先には……


今にも死にそうな表情で、自身のこめかみに銃口を突きつけるピューレがいた。


「あ、い、いやっ……」

「お、ねえちゃ、たすけ……っ!!」

「う……嘘よね……じょ、冗談でしょ? ねえ……!!」


その衝撃的な光景に、ペトレも銃をこちらに向けたまま固まっていた。絞り出すようなその問いに、フレーは首を傾げる。


「どうして嘘だって思うの?」

「だ、だ、だって!」


答えたのはマニーだ。腕から血を流し、白い顔でまくし立てる。


「あ、あんたたち、全然殺さないじゃない! 市民たちも私たちのことも、殺すチャンスはあった! で、でも、全然そうしないじゃない!!」

「…………」

「これこそハッタリよ! そうに決まってる!! 殺すのが怖いんでしょ! ねえ、そ、そうなんでしょ!?」


今のマニーに、ホールで演説をしていた頃の威厳は欠片も残っていなかった。顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、何とか不敵な笑みを作ろうとするも、筋肉が引きつって歪な表情になっている。


「みんな優しいよね。エーネなんて、自分が襲われてる時でも相手のことを気遣うんだよ。ザンやマインドだって、手荒なことはしないし」


フレーは静かに語る。マニーは乾ききった口で、荒い呼吸をしていた。


「マニーたちが私一人でここに来いって言ってくれて、正直感謝してる」

「は……? な、何で……」

「だってさ……」


フレーが念じると、ピューレはより強くこめかみに銃口を押し付けた。


「私がこんなことしてるところ、優しいみんなに見られたくないもん」

「…………!!!」

「さあ、マニー・エーション。決断の時だよ」


地に這いつくばる彼女を見下ろす。炎の少女フレイング・ダイナの瞳は、あくる日のグレイザーよりもずっと......凍えるような冷たさだった。



「全部の洗脳を解除して。さもなければ、妹の命は無いよ」

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