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ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第2章《愛も蝕むポイズンロード》

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38:レイティ・ロベイン

「受けてみなさい!」


高所にいる二人から、目にも留まらぬ速さで光線が放たれる。


「フレイム・バリア!」


フレーが前方に壁を張り、それらを防いだ瞬間。四方を取り囲んでいた市民たちが、武器を振り上げながら一斉に襲い掛かってきた。


「さあ、704諸共、全員血祭りにあげてやるわ!」

「来たよ、みんな!」

「……魔力も回復しました! 見てて!」


エーネが声高に叫び、例の技を繰り出す。迫り来る群衆は巨大な水壁に進路を阻まれた。


「甘いね、やっぱり。そんな壁、じきに突破できる」

「ああ、そうだろうな」


ザンは刀を構え、腰を低くする。マインドも同じ体勢を取り、鉄製の足に力を込めた。


「その前に倒しさえすれば良い……マニー・エーション、お前をなっっ!!」


「っ!?」

「行けえっ、二人とも!! クラッシュ・フレイム!!」


フレーはそびえ立つ水壁に向け、衝撃の強い一撃を放つ。水が弾かれ隙間ができたタイミングで……ザンとマインドが同時に、可能な限りのスピードで前方に跳躍した。


「ま、魔法同士で……!? 一体どういう……!」

「お姉ちゃん、来るよ!」


ザンは刀を、マインドは腕に備わった発射口を真っ直ぐにマニーへと向けた。水壁越しでも彼女たちの動揺が見て取れる。


ピューレを撃退し、温泉所へ潜伏していた間……フレーたちは何もただ休憩していたわけではない。

相手は魔法が効かない。となれば必然的に、フレーとエーネは援護を強いられる。加えて彼女たちは強力な飛び道具持ちだ。グレイザー戦のようにフレー単体なら何とかなっても、人数が多ければ避け切るのは難しい。


これらを総合すると、最善策は一つ。物理攻撃が可能なザンとマインドが即座に接近し、短期決戦を仕掛けることだ。


「少し痛いかも……我慢してね」

「ああもうっ! あんたが余計なこと言うから、あたしが狙われてるじゃない!」

「うん、ほんと、マジごめん、お姉ちゃん」


マインドは空中で身を翻し、抑揚の無い声で言い放つ。


「エレクトリック・フェインター」

「させない!!」


二人がマインドに向け、同時に光線を放つ。一発は彼の肩に、そしてもう一発は発射口に着弾した。

マインドの腕は鈍い音を立て、攻撃は不発に終わる。


「あはっ、大技を温存したわね! それが命取りになるわよ!!」

「命取りでも、僕は囮」

「!?」


飛び道具に気を取られていた姉妹が我に返った頃には、ザンの刃先は目の前にあった。


「終わりだ!」

「くっ…………!」


マニーが顔をしかめ、一歩後ずさる。

勝負は決したかと思えたその時。


「……なーんてね」


動揺状態だった彼女は一転、憎たらしいほどの笑みを顔に貼り付けていた。


「出番よ、ロベインっっ!!」


「なっ……!?」


エーネが防いでいる市民の大群の中から、ひと際大柄な体躯の人物が突如として飛び上がった。先ほどのザンたちに負けないスピードで、今まさに空中で斬りかからんとしている彼に突撃する。


「まさか!?」

「ザン、気を付けて!」

「ちっ……!」


落下中のマインドの警告も虚しく、ザンは急な刺客の不意打ちにより真横に吹き飛ばされた。

幸い市民たちがいない場所だったが、彼を追うように着地したその人物を見て、フレーたちは絶句することとなる。


「あの人は……!」

「…………」


やや濃い色の金髪は肖像画よりも伸びており、伏せられた目元は確認できない。

しかし全員が感覚で理解した。今ザンと対峙している人物こそ、シュレッケンの指導者にして格闘技のプロフェッショナル。


「レイティ・ロベイン……!!」


「いいわ、いいわっ! 流石ねロベイン!!」


マニーが賞賛の拍手をする。フレーが新たなる敵に気を取られていると、背後でエーネが唸り声をあげた。


「ふ、フレー! 私そろそろ……!」

「わ、わかった! マインド、まだ動けるよね!?」

「もちろん」


肩と腕に攻撃を食らい高所から落下しても、彼は無傷だった。市民の群れをかき分け、平然とした顔でフレーたちの方に戻ってくる。


「エーネ、お疲れ様。僕が変わるよ」

「あ、ありがとう! フレー、私たちは……」


エーネと二人で、今にも死闘を始めそうなザンとレイティを見やる。実績を見れば彼女はかなりの強敵だ。

しかしこちらは、ザンが倒れてしまえば一巻の終わりなのである。


「ザン、今援護に行くから!」


フレーの言葉を合図に、エーネが水壁を消滅させた。一斉にこちらに駆け寄ってくる市民に対し、マインドは地に手をついて備える。


「第二プラン、行くよ! さあエーネ……」

「はいっ────っっ!!」


エーネが体にしがみついたのを確認し、フレーは噴射でその場を離脱した。高所恐怖症の彼女に配慮し、なるべく低めに跳びながらレイティの下へと向かう。


「……お姉ちゃん」

「そうね、任せたわピューレ」


ポイズン・ガールズの会話をよそに、マインドは囁くように言った。


「エレキ・パラライズ」


途端、なりふり構わず武器を掲げていた市民たちがぴくりと反応して動きを止める。やがて、マインドに近い者たちから順にその場にへたり込んだ。


「……麻痺は電力を食うんだよね。おかげでマグナムがあと一発しか撃てないよ」

「ナイス、マインド! このまま────!」


「ストップ」


その瞬間。移動中のフレーの頭部を、鋭い光線が掠めた。


「フレー!?」


エーネが叫ぶが、幸い傷は無い。バランスを崩して道半ばで不時着すると、高所にいたピューレがこちらに向けて跳躍してくる。


「えええええっっ!? 跳べるの!?」

「え、そ、そんなに意外?」


空中から放たれる攻撃から、壁を張って自身とエーネの身を守る。何発かをやり過ごすと、彼女はフレーたちの近くに音も無く着地した。


「圧倒的インドア派な、私だけど……これ着れば、ある程度動ける」

「そ、それ、グレイザーが着てたやつ!」

「パワースーツ、っていうの。そのままの、ネーミング。これは、スピードタイプだけど」


ピューレは白衣の下に、体の節々を覆う機械を身に着けていた。グレイザーの攻撃力を増強させていたあの道具の、亜種のような感じだろう。


「フレー、後ろ!」

「っ!?」


ピューレに気を取られていると、背後からマニーの光線が飛んできた。姉妹二人に挟まれる形だ。間一髪で防ぐも、あと少しで体に穴を開けられるところであった。


「注意が疎かねぇ、フレイング・ダイナ。うちの妹で手いっぱいかしら」

「うぅ……高い所から一方的に……」


フレーはマニーに気を配りつつも、ピューレから距離を取るべく後ずさる。

正直言って、相性最悪の組み合わせだ。こちらの技が効かない時点で致命的である。


「ごめんなさい、フレー、私……っ」

「だ、大丈夫。私が絶対何とかするから」


二度も大規模な力を使ったエーネは流石に回復が間に合っていないようだった。外傷は治せても、疲労を治すことは難しい。

どうにか方法は無いかと模索していたその時。


「自分が何をしたかわかっているのか……!?」


レイティと対峙するザンの、込み上げるような怒声が聞こえてきた。


「ビートグラウズの現状を知ってるか? みんな毎日不安で仕方ないんだ! グレイザーは危うく戦争を始めて、多くの死者が出るところだった。あんたも指導者なんだろ? 良い加減目を覚ませ!」

「…………」


レイティは何も言わない。ただ無言で、じりじりとザンに距離を詰める。


「大丈夫よ、坊や」


代わりに答えたのは、未だ高所にいるマニーだった。


「そんなことになる前に、あたしが支配するわ。ビートグラウズを手中に収めて、王国軍にも負けない軍を作り上げるの!」

「……愚か者が……!」


ザンが歯ぎしりすると同時に、レイティの拳が彼の胸を目掛けて放たれる。


「ぐっ……!!」


刀の峰でそれを受け止めるも、衝撃のあまり彼の体は後退していた。


「仲間が、気になる?」

「……!! ラン・フレイム!」


意識の外からピューレの一撃が飛んで来る。それを避けつつとっさに炎を放ったが、例によって手で受け止められた。


「はあああっ!!」


エーネもなけなしの力で水流を放つ。しかし水が意思をもって避けているかのように、やはりピューレの体には一切干渉できない。


「無駄だよ。無駄だけど……フレイング・ダイナ」


ピューレは顎を引き、こちらに銃口を向けながら言った。


「私、あなたに興味がある。だから、取引したい」

「は……?」

「降参したら四人とも、命は絶対助ける。だからあなたを、『研究』させてほしいの」

「け、研究!?」


理解不能な提案に、フレーはぎょっとして声を上げた。しかし相手は大真面目である。


「あなたのその、魔法。とても興味深い」

「だ、誰がそんなこと! 大体、何のために!?」

「……それは言わないよ」


ピューレと問答を行っている最中にも、マニーによる銃撃の音が室内に響いていた。

現在攻撃を向けられている相手は────ザンだ。


「あはははっ! こっちの方がやりがいがあるわね。魔法使い相手じゃ簡単に防がれちゃうもの」

「っ、厄介だな……」


ザンは器用に光線を避けつつ、迫り来るレイティと熾烈な戦いを繰り広げる。年齢など関係無いと言わんばかりの彼女の身のこなしに、彼は防戦一方だった。


「逃れられはしないぞ……!」


しかしそれでも、ザンは食らいつくことをやめない。レイティの岩のような一撃を受け止め、汗を垂らしながらも訴えた。


「あんたこそが、この街の指導者なんだ! それを……あんたを信じてたみんなを裏切って、こんなこと! けど間に合う……今からでも、この街は立ち直れる!」


ザンは拳を弾き返し、今一度刀を構え直す。


「だから、過ちを認めて────」


彼の言葉は不自然な形で途切れた。レイティが後退した際に髪が浮き上がり、ザンの視界にくっきりと映ったのだ。


彼女の……自我というものが一切感じられない、虚ろな瞳が。

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