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ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第2章《愛も蝕むポイズンロード》

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37:決戦 ポイズン・ガールズ

重力に従って落下する四人は、やがて一本の管で合流した。管は垂直ではなくやや前方に向かって伸びているものの、落下の余韻でかなりスピードが付いている。


「うわあああああああっっ!!」

「エーネ、エーネっ!! 落ち着いて!」


エーネ、マインド、フレー、ザンの順で暗闇を滑り続ける。よりにもよって先頭の彼女が、号泣しながら悲鳴を上げ続けていた。


「くっ、お前はエーネを頼む! フレー、俺らも着地の準備をするぞ!」

「こんな時くらい名前で呼んでほしいなぁ」

「言ってる場合か!」


狭い通路では身動きを取ることすらままならない。今ここで噴射を使えば、前の二人を黒焦げにしてしまいそうだ。

そうこうしているうちに、広い場所に放り出された。体感で地表までの距離を測る。この高さならたとえ落下しても────


「しっ、ししし下が全部っ、棘ですーーーーーーっっ!」

「はっ!?」


エーネの言う通り、フレーたちに用意された床は全面が棘で埋め尽くされていた。刹那、様々な思考がフレーの脳裏を駆け巡る。

今こそ噴射の使い時だろうか。しかし瞬時に全員を回収するのは難しい。マインドの体は鉄製だから、せめてザンとエーネだけでも……


などと考えているうちに、フレーは自分がそもそも集中できていないことに気が付く。


「やばいっ……!」

「ちっ、俺の剣撃で破壊するしか……!」


ザンが刀を構えた直後。腕を青白く発光させたエーネが、無我夢中で叫んだ。


「お願いっっ、押し流して!!」


瞬間、フレーが今まで見た中でも最大規模の水流が生み出された。巨大な渦に絡めとられ、フレーたちは着地することなく奥まで流されていく。


「……! エーネ、ここだ! 棘が無くなってる!」


真剣すぎて声も出せないエーネに、下を見ていたザンが声高に言った。彼女は何とか反応できたらしく、やがて水が引いていく。


「あっ」


何だか鈍い音を立てて頭から落下したのはマインドだった。


「え、だ、大丈夫!?」

「ごめんねフレー。機人……というか機械は全部、水に弱いんだ……」

「と、とりあえず大丈夫そうだね。それから……」


フレーは慌ててエーネの方を見る。ザンに助け起こされながら、濡れた髪を顔全体に張り付かせた弱々しい姿がそこにはあった。


「エーネ! あ、ありがとうね。お疲れ様……!」

「うう……さ、寒い……」


一瞬にして大量の魔力を使ったからか、エーネの顔は疲れ切っていた。フレーとは力の残量が全く違うのだ。それに恐怖体験のせいか、血の気が引いている。


「今あっためるね……ボン・フレイム」


フレーは彼女の前に手をかざし、焚火程度の炎を出現させる。エーネが手をかざして暖を取ろうとしたが、見かねたようにマインドが人差し指を横に振った。


「フレー、それじゃ日が暮れるよ」

「え?」

「見てて、ヒート・エレキ」


彼の言葉と同時に、四人の周囲が強い熱に包まれた。フレーは株を奪われたような気持になりながらも、見る見るうちに乾いていく服を見て、改めて機人の多機能さに目を剥く。


「ふわぁ……二人ともありがとう……!」

「……全員、警戒しろ」


身を包む温かさに安心してエーネが微笑んだ時。ザンの鋭い声が飛んだ。

彼は暗闇の先を見据え、刀の柄に手をかける。


「おでましだ」


「ふふふ……あはは、ははははっ……!!」


薄暗かった部屋に徐々に明かりが灯されていく。床や天井は一面灰色で、予想通りとても殺風景だった。


「囲まれてるみたいだね」


そしてマインドの言う通り、フレーたちの四方は操られた市民に埋め尽くされていた。虚ろな瞳をぎらつかせ、今か今かと襲撃の時を待っている。


「あっははははははっっ!! まさか、こうも簡単に引っかかるなんて! 棘を避けられたのは残念だけど、どちらにせよ袋の鼠ね」


少し奥の方……フレーたちが今いる地面よりもずっと高くなった場所から、甲高い笑い声が聞こえてきた。

覚悟を持って、全員で視線を向ける。


「改めまして、ボーイズ・エン・ガァールズ!!」


この地に巣食う悪の科学者。改めて見ると、その佇まいは妹よりも数段迫力があった。


「ようこそ、我らポイズン・ガールズの根城へ。妹がお世話になったわね?」

「うん、お世話になった」

「ピューレ、そこは口を挟まなくても良いのよ?」


既に光銃を持ち、臨戦態勢のピューレに見守られながら、彼女は一歩前に進み出る。ウェーブのかかった薄紫色の髪が揺れ、独特な色香が振り撒かれた。



「初めまして。元・アメノ王立科学研究所の副長官。マニー・エーションよ」



民のために在る避難豪で、その最大の敵が深々と会釈する。彼女の不気味な礼儀正しさに、フレーたちは思わず顔を引きつらせた。


「それで、研究所に仕掛けた火炎探知機に引っかかって、ここに落とされたおバカさんは誰?」

「…………と、とか言って、私が魔法使わないかもってひやひやしてたんでしょ?」

「破壊するなら燃やすのが確実でしょう? 負け惜しみはやめなさい」


色々と見透かされ、フレーは若干赤くなる。


「それはそうと、あたしが名乗ったんだから、あんたたちも自己紹介するのが筋じゃないかしら? ああ、とはいえ────」


姉妹の視線がマインドの方に寄せられた。


「あたしたちが良く知る子もいたわね。元気そうじゃない、704」

「今の僕はマインドだよ。フレーの味方。君たちを下しに来たんだ」

「……機人が一人の人間に、ここまでの執着を見せるなんてね。まあ良いわ」


マニーは肩をすくめてから、髪を払って不気味な笑みを作った。


「さあ、選ばせてあげるわ。あたしたちに付き従い、共にビートグラウズを攻めるか……それとも今ここで無様に散るか。あたしとしては前者が好ましいわね。あんたたち、単体でもまあまあ強そうだわ。そっちの銀髪のお嬢さんは、そうでもなさそうだけど」

「……っ……」

「前置きが長いな」


ザンが辟易とした様子で刀を向けた。


「やることはシンプル……最後に立つのはどちらかだけだ。こっちには機人だってい────」


「ラン・フレイム!!」


ザンが言い終わる前に、フレーはマニーの眉間に向けほぼ予備動作無しで炎を放った。彼女は声も上げず、首だけ動かしてそれを避ける。


「……また、不意打ち……」


ピューレが目を細めながら呟いた。


「おいフレー、話してる途中に遮るのはやめろ! 一回も成功してないのに味を占めるな!」

「だ、だって、魔法効かないってわかってるけどすごい腹立たしくて……私たちが今無事なの、エーネのおかげじゃん!!」

「あ…………」


それまで無言だったエーネが、色々な感情がこもった声を漏らす。

今の一連の流れで興が削がれたのか、マニーが懐から光銃を取り出した。


「お姉ちゃん、気を付けて。フレイング・ダイナは、侮れない。あいつは、その気になれば、この施設も破壊できる」

「……ノーブルタワーのようにね」


情報はしっかり伝わっているらしい。市民を巻き込む懸念からあの技は使えなかったが、向こうはそのことにも勘づいているのだろう。


それにしても、もしグレイザーがここにてくれたら、もっと楽に片付けられたのだろうか。こんな風に勝手のわからない場所で、洗脳された市民たちに囲まれることもなく……


「いつかグレイザーが街に戻った時に、安心できるようにしておくのが私たちの役目」


フレーは自分に言い聞かせるように、一言ずつ重みを込めて言った。


「そのためにはポイズン・ガールズ……二人はやっぱり、消しておかないと」

「……へぇ……」

「こっちも自己紹介するよ。私はフレイング・ダイナ。ポイズン・ガールズを倒してあの街を守るために、ここに送られた魔法使い」


フレーが右腕をかざすと、赤い火の粉が宙を舞う。ポイズン・ガールズは静かに銃口をこちらに向けた。


「ここが正念場よ、ピューレ」

「うん……どこまでも、行くよ。お姉ちゃん」


フレーたちはいつも詰めが甘い。今回も結局罠に嵌ってしまって、状況は圧倒的不利だ。

それでも最後は、勝つと決めているから。


「頑張ろ……ザン、エーネ、マインド! エーネは無理しないでね」

「ああ。俺がしっかり決めてやる」

「うん……! でも、全力を尽くします!」

「任せてよ。僕を誰だと思ってるのさ」


姉妹に向けた手のひら越しに、フレーはあらん限りの声量で凄んだ。


「ポイズン・ガールズ! 年貢の納め時だよ!」

「うふふ……滾るわね、久しぶりに。この感情、王都以来かしら……」


マニー・エーションの赤い眼光に、フレーは自身の炎を重ねた。



「二人を倒して、シュレッケンを解放する! この街で溜めた毒の山────灰も残らないと思え!!」


「楽園に紛れ込んだ毒物……我らが最上の毒をもって、制してあげるわ! 愛する自我に別れを告げておくことね!!」

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